BBC Concertで取りあげるプログラムは、2、3か月分をまとめてBBCのアーカイブズに発注して、送ってもらっている。
できるだけ、それまで取りあげていない音楽家や曲目を選びたいが、知名度のないものばかり並べるわけにもいかない。アーカイブズにはたくさんの番組が保存されているけれども、そのすべてが日本の聴取者の嗜好に合うわけではないのだ。バランスを適度にとる必要があるのだが、当然のことながら発注の段階では演奏の出来自体がどうなのか見当がつかないから、多少の「賭け」を交えて数か月の予定を立てることになる。
しかしここで助かるのは、BBCのアーカイブズに「4番打者」がいることだ。
サー・サイモン・ラトルである。
彼が登場するプログラムは、退屈ということがない。そこには何かしら刺激と啓発がある。ほとんどの場合、2時間をたっぷり楽しませてくれる。そして、これが重要なことなのだが、彼が出演した番組は数多い。だから、何度も登場してもらえる。
数か月間の予定の中に「華」が欲しいとき、あるいは「賭け」が続く中で確実な結果の期待できる番組が欲しいとき、私はいつも彼に頼る。すると彼は,必ずこちらの無責任な期待に応えて、目の覚めるようなホームランを放ったり、鋭いライナーで野手の間を抜けるタイムリーを打ったりしてくれる。
まさに4番打者、本物のクリーン・アップ。それが私にとってのラトルなのだ。
10 月後半のBBC Concertは昨年のプロムスから、彼とベルリン・フィルの演奏会(2日続きで行なわれたもの)を2週続きでお送りする。芸術監督就任から2年を経て、彼の新しい「楽器」ベルリン・フィルがいよいよその圧倒的な力量を発揮し始めたことが、これらのライヴで確認できる。お楽しみに。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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