2009年02月/第65回 メンデルスゾーン再発見に向けて

 カラヤン生誕100年で沸いた2008年に続き、2009年は作曲家のアニヴァーサリーがいくつかある。ヘンデル(1685~1759)の没後250年、ハイドン(1732~1809)の没後200年、メンデルスゾーン(1809~47)の生誕200年。
 ハイドンはゆかりの深いウィーンを中心にさまざまな演奏や行事が行われるし、ヘンデルも、近年のバロック・オペラの隆盛の波もあり、英語歌詞に作曲した貴重な大作曲家ということで、イギリス・アメリカなどで演奏されるはずだ。
 しかし私が注目したいのは、メンデルスゾーン。その前期ロマン派らしい軽妙で温雅な作風は、深刻で激情的なものが偏愛された後期ロマン派以降の時代には軽侮される傾向があり、さらに彼がユダヤ人で、ナチス時代に演奏が禁止されたことが尾を引いた歴史的経緯もあって、その全貌に関心を持たれることは多くなかった。
 たとえば、賛美歌第98番「あめにはさかえ」の旋律はメンデルスゾーンの曲からとられたことで有名だが、その原曲で男声合唱とオーケストラのために書かれた「グーテンベルク祭のための祝典歌」は、CDもろくにないという現状なのである。
 だが、彼の数多い合唱曲にはもっと聴かれてもいい佳品があって、再評価の機会を待っているし、ピアノ三重奏曲や弦楽四重奏曲の濃厚なロマン性は、近年高い人気をあつめるようになっている。
 今月のウィークエンド・スペシャルでは3回にわたり、交響曲全集など彼の基本的なレパートリーをお送りする。まずはここから。

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン

コメントは停止中です。