音楽コラム「Jazzのススメ」


2005年05月②/第10回 “演奏は体を表す"ジャズピアニスト、安井さち子

さあて、皆さんお気付きだろうか。
一つの社会現象といってもいい出来事なんだが、日本の女性ジャズ・ピアニストたち。
この人たちが今、群をなしてのしてきているのだ。

その点、男はからきし元気がない。

女の元気の素はなにか。

闘争心である。

目標に向かって突き進む激しい心模様である。ようし、あの人に負けないようにがんばろう。
最初の大きな目標となったのは大西順子であった。
彼女の最初のCD「WOW」は5万とも10万とも言われる数字の売れ行きだったという。
さあ彼女に続けとばかりに現れたのが、アキコ・グレース、山中千尋、斉藤真理子、白崎彩子、早間美紀、といった面々であった。いずれも好評に次ぐ好評。
そしてここに真打登場、遅れてきた青年、いや遅れてきた美女が安井さち子なのだ。

音楽より前に彼女の性格をご紹介しよう。
安井さち子は私の店「メグ」に定期出演している。私はその行動をつぶさに毎回観察している。であるから結構詳しくご報告できるのだ。
汚れを知らぬ天使が地上に降り立ったようだ。
あけっぴろげである。と言っても少しも下品にはならない。大体からしてこの顔立ちでは何をやらかしても下品になりっこない。得な女人である。この顔かたちでツンとすまされたら世の中、大変に迷惑する。そういう顔面だから特に本人が気を遣っているというわけではない。
天然の天真爛漫なのである。
彼女の天然ぶりは司会にも表われる。早口で、時々言語がもつれたりもするが、聞いているうちにこの人本当にいい人なんだなあとわかってくる。
そういう性格がそっくり音楽に表われているのだ。
無邪気な音楽。楽しさ満開の音楽。高ぶらない平民的な音楽。

よし、はっきり言おう。安井さち子の音楽は先に挙げたピアニストたちの誰よりもわかり易い。そうした比較で言えば、先輩たちはむしろわかり難い。
安井さち子はわかり易さという武器をひっさげて、先輩たちに戦いをいどんだのだ。

さらに音楽以外の方法でも彼女は先達に挑戦した。
先輩たちがやらなかったことをやったのだ。
即ちレコード店訪問である。三軒や五軒ではない。
都内は勿論、全店訪問した。地方にも足を延ばす。
レコード店マップを片手に一日10軒も15軒も回る。レコード店全国行脚である。
彼女は大学を卒業後、有線の会社に職を求めた。そこで勧誘の仕事を担当した。楽な作業ではない。訪ねては断られ、断られては訪ねた。
レコード店を訪問し、にっこり笑って挨拶し、推奨打販売を依頼するなど彼女にとって朝飯前の仕事だったのだ。
大当たりをとった安井さち子のM&I第二作目が年末の発売を目指して目下進行中という。

寺島靖国(てらしまやすくに)
1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MEG」ホームページ