「嫌いだった“竹岡式ラーメン”」 に経歴35年の料理人が挑むワケ| 浜町「まる竹」

2022.6.11 | Author: ロコラバ編集部
「嫌いだった“竹岡式ラーメン”」 に経歴35年の料理人が挑むワケ| 浜町「まる竹」

全国のコミュニティFMをネットしてお送りするラジオ番組『ロコラバ』。12時台にお送りしている「東京ロコラバ・ランチ」では、「東京で“ふるさと”をいただく」をテーマに、全国各地のご当地グルメが集まる東京で味わえる“ふるさと”をご紹介しています。今回は、中央区・日本橋浜町の「まる竹」で、千葉県・内房地域のご当地ラーメン「竹岡式ラーメン」を体験。「怒って帰るか、ハマるか」の二択だという、究極の味とは……?

お湯で割った醤油ダレをそのままスープに!? 究極のシンプルを突き進む「竹岡式ラーメン」

「竹岡式(たけおかしき)ラーメン」は、千葉県の内房、富津(ふっつ)市の竹岡(たけおか)地域を発祥とするラーメンです。「チャーシューを煮込んだ醤油ダレをお湯で割っただけ」という、真っ黒で塩辛いスープが特徴。汗をかき、体力を消耗しやすい漁師の人々に向けて塩味が強めになり、現在の形ができあがったとされています。

「醤油ダレをお湯で割っただけなら、それはもう醤油に浸しているのと一緒では……?」と一瞬思ってしまいますが、スープには豚の旨味がしっかり溶け込んでおり、実際にはとてもまろやかな味わい。その見た目と味のインパクトにハマる人も多く、いち地域のローカルメニューから、いつしかラーメン好きのあいだで知る人ぞ知る存在へと成長していきました。

 

「嫌いだった」竹岡式ラーメン、気づけば夢中に

隅田川の河口部に位置し、城下町とオフィス街の雰囲気が入り交じる街、中央区日本橋浜町。演劇ファンの間では有名な大劇場「明治座」の近くにあるのが、今回伺った「まる竹」。「竹岡式ラーメンと黄色いカレーのお店」というコンセプトにちなんだ、鮮やかな黄色ののれんが目印です。

お店を手がけるのは、アプリ開発など、IT関連のサービスを手がけるフォーシーズンズ株式会社。イタリアンシェフとして35年のキャリアを持つ大将と会社の社長がひょんなことから意気投合し、一緒に飲食店を開くことになったそう。なんとも興味深い成り立ちです。

それにしても、どうして数あるメニューのなかから竹岡式ラーメンを?

「小さいころ、竹岡式ラーメンのお店へよく連れていってもらっていたんですが、僕の口には合わなくて、正直嫌いなラーメンでした(笑)。でも、シェフになって、まかない料理として後輩たちに振る舞っていたら、とても好評だったんです。『なんとかこのラーメン、自分流に美味しくできないだろうか』と“シェフ魂”に火がついて、竹岡式ラーメンのお店を出そう! と決めました」(大将)

麺は竹岡地域にある竹岡式ラーメンの老舗「梅乃屋」と同じく、千葉市の製麺所「都一(みやこいち)」の乾麺を使用。一般的な袋ラーメンの麺を一回り小さくしたサイズで、「即席ラーメンのような、あの独特の乾麺ならではの食感です」(大将)。当初はいろいろな麺を試してみたものの、「竹岡式ラーメンとしての個性はこの麺でなければ出せない」(大将)と、この麺に戻ってきたそう。

チャーシューには豚バラ肉を使い、味の基本となる醤油ダレには、地元富津で江戸時代から続く老舗の「宮(みや)醤油」をチョイス。2ヶ月にわたって試行錯誤を重ねた末、しっかり煮込んで余分な脂を落とし、「なるべく醤油ダレが濁らないようにする」(大将)ことで、臭みのないクリアな味を実現したといいます。

「チャーシューに使う肉もいろいろ試してみましたね。モモ肉とか、ロース肉とか。でも、『梅乃屋』に沿った感じを出そうと思ったとき、麺との相性が一番良かったのは、やっぱり豚バラだったんです」(大将)

江戸時代から続く「宮醤油店」の醤油ダレ。スープの味もこれで決まる

とにかくシンプルである竹岡式ラーメン、具材を足したり、スープを変えたり、いろいろアレンジの幅がありそうな気もしますが、「それをやってしまうと『梅乃屋』を追いかける意味がない」と大将。その味が「嫌い」といいつつ、「もっと自分なりに美味しくしたい」と、並々ならぬ思い入れが伝わってきます。

「さて、ここでスープを入れます。と、いっても、本当にただのお湯ですけどね(笑)」(大将)

湯がいた麺をスープにひたし……

艶やかに光るチャーシューとたっぷりの刻みタマネギを乗せ、できあがりです。

 

醤油だけでこの味に!? 見た目を裏切る旨味のインパクト

竹岡式ラーメン(税込650円、中盛+税込100円、大盛+税込200円)

さて、いよいよ「まる竹」の「竹岡式ラーメン」を実食。基本を踏襲し、醤油ダレをシンプルにお湯で割っただけの黒々としたスープは、醤油だけとは思えない、旨味を感じさせる豊かな香りがします。

スープを一口飲んで、思わずびっくり。「本当に醤油だけでこの味に?」と、思わず声をあげてしまいます。他のラーメンに比べるとかなり塩気は強めですが、その中には豚肉の旨味と脂の甘みがたっぷり。もう一口、また一口とレンゲが自然と進んでしまいます。

煮込んでほどよい塩梅に脂を落としたチャーシューは、しっかり旨味がありつつ、とてもさっぱりとした後味。粗く刻まれた生タマネギはシャキシャキ食感が楽しく、ピリッとした辛みと透き通った甘味でさわやかな風を吹き込んでくれます。

そして、いよいよ麺へ。スープがしっかり染み渡り、単体でも料理として成り立つくらいに味が付いています。さすがは乾麺。思い切って頬張り、ワシワシとした食感を楽しみ尽くします。とにかくすべてがストロングスタイル。ラーメンだけれど、“噛みしめて食べる”楽しさがあります。

食べ進むあいだにも麺や具材にどんどんスープが染みこんでいき、ちょっと目を離すたび、どんどん色が染まっていきます。裏を返すと、食べるタイミングごとに味が変わっていくということ。この感じ、他の料理ではなかなか味わえません。

黄色いカレー(並:税込650円、大カレー:税込750円、半カレー:税込350円)

あわせてもう一品、「黄色いカレー」もいただきます。マスタードのような真っ黄色のルーがインパクト十分。竹岡式ラーメン同様、シンプルさを突き詰めているかと思いきや、こちらはかなり綿密に材料を組み合わせているのだそう。

「カレールーに、カツオ、サバ、煮干し、昆布でとったダシをあわせています。単純に見えますが、この色合いを出すのにはとても苦労しました」(大将)

「黄色いカレー」のルー。シンプルな見た目と裏腹に、何重ものダシが溶け込む

「蕎麦屋のカレー」をイメージして作り上げたという、「黄色いカレー」。一口食べると、家庭的な見た目からは想像も付かない、いくつにも絡み合った旨味が爆発的な勢いで広がります。

さらに卓上の特製スパイスをかけると、凝縮された味がいっきに拡散! 同じカレーとは思えないほどに表情がめまぐるしく変化します。

「まる竹」のメニュー、とにかく一筋縄では捉えられません。これは通ってしまいそう……。

 

訪れた客は「二度と来ないか、ハマって通う」

いろんな意味で予想を裏切ってくる「まる竹」のメニューたち。店を初めて訪れ、その味を体験したお客さんの反応は「二度と来ないか、ハマって何度も通うかの二択」だといいます。

「2口くらい食べて、怒って帰っていったお客さんもいましたね。たしかに、好きな人じゃないと腹が立つ味だと思います(笑)。その反面、竹岡式ラーメンの味を知るお客さんにとっては、とてもハマる味みたいですね。このあいだも『これ、梅乃屋の味だよね!』と声をかけていただいて、とてもびっくりしました。『あぁ、この味が好きな人が居るんだなぁ』と」(大将)

「『誰にとってもうまい』ものを作ろうとは思っていない」と大将。「まる竹」で挑むのは、さまざまな気持ちを併せ持つ竹岡式ラーメンへの壮大なトライであると胸を張ります。

「子どものころはあんなに食べたくない、食べたくないと思っていたのに、いざ大人になったら、心をつかんで離さないんです。竹岡式ラーメンって、本当に奥が深いですね」

 

■竹岡式ラーメンと黄色いカレーのお店 まる竹

東京都中央区日本橋浜町2-35-4 日本橋浜町パークビル1F
都営新宿線「浜町駅」より徒歩2分
東京メトロ日比谷線・都営浅草線「人形町駅」より徒歩5分
営業時間:当面の間、月曜〜土曜 11:30〜100食程度(煮豚)が終わるまで
定休日:当面の間、日曜・祝日
03-5614-0241

取材・文・写真 = 天谷窓大
編集・企画 = ロコラバ編集部(株式会社トランジットデザイン)

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