そうめん専門店「そうめん そそそ」で味わう、小豆島のブランドそうめん「島の光」

2022.5.26 | Author: 天谷窓大
そうめん専門店「そうめん そそそ」で味わう、小豆島のブランドそうめん「島の光」

全国のコミュニティFMをネットしてお送りするラジオ番組『ロコラバ』。12時台にお送りしている「東京ロコラバ・ランチ」では、「東京で“ふるさと”をいただく」をテーマに、全国各地のご当地グルメが集まる東京で味わえる“ふるさと”をご紹介しています。今回は「そうめん そそそ 恵比寿本店」にお伺いし、香川県・小豆島町のブランド手延素麺(てのべそうめん)「島の光」を体験。全国的にも珍しい「そうめん専門店」立ち上げの背景には、深いドラマがありました。

小豆島の塩と風、ごま油が作り出す唯一無二の味

瀬戸内海・播磨灘に浮かぶ人口3万人弱の島、小豆島(しょうどしま)。オリーブやごま油、醤油と並んで島の名産となっているのが、機械に頼らず人の手で延ばして作られる「手延べそうめん」です。江戸時代初期、現在の香川県小豆島町・池田地区の島民が、手延べそうめんの元祖「三輪素麺(みわそうめん)」で著名な現在の奈良県三輪地方で製法を学び、農閑期の副業として島に広めたのが発祥と言われています。

「島の光」は約400年もの歴史を持ち、地元の小豆島手延素麺協同組合によって受け継がれている“ブランドそうめん”。奈良の「三輪素麺」、兵庫の「揖保乃糸(いぼのいと)」とともに、“日本三大そうめん”に挙げられています。

その材料となるのは、組合が推奨する小麦と瀬戸内海の塩。練り上げた生地を麺の形にのばす「油返し」という工程では、同じく小豆島で作られた「かどや製油」のごま油を塗布し、酸化の防止と風味の安定を図ります。数ある日本のそうめんのなかでも、麺作りの際にごま油を用いるのは小豆島が唯一だそう。

1回あたり2日間にも及ぶ手間暇と、瀬戸内の澄んだ潮風による天日干しにより、強いコシとなめらかなのどごしを持ったそうめんができあがります。 


「島の光」に感動し、そうめん専門店を開店


そんな「島の光」を東京で味わえるのが、“そうめん専門店”を掲げる「そうめん そそそ」。恵比寿の本店とともに、日比谷、渋谷の計3店舗を展開しています。

そうめんだけを専門的に取り扱うお店は珍しい存在ですが、いったいどのような経緯があったのでしょう。お店を経営する、株式会社Ts&8(ティーズアンドエイト)副社長・安藤成子(あんどう・せいこ)さんは語ります。

「当社では、和菓子と和食を楽しめる『楚々 The ZEN(そそ・ザ・ゼン)』というお店を経営しているのですが、ある日、友人が『お店で食事の締めにそうめんを出してみたらどう?』と、『島の光』を持ってきてくれたんです。『たしかに、締めの一杯にいいかもね』と、軽い気持ちで味わってみたのですが、次の瞬間、その美味しさに思わず感動してしまいました。

麺にコシがあって、茹でても伸びにくく、冷たくても暖かくても美味しい。あらゆる食材との相性も抜群でした。『そうめんって、いろんな味に合うんだ!』と、その魅力に夢中になっていくうち、『そうめん専門店を出したら、もっと魅力を広げていけるのでは?』と思い、『そそそ』を開店しました」

バル風のおしゃれな空間でそうめんを味わえる「そうめん そそそ」恵比寿本店

そうめんの魅力を多角的に伝えるため、店舗ごとに独自のコンセプトを打ち出しているという「そうめん そそそ」。今回伺った恵比寿本店では、「家庭でもこんなアレンジができるんだ、というのをお客様に発見していただきたい」(安藤さん)との思いから、創作メニューを中心に展開しています。

一方、日比谷店では高級食材とのマリアージュが楽しめるメニューを展開し、「そうめん そそそ 研究室」と銘打った渋谷店では、お客さんが量や味、具材を自由にカスタマイズしてオリジナルの味を見つけられるコンセプト。お店に足を運ぶたび、さまざまな切り口で「島の光」の魅力をとことん堪能することができます。 

 

主役も脇役も自由自在。「島の光」のオールマイティな魅力

まずは、「島の光」の持ち味をストレートに味わえる「つけそうめん」(税込650円)から体験してみることに。

「つけそうめん」(税込650円)

さっと2分間茹でたそうめんに刻みミョウガ、刻みネギ、ショウガの薬味を添え、かつおだしとたまり醤油をブレンドした特製のつゆでいただきます。

一口食べてまず感じたのは、絹のように繊細でなめらかな舌触り。さらにそっと噛みしめると、今度はモチモチとした豊かな食感が、じんわりと広がっていきます。上品かつ穏やかな味わいで、いわゆる「小麦くささ」もまったく感じません。

ミョウガ、ネギ、そしてショウガと薬味を変えながら、一口、また一口。そのたび、スポットライトをさまざまな角度から当てたときのように、味の輪郭が変わるのを感じます。しかしそれでいて、そうめん本来の味はブレず、つねにセンターにある感じ。ひとりステージに立ち、凜としたたたずまいで自らの空気を醸し出す名優のような佇まいです。

もう一品、安藤さんからオススメいただいたのが、「そうめんに一番合う形の釜玉を追い求めた」という「ふわふわ釜玉」(税込720円)。たっぷりメレンゲと卵黄を乗せ、荒削りしたかつおぶしをトッピング。白く輝く深皿に盛り付けられたその姿は、一見すると高級パスタのようです。

ふわふわ釜玉(税込720円)

小豆島で昭和13年から作られている桶仕込み醤油「金両醤油(きんりょうしょうゆ)」をベースにした、旨味たっぷりのだし醤油をたっぷりかけて・・・・・・

よくまぜること十数秒。

カルボナーラを思わせる、ふわとろのそうめんができあがりました。

細くてきめ細やかな「島の光」にメレンゲと卵黄がしっかり絡み、まるで雲の中を歩いているようなふわふわ感。そこに夕陽のような醤油のコクが差し込んで、なんともいえない色鮮やかな味が広がります。先ほどの「つけそうめん」とは違い、今度は「島の光」がどこにいるのか、すぐにはわかりません。

初めての感覚に言葉を探していると、口のなかで温められたメレンゲがある瞬間からサッと溶け、味の展開が次のステージへ。雲から晴れ間が見えるように「島の光」が姿を現します。

序盤ではメレンゲと卵黄、醤油をつなぐ影の引き立て役にまわり、その後、満を持して登場。こんなに役柄を演じ分けるそうめん、これまで食べたことありません。なんという役者魂。箸を持ちながら思わずうなってしまいました。「島の光」、奥が深すぎます。 


知られれば、後継者が増えるかもしれない。「そそそ」に込められた切実な“願い”

「島の光」の味に突き動かされ、専門店まで立ち上げてしまった安藤さん。しかし立ち上げの動機は、それだけではないといいます。

「『島の光』は、小豆島の職人さんが一つひとつ、丁寧に作り上げています。その日の温度や水加減はもちろん、職人さん一人ひとりの技術がダイレクトに反映されるので、麺の太さひとつとっても、同じものがないんです」(安藤さん)

400年にわたり、連綿と受け継がれてきた技術によって磨かれてきた「島の光」。しかしいま、その存続が危機を迎えているというのです。

「かつては島に400軒以上あった製麺所も、いまはその3分の1にまで減少してしまいました。若い人がどんどん島から出てしまい、そうめん作りを受け継ぐ後継者がいないのです」(安藤さん)

その光景に、安藤さんは自らの原体験を重ね合わせていました。

「母方の祖母は、100年続く和菓子屋を営んでいました。お団子やお稲荷さんを売る、いわゆる『街の和菓子屋さん』として親しまれてきましたが、時代が進むにつれてニーズが減り、後継者不足で閉店に追い込まれてしまいました。たしかな品を作り続けているのに、それが時代の流れに飲まれて無くなってしまうということに、悔しさを感じられずにはいられませんでした」(安藤さん)

その当時、さまざまな飲食店を渡り歩いて仕事をしていた安藤さんは、この出来事をきっかけに一念発起。同じく、仕事を辞めるタイミングであったというお母様と合流し、和菓子店の経営を決意します。

「伝統をしっかり残しつつ、時代を取り込みたいと考えました。当初は和菓子だけを扱うつもりでしたが、もっとインパクトのある形にしようと、和食と和菓子を楽しめるお店として『楚々 The ZEN』を立ち上げました」(安藤さん)

『そそそ』の役割は、手延べそうめんの“その先”を作ること── 安藤さんは語ります。

「手延べそうめんは、日本が誇る素晴らしい文化だと思います。そうめん専門店が広まって、多くの方に知っていただくことで、その文化をつなぎ止められるかもしれない。店を開くことで、『島の光』の存続に少しでも貢献できたらと思っています」 

 

ラーメン、うどんと並ぶ“世界語”に。「そそそ」が見据える、そうめんの“その先”

「たかがそうめん、されどそうめん。そうめんのその先へ」
「そそそ」の箸袋には、こんなスローガンが書かれています。
安藤さんは、「そうめんのその先」にどんな景色を見ているのでしょうか。

「そうめんを“世界語”にするのが夢です。ラーメン、うどんは海外でもそのまま通じる日本語となりましたが、そうめんはまだそこまで浸透しているとは言えません。ゆくゆくは、海外の方にも『あぁ、『So-men』ね」と、そのまま通じるようにしたいのです」(安藤さん)

2018年には、アメリカ・ニューヨークで開催された「JAPAN Fes New York」に参加し、街頭で流しそうめんを実施。訪れた現地の人々からは大好評で、「どうすれば、また食べることができる?」「(ニューヨークの)どこにお店があるの?」と尋ねる声が上がったそう。「島の光」は海を越え、さらなる人々の心をつかもうとしています。

「言葉や文化は異なれど、そうめんの“美味しさ”は世界共通のもの。どんどん広がり、作り手さんが増えるきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません」


■そうめん そそそ 恵比寿本店

東京都渋谷区恵比寿西1-4-1
JR・東京メトロ「恵比寿」駅 西口から徒歩3分
日曜~木曜/ランチ 11:30~16:00、ディナー 17:00~23:00
金曜〜土曜・祝前日/ランチ11:30~16:00、ディナー17:00~28:00
不定休(年末年始を除く)
03-6416-9284

取材・文・撮影 = 天谷窓大
編集・企画 = ロコラバ編集部

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