2005年03月①/第05回 40年目のリンパニー

 ロンドンのプロムスが始められたのは1895年、今からちょうど110年前のことである。その初めの50年間は、創始者のヘンリー・ウッドが指揮をしていた。

 ウッドが1944年に亡くなった後、その「跡目」を誰が継ぐべきかで数年間混乱が続いたが、1950年、マルコム・サージェントがプロムスの常任指揮者になったことで、ウッドの後継者をめぐる騒動は片がついたのである。サージェントは以後1967年に亡くなるまでプロムスの主柱として活躍した。プロムスで演奏した作品は延べ2402曲、これはウッドに次ぐ第2位の曲数だそうで、まさにプロムスの「第2の顔」というにふさわしい。

 3月6日と13日の「BBC Concert 」では、このサージェントによる演奏会と、彼を記念する演奏会とを続けて放送する。6日は1954年、つまり第60回目の年にサージェントが指揮した「ラスト・ナイト」。例年のお祭り騒ぎが楽しい「ラスト・ナイト」だが、そのスタイルは半世紀前にはすでに確立されていたことが、この貴重な録音でわかる。

 13日の方はそれから40年後、第100回の記念年に開催された「サージェントに捧げる」演奏会。サージェントゆかりの作品が演奏されるが、面白いのは、40年後のこの演奏会にも1954年と同じソリストが参加していることだ。

 そのソリストとはモーラ・リンパニー。1916年生まれで、イギリスを代表するラフマニノフ弾きとして有名なこの女性ピアニストは、ウッド時代の 1938年にプロムスへデビューしたという。1994年の演奏会は、彼女のちょうど60回目のプロムス出演にもあたっていたという。

 40年の歳月を隔てて、同じピアニストの演奏を2週続けて聴けるなんて、まさに録音文化の醍醐味であろう。bbcのアーカイヴズの底深さは、ほんとうに素晴らしい。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
山崎浩太郎のはんぶるオンライン

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