音楽コラム「Jazzのススメ」


2007年05月/第40回 「香り」 と 「匂い」 そして 「気配」

「香り」の代表的なものはお線香で植物性である。

いっぽう「匂い」は動物的で例えば麝香(じゃこう)ではないだろうか。お線香の最高峰は純粋な伽羅から作られる。京都「松栄堂」のお線香「正覚」はその香りを漂わせる。

「匂い」で最もセクシーな妖しい雰囲気をつくるのが麝香でジャコウ鹿の嚢から抽出された香料である。「TABU」はびんの蓋を開けただけで淫乱な香りがたちこめる。

ジャズ演奏を言葉で表現する難しさ。総合的な表現やワンポイント的表現に限らず「香り」と「匂い」はよく引用されている。

ジャズの美しいメロディから「香り」に敏感なのは寺島靖国さん、ファンキーなリズムから「匂い」に固着するのは岩浪洋三さんである。具体的に言えば寺島さんはピアノトリオに「香り」を求めるが、岩浪さんはホーンカルテットの「匂い」を楽しんでいる。

そういうお前はどうなんだ。ジャズオーディオ熱中症に長く罹っている私は「香り」や「匂い」よりもミュジシァンの「気配」を音で聴こうとする。楽器のイメージまで部屋に再現しようと欲張っている。

前回は寺島靖国さんの選曲を3人でアルバム紹介を行なった。今回は岩浪洋三さんのMy Best 3 Songsで「The Way You Look Tonight」「Willow Weep For Me」「My One And Only Love」を3人でアルバム選びをやろうということになった。

私はジャズオーディオ人間であるから当然高音質の最新録音CDを持参した。「My One And Only Love」はディヴィト・フリーゼン・トリオのアルバムから選曲した。David Friesen(b) Randy Porter(p) AlanJones(ds) による2枚組みのアルバムでタイトルは「THE NAME OF A WOMAN」(MTCJ-6508/09)。

弾けるような弦をベースから聴きたいのでオーディオ装置にこだわってきた。どうしてもリアルなベースの音を求めてCDを探す。大型スピーカーで鳴るベースはたまらない。サブ・ウーハーと呼ばれる超低音再生専用のスピーカーを備えているので床を這う低音に加えブルンと部屋の空気が圧縮される。D・フリーゼンのベースからそれが聴こえる。

CDには記録されていない音の超高音域20KHzから120KHzの空気感を演出するためにスーパーツィーターを左右4セット備えた。FIDELIX社開発のアコースティック・ハーモネィターAH-120Kはミュージシァンの「気配」を空気振動で伝えてくれる。

ピアニストのR・ポーターは自分でも録音スタジオを持っており録音エンジニアもやりながら自主制作の高音質CDを「HEAVYWOOD」レーベルで数枚リリースしている。これらも録音現場の気配が聴こえるアルバムなので手許から離せない。

長澤 祥(ながさわ しょう)
1936年東京生まれ。ジャズオーディオ・プロモーター。「PCMジャズ喫茶」常連客。