音楽コラム「Classicのススメ」


2005年05月①/第09回 時間旅行はBBCで

 

 皆様のご支持により2年目に入ったBBC Concertと、新番組として始まったばかりのBBC Recital。この2つの番組は、イギリスのBBC放送のアーカイヴズから音源の提供を受けている。

 このアーカイヴズというのが凄い。1950年代以降のさまざまな録音がストックされていて、当方で検索して注文すると、あっという間に録音がCDやCD-R に収められて送られてくる。アーティストによっては、往時の活躍に比べてあまりストックされていない人もいるから、アーカイヴズ全体としてはまだ構築途上なのかもしれない。しかし、それでもすでに膨大な量があり、しかもきちんと管理されている。

 このあたりはさすがに国営放送という印象で、民放ではなかなか真似ができないことだろう。

 録音というものの面白さの一つは、さまざまな時代を一瞬に駆けめぐれることだと思う。われわれはどうあがいても、今この時を離れることはできない。しかし録音は、さまざまな過去を甦らせることができる。そうして現在と過去との関係を考えていると、未来の姿がおぼろげながら見えてくることがある。脳内時間旅行の醍醐味は、まさにその瞬間にある。

 さて、5月1日と8日のBBC Concertでは、フィンランドの指揮者エサ=ペッカ・サロネンのコンサートをお送りする。1日は当時まだ27歳のサロネンが、最初の手兵となったスウェーデン放送交響楽団を指揮した1985年のライヴ。8日はそれから17年後、現在も音楽監督をつとめるロスアンジェルス・フィルハーモニックを指揮した、2002年のライヴ録音だ。

 指揮者サロネンは、17年の歳月をどのように過ごしたか。それが聴きものだ。BBCのアーカイヴズだからこそ可能な時間旅行を、お楽しみに(今後放送ご希望のアーティストなど、ぜひリクエストをお寄せください。探してみます)

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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