高円寺で毎日銭湯に入る癒し…老朽化したアパート跡地にできた「小杉湯となり」|東京都杉並区

2023.8.30 | Author: 池田アユリ
高円寺で毎日銭湯に入る癒し…老朽化したアパート跡地にできた「小杉湯となり」|東京都杉並区

毎週日曜11時から13時まで、全国のコミュニティFM(一部地域を除く)を結んで放送している地域SDGs情報バラエティ『ロコラバ』。今回は7月16日放送の『地域人』のコーナーから、東京・高円寺で生まれたホッとするコミュニティを紹介します。

 

新宿駅から電車で10分、駅前に広がる商店街には古着屋やカフェ、ライブハウスに居酒屋などが立ち並ぶ人気の街・高円寺。作家やアーティストも多く集い、「中央線文化」と呼ばれる独自のカルチャーを牽引してきました。

 

この街で昭和8年に生まれた銭湯「小杉湯」の周辺で、今また新たな文化の拠点が誕生しました。銭湯の常連たちがつくった「小杉湯となり」です。地域の人々を巻き込んで運営されるこの会員制シェアスペースでは、銭湯のようなほどよい距離感で多様な暮らしが持ち寄られています。

 

今回は、このプロジェクトを運営する株式会社銭湯ぐらしの代表取締役・加藤優一(かとう・ゆういち)さんにお話を伺いました。

「もともと老朽化したアパートだった!?

――加藤さんは1987年の山形県生まれです。株式会社銭湯ぐらしの代表を務め、東北芸術工科大学の専任講師もされています。 デザインとマネジメントの両立をテーマに、建築の企画、設計、運営、研究の一連のプロセスに携わっています。銭湯を起点にしたシェアスペースの経営、地域資源を生かした空き家再生など、事業の視点からまちづくりを実践中。7月26日には『銭湯から広げるまちづくり〜小杉湯に学ぶ、場と人のつなぎ方〜』を出版しました。加藤さん、高円寺にある銭湯のそばに一風変わった場所をつくったそうですね。

はい、銭湯の真横にある敷地に「小杉湯となり」という、シェアスペースを運営しています。

――なぜ、つくろうと思われたのでしょう。

この場所には、小杉湯が所有する解体前の風呂なしアパートがあったんです。当時、僕は設計事務所に勤めており、常連として銭湯に通っていました。ある日、番台でオーナーさんと仲良くなって、「隣に空いているアパートがあるんだけど、何かしてみない?」と聞かれたんです。

というのも、そのアパートは老朽化して解体予定だったんですが、居住者の立ち退きが比較的スムーズだったため、解体までの1年間、ぽっかり空いている状況で。せっかくなので活用させてもらうことになりました。

高円寺は若いクリエイターやアーティストが多い町です。そこで10部屋あった部屋にさまざまなクリエイターたちに住んでもらい、1年間ともに暮らしながら銭湯の可能性を探るプロジェクトを立ち上げました。

 

▼毎日銭湯に入る暮らしが楽しめる

――実際にどんな方が住んでいたんですか。

ミュージシャンやイラストレーターなどさまざまです。銭湯でライブをしたり、銭湯つき民泊に取り組んだりといろんな実験をしていましたね。何が良かったって、毎日銭湯に入る暮らしが本当によくて(笑)。入居者はわりとワーカホリック気味な人が多かったんですが、風呂なしアパートなので毎日銭湯に入るじゃないですか。そうすると、身も体もほぐれるんです。デジタルデトックスが1日1回あるっていう暮らしは、メリハリがついてすごくいい生活だったんですよね。

1年後、このアパートは解体されてしまったわけですが、「またアパートを作っても、住んでいる人しかその体験ができないな」と思っていました。それで、「みんなが使えるシェアスペースみたいなものを建ててはどうか?」という企画が生まれたんです。

オーナーさんと話し合ったところ、「よし、やろう!」ということになって、アパートに住んでいたメンバーを中心に会社を立ち上げ、「小杉湯となり」の企画運営を行うことになりました。

――おもしろいですね。実験から始まって、みんなが社員になっちゃった(笑)。


会員制のシェアスペースとして方向転換

――アパートを取り壊した敷地には、一軒家のような建物をつくられたそうですね。

3階建てになっている建物です。オープン当初は1階がカフェで、2階がコワーキングスペース、3階では宿泊事業を行っていました。

2階のコワーキングスペース

――なるほど。住む場所ではないんですね。

そうなんです。ただ、オープンした2週間後に緊急事態宣言が発令されて。2年ぐらいかけて準備していた計画が水の泡に……。そこで、会員制に切り替えることにしました。

小杉湯のようにいろんな方に使ってもらいたかったので、会員制に切り替えるかどうかはすごく悩んだんですよ。ただ、銭湯のような場所をつくるには、常連さんが必要不可欠だなと気が付いて。会員を常連さんと捉えることにしました。そういった人がいるからこそ、場の価値や文化が保たれているんですよね。その上で、コロナが落ち着いたら、会員以外にも間口を開いていこうと考えました。

 

高円寺だからこその「銭湯のあるまちづくり」

――会員の方はコワーキングスペースで作業をし、銭湯にも入れるのですね。

そうですね。月額22,000円で1階から3階まで使いたい放題です。2階はコワーキングのままですが、1階のカフェは会員のシェアキッチンにして、3階は個室として1時間貸し切ることができるようにしました。

また、毎月10枚のチケットが付くので、銭湯や近隣のお店の割引券として活用でき、地域の方々との繋がりを感じてもらえると思います。

――個人事業主の方なら、この価格でオフィスを構えられるという考え方もできそうです。

フリーアドレスのコワーキングの相場ぐらいなので、そこに銭湯が付いている感じです。

――加藤さんがお考えになる、現代のまちづくりとは?

まちづくりは、1人1人の暮らしづくりの積み重ねだと思っています。それぞれの地域によってあるべき暮らし方があると思うんですね。僕がたまたま高円寺で見出したのが、「銭湯のあるまちづくり」でした。住んでいる人たちがほしい暮らしづくりを、そのエリアで実装していくことが大切だと思います。

――銭湯でいろんな人たちとコミュニケーションをすることが、まちづくりに繋がりそうですね。

銭湯の良さは、コミュニケーションを選べるところだと思っています。決してみんなと会話する必要はないんです。1人でこもりたい時は自分と向き合える。それでいて、言葉を返さなくても人との繋がりを感じられたり、番台で話したりもできる。その日の気分に合わせて人との関係性を選択できることが現代的だなと感じます。

――最後に、リスナーの皆さんにメッセージをお願いします。

7月26日に、『銭湯から広げるまちづくり〜小杉湯に学ぶ、場と人のつなぎ方〜』という本を発売しました。よろしければ手に取っていただけたら幸いです。ぜひ、高円寺に遊びに来てください!

――加藤さん、ありがとうございました!

***

(番組パーソナリティ 横田)
高円寺、いいですよね。劇場があるので何回か行ったことがあります。夏場だとその合間に汗をかいたので銭湯に行く人がいました。いろんな文化が合わさるまちって、素敵ですね。

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文・構成=池田アユリ
編集 = ロコラバ編集部

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