全国のコミュニティFMをネットしてお送りするラジオ番組『ロコラバ』。12時台にお送りしている「東京ロコラバ・ランチ」では、「東京で“ふるさと”をいただく」をテーマに、全国各地のご当地グルメが集まる東京で味わえる“ふるさと”をご紹介しています。
今回は、東京・西新宿の「釜焼鳥本舗 おやひなや 西新宿店」で、香川県丸亀市のご当地グルメ「骨付鳥(ほねつきどり)」を体験。一度見たら忘れない、インパクト抜群な姿に込められた魅力に迫りました。
骨付鳥は、香川県丸亀市を発祥とするご当地グルメ。鳥の骨付きモモ肉を塩とコショウで味付けし、焼き上げる料理です。1953年、丸亀市の居酒屋「一鶴(いっかく)」の創業者、近藤定市さん・田鶴子さん夫妻が、ハリウッド映画のワンシーンで目にしたローストチキンをヒントに考案。その後、横浜や大阪へと出店したことにより、全国的にその名が広まりました。
最大の特長は、パリパリに焼き上げられた鶏皮とジューシーな肉がおりなす、シンプルながらも強力な風味。生後60日以内の若鶏を使った「ひな」と、卵を産み終わった生後180日以上の親鳥を使った「おや」の2種類があり、「ひな」は若鶏ならではのふわりとした口当たり、「おや」は成熟された肉の持つ強い旨味をダイレクトに味わうことができます。
丸亀市ではふるさとのグルメとして骨付鳥の普及に力を入れており、公式ガイドブック「骨付鳥大百科」を作成して観光案内所で配布。さらに、骨付鳥をモチーフにしたマスコットキャラクター「とり奉行 骨付じゅうじゅう」を考案し、市の公式観光キャラクターとして採用しています。
JR新宿駅の南口を出て、西新宿のビル街方向へ歩くこと3分。歓楽街の一角に位置するビルの5Fに、東京で骨付鳥を味わえるお店「釜焼鳥本舗 おやひなや 西新宿店」があります。
のれんをくぐると、昭和30年代を彷彿とさせるレトロな内装がお出迎え。「三丁目の夕日」の世界にタイムスリップしたような気分で、のんびりと香川のグルメを満喫することができます。
お店を経営するのは、四国エリアで人気のうどん店「大真(だいしん)うどん」を展開する、有限会社大真。2007年、西新宿にオープンした「大真うどん」の東京1号店が前身といいます。
「この頃はまだ、東京で骨付鳥を楽しめるお店というものがほとんどありませんでした」と当時を振り返るのは、釜焼鳥本舗 おやひなや 西新宿店の店長、石塚隆行さん。
「香川をはじめ、四国全体のソウルフードとして愛されてきた骨付鳥をもっと多くの方に知っていただきたい! という思いから、お店をオープンしました」(石塚さん)
「おやひなや」と、骨付鳥そのものを表す名前を掲げつつ、お店で提供する骨付鳥は「釜焼鳥」という独自の名前で提供。それには、地元への深いリスペクトの気持ちが込められているといいます。
「地元である香川では、さまざまなお店がそれぞれのレシピで骨付鳥を提供しています。いわば、骨付鳥は“みんなのもの”。お店の屋号にはあえて『骨付鳥』を付けず、私たちなりの骨付鳥を提供するという意味で、『釜焼鳥』と独自の名前を付けました」(石塚さん)
西新宿店のほかに有楽町店、立川店、前橋店など、多くの系列店を展開する「おやひなや」ですが、すべての店舗で味にばらつきが出ないよう、調理手順は厳格に統一されているそう。「使用する調味料の分量も、ミリグラム単位で細かく決められています」(石塚さん)
香川で親しまれている味を忠実に踏襲しつつ、その多様性を尊重し、さらに自分たちの店ならではの独自性を大切に守る——。石塚さんの言葉の背景には、「ご当地の味」に対する、並々ならぬ意志を感じます。
石塚さんのお話に感銘を受けつつ、いよいよ骨付鳥を実食。
一つひとつ生からじっくり時間をかけて焼き上げられた「おや」と「ひな」は、見た目にもわかるパリパリ具合。はっきりと目で見えるほどにたっぷりまぶされたスパイスの粒と、肉から湧きでた黄金色の肉汁が激しく食欲をそそります。
まずは、「おや」から。その見た目はまるで、チキンを通り越して骨付きカルビのよう。ボリューミーなお肉を食べやすいよう、石塚さんが自らハサミで切り分けてくれました。
ひとくち噛みしめた瞬間、堰を切ったように口の中へ流れ込んでくる肉汁と力強いコク味。噛めば噛むほどその風味はどんどん濃くなっていき、頭の中が美味しさ一色に染まっていくのがわかります。
親鳥の芳醇な味を一身に浴び、あふれ出る肉汁の海を泳ぎ、スパイスの砂浜を歩くその様子は、まさに恍惚のひとこと。気がつけば、目の前の美味しさ以外に考えられなくなっている自分がいました。
続いて味わった「ひな」は、「おや」とは一転、絶妙なサッパリ風味。
若鶏ならではのふんわりとした食感をスパイスが絶妙な加減で広げ、不思議な軽快さを生み出しています。しっかり味がありながらも、どんどん進めることができる、リズミカルな食感。「おや」と「ひな」の2種類を同時に行き来することで、それぞれの鶏肉としての味の違いがクッキリと浮かび上がります。
「お肉を味わったら、お皿に残った肉汁に、ぜひおにぎりを浸してみてください」(石塚さん)
お店のサイドメニュー「塩おむすび」をオーダーし、お皿にヒタヒタにたまった肉汁にダイブ。真っ白なおむすびが、肉汁を含んで黄金色に輝き出します。ホロホロになったお米を「おっとっと」と口に放り込んでびっくり! その味はまるで高級な中華料理店のチャーハンを食べているかのような濃厚さです。
鳥から出た旨味たっぷりの脂とお米が作り出す、壮大な相乗効果。もはや、これだけで一品料理として味わえるほどの美味しさでした。鳥のポテンシャルをここまで引き出すなんて……。骨付鳥、恐るべし……。
「そうそう、骨付鳥と一緒に楽しむために開発されたお酒があるんです。ぜひご一緒に味わってみてください」(石塚さん)
“骨付鳥専用のお酒”との呼び名を持つ「讃岐くらうでぃ」は、通常の3倍の量の白麹を使って醸されたにごり酒。乳酸菌飲料を思わせるさわやかな酸味が、鳥の濃厚な旨味に満ちた口に、新たな風を吹き込みます。しかも度数は6%とビール並。骨付鳥とともに、ぐいぐいと飲めてしまいます。
濃厚なコク味とさわやかな香りをいっきに体験できる、骨付鳥の食体験。空になったお皿を眺めていると、さっきまでの出来事が、まるで夢であったかのような気分です。
「さっきまでの出来事は、本当だったのだろうか……?」
気づけばもう一度、骨付鳥を頼もうとしている自分がいました。
食べる者を魅了してやまない「おやひなや」の骨付鳥。鳥の種類にも相当なこだわりがあるのでは……と思いきや、「いわゆる“ブランド鶏”は、あえて使っていない」のだそう。
「四国には美味しい地鶏がたくさんありますが、これらを使うと、“その鶏の味”が前面に出すぎてしまうのです。そうなるともはや、『骨付鳥』とは別の料理と言わざるを得ません」(石塚さん)
「地元から取り寄せすぎてしまうと、地元で頑張っているお店のみなさんの分がなくなってしまう」と石塚さん。「大切なのは、その土地ごとで手に入る鶏の味を使って骨付鳥を作ること」といいます。
「それぞれの場所の数だけ『骨付鳥』があるということが、なにより大事なのだと思います」(石塚さん)
香川県が『うどん県』を掲げて話題になりましたが、丸亀市でも『骨付鳥市』という名前を掲げるほど、地元の人々の骨付鳥への愛は強いそう。名物を挙げる際も、「讃岐うどんときたら、次に骨付鳥」(石塚さん)というほど、切っても切れない存在だといいます。
「普通、地元を離れて上京したら、地元のものは避けたがるもの。でも、香川の人々は違う。骨付鳥は、『どんなに離れても、常に食べたい』ソウルフードなんです」(石塚さん)
お店のアルバイト店員さんの中には、香川から上京し、東京の大学に通う学生さんが多いののだそう。「『ここで働きたい』と、わざわざうちの店を選んで働いてくれている人もいます」と、石塚さんは目を細めます。
「お店の骨付鳥をきっかけに香川や四国に興味を持っていただいて、『こんど旅行へ行くんです』とお声をかけていただいたり、香川から出張で東京にいらした方が『地元の味が食べたい!』と食べに来てくださったり、とても素敵な循環が生まれています。『おやひなや』が、香川と東京をつなぐ“扉”のような存在になれたら、とても嬉しいですね」
■釜焼鳥本舗 おやひなや 西新宿店
東京都新宿区西新宿1-19-13 青鈴ビル5F
JR「新宿」駅 南口 徒歩3分・京王線「新線新宿」駅 7番出口すぐ
月~金:11:30~15:00(14:30ラストオーダー)/ 17:30~23:30(23:00ラストオーダー)
土・祝:15:00~23:30(23:00ラストオーダー)
定休日:日曜・年末年始(月曜日が祝日の場合は日曜営業・月曜定休)
050-1861-3604
取材・文 = 天谷窓大
企画・編集 = ロコラバ編集部(株式会社トランジットデザイン)