音楽コラム「Jazzのススメ」


2009年03月/第62回 コンボの出現はジャズを活性化するか?

ジャズのCDは毎年沢山発売されているのに、最近は何か核になる演奏がないなあ、と感じていた。ところが、昨年末あたりから少し様子が変わってきたように思える。

そのきっかけになったのが、イタリアのグループ、「ハイ・ファイヴ」の登場で、その第一作「ファイヴ・フォー・ファン」(EMI)を聴いたとき、心のどこかで、待っていた演奏はこれだ、と確信した。リーダー格のトランぺッター、ファブリッツィオ・ボッソの輝かしいプレイもさることながら、クィンテットの力感あふれるプレイにも圧倒された。シダー・ウォルトンやジョー・ヘンダーソンら60年代の新主流派の曲も取り上げているので、全体的にはニュー・ハード・バップと呼びたい演奏なのだが、アドリブはどこまでもメロディックで、ドラミングが昔の演奏と違って多彩なので新鮮に感じるのだろう。ボッソは昨年の「銀座ジャズ祭」にはラテン・バンドをひきいて来日したがこちらもエキサイティングで悪くなかった。

これらの演奏を聴いているうちに、やっぱり最近はイタリアやヨーロッパのジャズの方がアメリカよりも元気がいいのかなあ、と思ったものだった。

ところが、ニューヨークのジャズも黙ってはいなかった。「ブルーノート・セブン/セレブレーション」(Bluenote)がそれで、これはハイ・ファイヴに充分対抗できる演奏だった。N.Y.の精鋭で結成されたグループで、ニコラス・ペイトン(tp)、ラヴィ・コルトレーン(ts)、スティーヴ・ウィルソン(as,fl)、ピーター・バーンスタイン(g)、ビル・チャーラップ(p)、ルイス・ナッシュ(ds)、ピーター・ワシントン(b)という7人編成。これは最強の顔ぶれだ。悪かろうはずがなく、しかもイタリアの連中と同じように、ジョー・ヘンダーソン、ハービー・ハンコックら新主流派らによる曲を取り上げているのだ。まるで申し合わせたように。したがって演奏もニュー・ハード・バップ的なのだ。海をへだてた国で同じようなフレッシュ・サウンドが生まれ、これは面白いことになりそうだが、共にレギュラー・グループ化するというのが嬉しい。ブルーノート・セブンはなんでも今年全米45ケ所のツアーを行うという。

とにかく、ジャズの活性化はレギュラー・グループの出現によって行われるだろうというのが僕の見方である。思い返せば1950年代から60年代の中頃にかけては、モダン・ジャズの黄金時代と呼ばれたが、この時期には、実に沢山のレギュラー・コンボが活躍していた。枚挙するときりがないほどだが、マイルス・デイビス・クィンテットを筆頭に、ジャズ・メッセンジャーズ、ホレス・シルバー・クィンテット、ローチ・ブラウン・クィンテット、キャノンボール・アダレイ・クィンテット、ジョン・コルトレーン・カルテット、ジャズテットなどが人気を競い、ジャズ・シーンを活気あるものにしていたと思う。

レギュラー・グループの魅力と良さは、トータルな表現や主張が長く一貫して行える点にあると言えるだろう。それが、一回だけのセッションだとなかなかそうはいかないし、一過性で終わってしまうことが多いと思う。レギュラー・グループを待望してきたのはそのためだが、まだハイ・ファイヴとブルーノート・セブンの2つだけでは満足できない。そう思っていたところへ、こんどはアメリカ西海岸のコンコード・レコードから「ベニー・ゴルソン/ニュー・ジャズテット」が発売された。あの懐かしい三本管編成によるジャズテットの再編である。しかし、昔のままのグループ再結成ではノスタルジーだけで終わってしまう。しかし今回のニュー・ジャズテットは、リーダーと作、編曲こそ大ベテラン・テナー、ベニー・ゴルソンだが、メンバーの顔ぶれはがらりと変わっているし、ゴルソン自身のテナーがこれまでのプレイと違って、サウンドも吹き方も少し新しくなろうと務めており、変身しているのがいい。メンバーはエディ・ヘンダーソン(tp)、スティーヴ・デイビス(tb)、マイク・ルドン(p)、バスター・ウィリアムス(b)、カール・アレン(ds)で、ベテランもいるが、旧ジャズテットよりもガッツがあり、感覚的にも新しい。感心したので早速グルーヴィーでファンキーな「グローヴス・グルーヴ」をPCMジャズ喫茶でかけた。すると、日頃口の悪い寺島靖国、長澤祥の両氏も気に入ったようで文句は出なかった。まだこのグループの行く末はわからないが、僕はぜひレギュラー・グループ化し、ジャズ活性化の一翼を担って欲しいと願っている。

岩浪洋三(いわなみようぞう)
1933年愛媛県松山市生まれ。スイング・ジャーナル編集長を経て、1965年よりジャズ評論家に。
現在尚美学園大学、大学院客員教授。