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音楽コラム「Classicのススメ」


2010年07月/第82回 ウィグモア・ホール・ライヴ

 

 ロンドンにウィグモア・ホールという、素晴らしい音響の室内楽用のホールがある。
 地下鉄のボンド・ストリート駅の近く、その名もウィグモア・ストリートに面した古風なビルの中にある、座席数約600の演奏会場だ。1901年に開場したときにはベヒシュタイン・ホールと呼ばれていたが、第1次大戦中の1916年に現在の名に改称している。
 幸運にも2回の大戦での空襲でも被害をまぬがれ、開場記念演奏会に登場したブゾーニやイザイ以来、110年間の歴史は世界を代表する大演奏家、名歌手、室内楽団によって華やかに彩られてきた。
 その魅力は、大理石による格調高い内装と、豊かで美しい響き。室内楽用では世界有数という評価をもつ名ホールである。巨匠や中堅だけでなく、新進の演奏家にも広く門戸が開かれ、毎年400ものリサイタルが行われている。
 このホールが自ら「ウィグモア・ホール・ライヴ」と題したレーベルを立ち上げ、ライヴ録音をCDで発売し始めたのは、2005年のこと。現在までに30種強が店頭に並び、このホールでのコンサートの魅力を、日本でも簡単に聴くことができるようになった。
 親密な空間が生む、殺風景な巨大ホールでは難しい、聴衆に語りかけるような音楽。最近ではジョナサン・ビスやピノックのリサイタルが印象に残っているが、今月ご紹介するイブラギモヴァとティベルキアン、ペレーニ、そしてエリアスとドーリックの2つの弦楽四重奏団の4種も粒揃いの名演。
 普段はオーケストラ中心という方も、ぜひその音楽に接してみてほしい。

 

山崎浩太郎(やまざきこうたろう)
1963年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。演奏家たちの活動とその録音を、その生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書に『クラシック・ヒストリカル108』『名指揮者列伝』(以上アルファベータ)、『クライバーが讃え、ショルティが恐れた男』(キングインターナショナル)、訳書にジョン・カルショー著『ニーベルングの指環』『レコードはまっすぐに』(以上学習研究社)などがある。
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