音楽コラム「Jazzのススメ」


2007年08月/第43回 昔はピアノトリオ、今やザ・トリオ

独自のジャズオーディオ・ライフに徹している寺島靖国さんは、以前からジャズレコーディングにも強い関心を持っていた。録音後に行なわれるプロのマスタリングのスタジオにも何回か呼ばれて音造りに立ち会った。楽器から発散する「音力」をCDに注入して、それを再生して聴くというのが寺島流ジャズオーディオの極意ではないだろうか。

寺島靖国さんが自らプロデュースする「寺島レコード」のCDが発売となる。寺島さんと言えばピアノトリオレコードの伝道師であるから、第1作は勿論ピアノトリオに決まっている。「MATSUO AKIRA TRIO」がアルバムタイトルだがサブタイトルはalone together、寺島さんが惚れている名曲である。すでにCDジャケットのデザインも完成しており、これが実にすばらしい。

ピアノトリオの録音については「PCMジャズ喫茶」でかけるCDを片っ端から袈裟懸けにして血祭りにしている寺島さんだから、自分が造るCDも返り討ちにあうという覚悟は決めているようだ。仲間うちとはいえ岩浪洋三さんから闇討ちもされかねない。

先日の「PCMジャズ喫茶」の録音はスタジオから離れて久々の出前録音となった。東京小金井市の小部屋に4人が集まった。寺島さんが例によって当日の明け方5時頃にFAXを寄こした。「1人特集をやりたい。曲<タブー>を数枚持っていくので、そちらも何かを考えろ」言うのだ。

岩浪さんは女性ヴォーカルを揃えてやって来た。突然なので、こちらも女性ヴォーカルとなった。

番組が進行するなか、いよいよ寺島さんが<タブー>の決定盤をかけようとした瞬間に事件が起きた。ケースを開いたが中にCDがない。「また、やっちゃった」と寺島さん。「これで7回目ですよ」と太田ディレクターの冷たい声がする。

話題が「寺島レコード」制作の中プロデユーサーの苦労に移った。ピアノトリオがどうして駄作に終わるのかという話がCDを聴きながら始まりプロデユーサーのセンスにまで及んだ。

ピアノトリオといってもピアノ弾きが主役ではない。むしろ演奏に音の強弱感をつけるのはドラムであり、陰陽感を与えるのはベースではないだろうか。3者が対等に絡みあうのだから正確には「ザ・トリオ」と呼ぶのが相応しい。

そんな意味もあって「ザ・トリオ」最新例のアルバムとして「UNICITY」CAM JAZZ 5019を紹介することにした。ベースは魔法の手と呼ばれるJOHN PATITUCCI、ドラムスは異色のリズム感溢れるBRIAN BLADE、そしてピアノはEDWARDS SIMON。録音エンジニアは数々の名録音を残している達人James Faber、NYのSear Sound Studio、2006年2月録音。

長澤 祥(ながさわ しょう)
1936年東京生まれ。ジャズオーディオ・プロモーター。「PCMジャズ喫茶」常連客。