音楽コラム「Jazzのススメ」


2005年03月①/第05回 ビギナーはボーカルから



さてと、ジャズ・ファンではないあなた、こちらへいらっしゃい。ジャズ・ファンのあなたもいらっしゃい。さあ、どうぞ。
私くらい両方の人に気を遣っている人間もいないのである。


ジャズ・ファンではないあなた、ジャズって聴いてみたいでしょう。でも何から聴いていいかわからない。このこと、皆さんそう仰るのである。口裏合わせたみたいに。


そこで私はすかさず、ボーカルからお聴きなさいと申し上げたい。


何故か。曲の旋律がはっきりわかるからである。ジャズの楽器演奏の難しさは第一にメロディーがはっきりしないところにある。


どうしてはっきりしないかというと、ジャズのミュージシャンがはっきりさせるのを嫌うからである。その通りやるとジャズにならないと思っているらしい。そんなことはないんだが。


曲の旋律がわかる。どんなジャンルの音楽もそうだと思うが、初めて聴いて曲のメロディーがわかるくらい嬉しいことはない。ジャズは特にそうなのである。


あなたが何かジャズでも聴いたとしよう。ああこういう曲か。わかったらあなたはいっぱしのジャズ通といってよい。


半分お世辞だけど、まあそのくらいジャズの曲というのははっきり言ってわかり難いものだ。


ジャズ・ミュージシャンの中にはどうせ儲からない音楽やってんだからわざと難しくしてやれ、なんてね。 そこでボーカルである。たいていのボーカリストはスタンダード・ソングを歌う。1920年代くらいからアメリカで続々と作曲されたアメリカの流行歌。それらを自分の個性で歌うのがジャズ・ボーカルと言われるものだ。 何だい。ボーカルっていうのは人を楽しむのか、曲を楽しむのかい、どっちだい。そういう疑問を持つ人もいるだろう。


いい疑問である。私なら最初に曲を聴けと言いたい。始めに曲ありき、なのだ。


曲とボーカルは仲のよいカップルあるいは夫婦の関係にある。だからジャズを志すビギナーは曲の旋律のはっきりわかるボーカルを聴くに限るのだ。


さて、では、どんなボーカルCDを聴いたらいいのだろう。


まず勿論、いい曲の入ったもの。美声の持ち主であること。そしてこれが一番大事なのだが美人であること。さらに重要なのがジャケットの抜群なこと。


これらの要件をピタリ200%実現してしまったのが本日のヒロイン、ジェーン・モンハイト。ご覧の通りの美貌であります。


これはボーカル日照りの続く昨今の相当な見っけもの。砂漠の中の満々と水をたたえた泉であります。  いま人気No.1のダイアナ・クラークより断然こちらを推薦したい。私はあのおばさん声にげんなりである。それに比べておお、こちらは私の大好きな処女の声なのだ。


であるから年季の入ったジャズ・ファンにもおすすめ出来る。ジャズ・マニアほど処女の声を愛する人種はいないのである。

寺島靖国(てらしまやすくに)
1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MEG」ホームページ