2008年01月/第52回 2007年のレコード・アカデミー賞

 音楽之友社選定の「レコード・アカデミー賞」が今年も発表された。
 大賞は交響曲部門からブーレーズ指揮のマーラーの「千人の交響曲」。例年大賞は交響曲、管弦楽曲、オペラ部門から選ばれることが多いから、まずは順当な選択か。この盤は同時に、ブーレーズによるマーラーの交響曲全集という「大パズル」の、最後の一ピースとなるものだ。十三年がかりでオーケストラもバラバラだが、現代のレコード業界の状況において、セッション録音で全集を完成させるというのは、表面的に思う以上の多大の困難を乗り越えてのものであるに違いない。その点でも、この一組は大賞にふさわしい。
 協奏曲部門を受賞したプレトニョフは、指揮者としても今年ベートーヴェンの交響曲全集を録音して大きな話題となった。その個性的な解釈への評価は意見の分かれるところだが、それはともかく、指揮者としての活動を重視したいという今のプレトニョフ自身は、むしろピアニストとして評価されたことに、どんな感想を持つのだろうか。
 室内楽部門で一九九三年録音のプレヴィン盤が選ばれたのも面白いところ。以前の録音なのに、国内盤がいままで発売されていなかったお陰の受賞である。
 現代曲部門賞の「江村哲二作品集 地平線のクオリア」も気になる一枚。独学で作曲を身につけ、武満徹に私淑する作曲家だが、茂木健一郎と対談した新書『音楽を「考える」』が話題になった矢先に訃報が伝わり、読者を驚かせた。その彼の作品を集めたアルバムである。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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