音楽コラム「Jazzのススメ」


2005年08月①/第16回 曲に合わせてダバダバダー

アマチュア楽器練習者の成果発表会。私はこれを見に行くのが好きである。

途中で音が出なくなって立往生する。曲を間違えて泣きべそをかく。
こういう、見物人にとって最も幸せなシチュエーションを期待してやまないのだがしかし、べらぼーめ、誰一人として不幸な練習生は出やしない。 期待に応える者がいない。

皆、そつなくこなして拍手なんぞを山ほどもらって満面に笑みを浮かべて引き下がってゆく。
成果発表会は、根本的な何かを間違えているぞ。見物人を愚弄しておるぞ。
まあ、それほど教えるほうも教わるほうも技術が高くなったということだろう。

面白くない。

さらに面白くないのは譜面である。譜面に書かれたアドリブである。
練習生は譜面に書かれたアドリブを見ながら吹くのである。
先生がちゃんと書き記して、練習生は日夜腕を磨いて発表会に臨むのだ。
これが、最悪だ。
アドリブに聴こえないである。
アドリブというのは厳密に言えば即興的、即席的なものである。インスタント・ミュージック。
練習に練習を重ねた音符やフレーズなど、その場でポッと出たアドリブに聴こえるはずがない。

と、まあ、正論を吐いてみたが、何だか急にむなしくなってきた。正論を吐くとはむなしくなることである。
むなしくならないために、いつも私は独断論を吐いているのである。

それはさておき、次の話。
池袋の「マイルス・カフェ」に行ってきた。
店主のマイルスはトランペッターでトンボ眼鏡のサングラスをかけ、しゃがれ声で話し、しゃがれ音でトランペットを吹く。
トランペットを吹く時はマイルス・デイビスになりきっているのである。
そのマイルスが自分の店で「ジャズ講座」を始めたと思い給え。

私はその場に居合わせたのだが、チャーリー・パーカーの「ナウ・ザ・タイム」がかかった。
するとマイルスは聴講生に命じたのである。
「さあ諸君、歌って、歌って。曲に合わせてダバダバダーと歌って、歌って」
アドリブまでそっくりパーカーが吹くように皆して歌ってゆく。
「もっと大きな声で!」
美味しいアドリブのところは声が大きくなる。やっぱりメロディアスなフレーズは皆よくわかって、嬉しくて、大きな声を出すんだなあ。
曲を、そして、アドリブを、自ら歌って、何度も歌って身体で憶えさせる。
譜面は一切なし。
これがマイルスのジャズ教育法である。

私はジャズ練習法、ジャズ楽器練習法としてこれが見事な善だと思う。
実は私は、今、その善の道を真っ直ぐにひた走っている男なのだ。

本日ご紹介のカイ・ウィンディング。10曲「There will never be another you」。これである。
このアドリブ・パートを私はマイルス学校開設以前にマイルスの方法で練習していたのである。
誠に寛ろいだ感じのテンポが絶妙な幸せ感をリスナーにもたらす最高の演奏が終ると待っていましたの呼吸で出てくるカイ・ウィンディングの最初のソロ。
私はこれにしびれたのである。

これを歌わずにいられるのか。これを口ずさまずして死んでゆけるのか。
ソロの部分を何度も何度も聴く。そして歌ってみる。リモコンという機械はアドリブを憶えるために存在するのだ。
私はここでリモコン存在における深い真理を悟ったのである。

そしてさらに歌えるアドリブを演奏するミュージシャンが、ジャズという世界の最高のミュージシャンという事実に気付いたのである。

最後に実利的な情報をお教えしよう。
このCDは1958年の吹き込みながら、結局商品化されず、いわゆるお蔵入りしていたものなのだ。
掘り出して光を当てたのはアメリカのLonehill Jazz レーベルである。
このレーベル、結構ちゃっかりとベツレヘム盤などをジャケットを変えて再発しちゃったりして「危ない」レーベルなのだが、このCD発売に関して私はまったく興奮した。随喜の涙を流した。これまでジャズの文献の中で、カイ・ウィンディング、カール・フォンタナ、ウエイン・アンドレ、ディック・リーブの4人から成る4トロンボーン・グループの存在は知られていなかったのだ。
発掘ありがとう!

一声、大きく叫んで今回は終りとしよう。
おっと、最後に身をすくめながらもう一言。私の新刊が書店であなたを待っています。
『吉祥寺JAZZ CAFEマスターがおすすめするはじめてのJAZZ』(河出書房新社)
買って下さい。

寺島靖国(てらしまやすくに)
1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MEG」ホームページ