音楽コラム「Jazzのススメ」


2005年01月①/第01回 「音の四大要素」を実証したトロンボーン奏者、神田めぐみ


さて、皆さん。ジャズの世界へようこそ。ジャズの伝道師、テラシマです。
ところで「音楽の三大要素」ってあなたはご存知か。音だろうって?おお、あなたは立派です。実は、本当は、リズム、旋律、ハーモニーなんだが、私に言わせりゃ、音、つまりサウンドが要素の一つとして欠けているんだね。これを加えて「四大要素」にしなけりゃいけない。

だってどんなミュージシャンだって音を作るのに凄く苦労するのである。案外これが忘れられているのである。ミュージシャンは音を一番大事にする。演奏する時に。ファンは音を一番大事にしない。聴く時に。

この間、エリック・アレキサンダーという、今日本で人気第三位のテナー・サックス奏者にインタビューした。 「どんなミュージシャンになりたい?」 「一音でエリック・アレキサンダーだとわかってもらえるミュージシャンになりたい。」

もちろん、さまざまな演奏法を含んでの話である。でも彼の言う演奏法の最も重要な要素が楽器の音なのだ。

さて、本日ご紹介の神田めぐみさん。私はこの方を紹介するのを名誉に思う。すばらしい音を出している方なのである。こんな音が出たら死んでもいい、というくらいのいい音である。オーディオ装置でいうと一千万円クラスのスピーカーから出る音、と言ってもいい。 要するに天使のサウンドなのだ。

昔、トミー・ドーシーというトロンボーン奏者がいた。この人が天使のサウンドを出現させていた。どうしてこういう音が出るんだ。バンドのメンバーがいぶかしんで彼の楽器を調べたという。もちろん何も出てきやしない。スライドの内側に薄いビロードか何かを張ったんじゃないかと疑ったらしい。

まあ、一種の伝説話だろう。しかし、この伝に習えば私は彼女の口の中には何か特殊な装置が施されているように思えてならない。もちろん装置なんてありゃしない。あるのは工夫である。努力の結果である。長年の研鑚の賜である。白鳥に例えよう。湖面を優美に泳ぐ白鳥。しかし水面下の足は結構不様にもがいている。彼女の口の中ももがいている。天使の音の源泉は彼女の口の中のもがき、にあるのだ。それと息の流し方。舌は上へ行ったり下へ行ったり。急速な上下運動を繰り返している。

録音も味方した。1940年ぐらいのトミー・ドーシーの頃と比べ、現代の録音は空気感をディスクに採取できるようになった。おかげで楽器の響きが一段と麗しくなった。

確かに彼女の演奏にはジャズ的に「汚れた」部分が少ない。ジャズ・ファンはその点不満だろう。なにせ彼女はアメリカのクラシック交響楽団の首席奏者だ。

しかしトロンボーンとはこんな美しい音色を出す楽器なのか。このCDを聴いて初めてそのことに気付くジャズ・ファンが多いんじゃないだろうか。つまりトロンボーン再発見。

私に言わせれば楽器は音で聴くべし、なのだ。彼女はそれを鮮やかに実証してみせた。

寺島靖国(てらしまやすくに)
1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MEG」ホームページ