全国のコミュニティFMをネットしてお送りするラジオ番組『ロコラバ』。12時台にお送りしている「東京ロコラバ・ランチ」では、「東京で“ふるさと”をいただく」をテーマに、全国各地のご当地グルメが集まる東京で味わえる“ふるさと”をご紹介しています。今回は奈良県が東京・新橋で運営する奈良県ブランドショップ「奈良まほろば館」にお伺いし、同県桜井市で作られる伝統的な手延べそうめん「三輪そうめん」を体験しました。
日本のそうめんの元祖とされる三輪そうめん。そのルーツをたどると、現在の奈良県桜井市にあり、三輪山(みわさん)を御神体とする日本最古の神社、大神(おおみわ)神社にたどり着きます。
いまから1200年以上前、大神神社のご祭神の子孫にあたる従五位上大神朝臣狭井久佐の次男・穀主(たねぬし)氏が、飢饉と疫病に苦しむ民の救済を請願。その際、神様から受けた啓示をもとに小麦を石臼で挽き、湧き水でこねて糸状の麺を作り上げました。これが、現在まで続く三輪そうめんの起源と伝えられています。
江戸時代には、お伊勢参りに訪れる人々のごちそうとして人気に。当時の“美食カタログ”として書かれた書物『日本山海名物図会』にも、「三輪そうめんは日本一」との記述が残っています。
ちなみに、三輪そうめんと並んで「日本三大そうめん」に数えられる香川県小豆島の手延べそうめん「島の光」は、お伊勢参りに訪れた小豆島の人が、三輪そうめんの製法を学び、島に持ち帰ったのが発祥だそう。まさに、日本のあらゆるそうめんの源流とも言える存在なのです。
さらにユニークなのが、毎年の卸値を“占い”で決めるというところ。毎年2月に大神神社で行われる「卜定祭(ぼくじょうさい)」では、「高値(たかね)」「中値(なかね)」「安値(やすね)」と書かれた小さな紙の玉に筒状の麻を近づけ、付着したものを神意として、三輪そうめんの初取引の参考にされています。
製法から実際の卸値に至るまで、“神様のお告げ”が深く関わる三輪そうめん。奈良という土地が持つ独自の歴史と文化が、一本一本に深く刻まれています。
三輪そうめんの大きな特徴は、なんといっても圧倒的なコシの強さ。ほかにはない味わいを作り出しているのが、次の3つの要素です。
1つ目は、麺に含まれるタンパク質の多さ。一般的な手延べそうめんのタンパク質含有量が約9.3%であるのに対し、三輪そうめんのタンパク質含有量は約9.5%以上と多く含まれています。
2つ目は、生地の熟成方法。そうめんは湿度と気温の低い冬場に麺作りが行われますが、三輪そうめんの場合は、生地を作ったのち、あえて高温多湿な梅雨の時期を越えて寝かせることで高温発酵を起こし、麺にしなやかな弾力が生まれます。この工程を経ることを、地元では「厄を越す」といい、2回梅雨を越したものは「古物(ひねもの)」、3回以上梅雨を越したものは「大古物(おおひねもの)」と呼ばれる高級品として扱われます。
そして3つ目が、圧倒的な麺の細さ。一般的なそうめんの太さは10gあたり70〜80本程度とされていますが、三輪そうめんは、もっとも細いもので10gあたり120本以上。コシの強さに加えて、一般的なそうめんの約半分にあたる細さが組み合わさることで、繊細さと力強さを併せ持つ、独特の味わいが生み出されるのです。
今回伺ったのは、東京・新橋にある奈良県ブランドショップ「奈良まほろば館」。中央通りに面した店舗は、一面ガラス張りの窓がキレイ。蘇芳色(すほういろ)ののれんが目を引きます。
1Fでは、奈良の食材を使った料理を楽しめるCafe&Barスペースが営業中。今回はこちらで、三輪そうめんを扱ったメニューをいただきました。
最初にいただいたのは、炙り柿の葉寿司セット(税込1,100円)。炙った鯖と鮭の「柿の葉寿司4個と三輪そうめん、そして日替わりスイーツがついた豪華なメニューです。お盆とお箸には日本を代表する木材「吉野杉」が使われており、器は奈良市・大和郡山市に窯元がある陶器「赤膚焼(あかはだやき)」と、細部にいたるまで奈良を感じることができます。
三輪そうめんをお箸で持ち上げた姿は、まるで丁寧に作られた織物を見ているかのようです。細くしなやかな麺は、透き通ったつゆを抱えて幾重にも絡み合い、キラキラと美しく輝きます。
そっと口元に寄せると、きめの細かい麺の質感が、唇を通してダイレクトに伝わってきます。粒立っている、という表現はお米を食べるときに用いられる表現ですが、三輪そうめんもまた、一本一本の持つ表情が手に取るように伝わってくるのがわかります。時間をかけ、じっくりとその感触を確かめながら味わっていく──。まさにスローフードとしての楽しみ方が、そこにはありました。
うっとりと麺の感触を味わったら、いよいよ満を持して口のなかへ。具材のしめじとねぎ、さらに軽く添えられたおろししょうがが華を添えます。
口の中に入れて、そっと噛みしめること数回。しなやかな麺が束になり、「プツ、プツ、プツ」と、口のなかではっきりと音を立てます。その感触は、まるでパスタのアルデンテのよう。絹を思わせるなめらかな舌触りとともに、三輪そうめんが持つ凜としたコシを五感で楽しむことができました。
さらにもう一品、季節のそうめん(税込800円)もいただきました。夏は冷たく、冬は温かい「にゅうめん(温麺)」で。今回は味の違いを確かめるべく、温麺としていただきました。
温麺としていただく三輪そうめんは、冷たく絞めた麺とくらべ、どこかフカフカとした噛み応え。その一方で芯はしっかりと保たれており、やわらかすぎない絶妙な弾力をキープしています。さらにじっくり麺を見ると、ほどよくつゆを吸い込み、ほんのりきつね色に。やさしい味わいの出汁とあいまって、思わず顔がほころんでしまいました。
そうめんに添えられているのは、奈良県の吉野地方で親しまれている「田舎揚げ」。「田舎」という文字が冠されていますが、店員の方いわく、「吉野では誰も『田舎揚げ』とは呼ばない」のだそう。「みなさん、吉野という土地に誇りを持っているんです」との言葉に、いにしえの土地としての強い矜持を感じずにはいられませんでした。
さらに、「これをかけると、もっと味わいが深くなりますよ」と、店員さんから手渡されたのが、七味唐辛子に生薬としても親しまれるセリ科の植物「当帰(トウキ)」の葉などを加えた「大和当帰十味(やまととうきとうみ)」。
パラパラとふりかけると、当帰とともにさまざまな香辛料の香りがはじけ、なんとも食欲をそそる香りに。この時点で1杯そうめんを食べていましたが、さらにお腹が空いてしまいました。
まさか、ここまで語り尽くすことになるとは。「奈良まほろば館」で味わう一杯の三輪そうめんには、奈良の歴史とストーリーがたっぷりと溶け込んでいました。
三輪そうめんの味にお腹と胸をいっぱいにしたあとは、同じフロアにある名産品コーナーへ。デパートのワンフロアほどもあるかと思われる広々としたスペースには、三輪そうめんがズラリと並んでいます。
三輪そうめんのパッケージに燦然と輝く「GIマーク」。地理的表示保護制度に基づいて農林水産省の認証を受けた印ですが、奈良県の物産品では、三輪そうめん(登録名称は「三輪素麺」)だけに与えられているのだそう。
さらに、地元・奈良県三輪素麺工業協同組合では、組合員である製造元が生産したものに独自の認証マークを発行しています。「鳥居印の帯紙」と「金色の鳥居シール」が貼られていたら、正真正銘の「三輪そうめん」の証なのです。
それにしても圧倒されるのが、ラインアップの多さ。そうめんといえば乾麺のイメージですが、「生そうめん」というものもあることを知りました。興味深くジーッと眺めていたら、番組プロデューサーに「お土産にどうぞ!」と買ってもらえることに。麺には吉野葛が練り込まれており、ツルツルシコシコとした舌触りがなんともクセになる一品でした。
こちらは、そうめんを干す際、竿にひっかけることで出来る“折り返し”の部分を集めた「三輪ふし」と呼ばれる商品。地元では、お味噌汁の具などに入れて食べられているそうです。製造時に出た端材も無駄にせずいただく、まさに三輪そうめんの産地だからこその商品。こちらも家で食べてみたところ、プルプルと舌の上を転がり、なんとも楽しい食感でした。
ほかにも、麺にしょうがと出汁を練り込んだ「生姜めん」や、具材とスープがセットになった「スープ素麺」など、三輪そうめんの魅力をさまざまな角度で楽しめるアイデア商品がたくさん。
知れば知るほど扉が開いていく、はてしなき三輪そうめんの世界。今後も引き続き、その魅力を追いかけていこうと心に誓うのでした。
■奈良まほろば館
JR・東京メトロ「新橋」駅から徒歩3分
営業時間:11:00〜20:00(1F Shop / Cafe & Bar)
定休日:年末年始
03-6263-9656
取材・文 = 天谷窓大
企画・撮影 = ロコラバ編集部(株式会社トランジットデザイン)