ヨーヨー・マが今年で50歳になると聞いて、「そんな年になったのか」と驚いた。
ばかな話で、こちらも同じぶんだけ年を取っているのだから、不思議でも何でもない。
「まだ20代半ばの、すごいチェリストが出てきた」と話に聞いたのは1980年頃で、それから四半世紀の歳月がすぎている。その時期に生まれた子供が当時のヨーヨー・マと同年齢になろうとしているのだから、かれが50歳になるのは当然のことだ。
しかし四半世紀たっても、ヨーヨー・マは変わることなく、世界のトップ・チェリストであり続けている。所属のレコード会社も変わらない。
一方、クラシックの世界は大きく様変わりした。かれを引き立て、レコード・デビューのチャンスを与えてくれたカラヤン(1979年録音のベートーヴェンの三重協奏曲で、ヴァイオリンは当時16歳のムターだった)も、もういない。
カラヤンが君臨したベルリン・フィルのシェフの座は、アバドを経てラトルに移っている。そのラトルは1955年生まれ、ヨーヨー・マと同い年だ。ラトルも、最初の大きなポストであるバーミンガム市交響楽団の首席指揮者になったのが1979年だから、ヨーヨー・マが華々しく活躍し始めたのと、ほぼ同時期ということになる。
スターであり続け、レコード会社が一貫して変わらない点も同じ。さらに言えば、1990年代からピリオド楽器の動向に関心を寄せ、自らの音楽に貪欲に取り入れ始めている点も、やはり一緒である。
こんなに共通点があるのに、どちらも所属のレーベル(ソニーとemi)が手放さないためか、レコード上で共演したことはない。しかし今回の「BBCコンサート」では、ライヴならではの両者の共演が楽しめる。
1984年、ともに次代を担う俊英音楽家として、期待をあつめた時期の録音である。
山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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