コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第168回/続・ニュージーランドでレコード店を回った9月 [田中伊佐資]

●9月×日/ニュージーランドのオークランドはやたらと坂道が多い。レコード店巡りの3つ目「リアル・グルーヴィー」は大通りのクイーンズ・ストリートを南に向かい、その道沿いにある。地図上では市の中心部から徒歩ですぐだが、だらだらとした坂道を上っていくので実際には遠く感じる。
 オレンジの派手な看板が見えたので、「やった」と思ったら店はつぶれたかのように閉鎖していた。ここは、イギリスのザ・ヴァイナル・ファクトリーが発表した「世界の名レコード・ショップ 50選」に入っていることもあり、少なからずがっかりした。
 ところがシャッターをよく見ると「反対側に移転」と書かれている。ともかく道を渡ってまた坂を十数メートルほど上ると、すぐにまたオレンジのロゴが目に飛び込んできた。


Real Groovy
369 Queen St, Auckland, 1010


 店先にはワゴンが所狭しと置かれてバーゲンをしていた。1本400~480円均一(1ニュージーランド・ドルを80円として計算)のDVDが軽く千本はありそうな勢いでざくざくと並び、またカクッとなった。こういう店で良質な中古レコードに巡り会えるとは到底思えない。

 店内は広い。郊外のファミレスとはいかないまでも、都内のファミレスほどのスペースは十分にある。遠くまで目をやったがCDばかりが見える。Tシャツや音楽雑誌もちらほらある。  入ってすぐ右手に新譜レコードがジャケットの表を見せて50枚以上も立て掛けてあった。セレクトはロックやポップスを中心にセンスがいい。しかしそれは、店内の雰囲気を盛り上げるディスプレイの役割を担っているようでもある。ふとその上に、こんなことが書かれていた。


地下のレコード・フロア
「OVER 40,000 LPS DOWN THERE」

 確かに地下に向かう階段がある。よくいうよと疑いつつ降りていくと一瞬たじろいだ。地下は2フロアにまたがってとんでもない量のレコードがドびゃーとストックしてあったのだ。4万枚はおそらく本当だろう(証明するのはかなり困難)。
 まずはふらふらと巡回すると「POP ROCK」「JAZZ」「SOUL FUNK」「BLUES」と書かれたボードが貼ってあり、それらのレコードで大半を占められている。興味深いのはパンク、ニューウェーブ、グランジなどを総括する「ALTERNATIVE」のコーナーが広くとってあったこと。いずれにせよ店の方向と僕の好みは合致している。

 次の予定が入っているため、この時はささっと見た程度で終え、ニュージーランド来訪記念にビートルズのニュージーランド・プレスを購入。
 『リヴォルバー』モノラル、『サージェント・ペパーズ』ステレオ(共に青ラベル)、『ヘイ・ジュード』(マト1/1)。
 ビートルズのニュージー初期プレスはなぜか前期作品が多く、後期作品は少なかった。
 僕が買った『リヴォルバー』がモノためか特に高く4800円。ほかは概ね2000~3000円台で買える。なおこの国はこれに消費税15%がかかる。

●9月×日/「リアル・グルーヴィー」のえらいところは、朝9時からやっていること。観光客は朝から時間を無駄にせず動き回りたい。カフェでゆったりスケジュールを練るとかではなく、まずここに顔を出して朝っぱらテンションが高めることにした。
 もうひとつえらいことがある。トイレがあるのだ。ビルの一角にほかのテナントと共有しているとかではなく来店客専用。日本でもそこまでのレコード店はあまりない気がする。
 前回はじっくり見られなかったので、片っ端からスコスコと見ていく。
 ひとりのミュージシャンのなかで新品と中古盤が混ざっている。前月にも書いたが、ニュージーランドはオリジナル盤に対して、日本のように極端な付加価値を付けていない。初期ものはちょい高めくらいなのである。ましてやマトリクスが何番なんて関知していない。この店も同様だった。
 ジャケットを見て、オリジの雰囲気があるものを抜く。これをやっているとたちまち持ちきれなくなったので、もはやその場で検盤をすることにした。
 ビニール外袋もレコード内袋も右が開いているので、レコードはスッと出てくる。これは、その場で見ていいですよという店の計らいだと都合よく解釈し、数字と英字の刻印にじっと目を凝らす。店員はやたら神経質な東洋人と思ったことだろう。かなりオリジナル盤があった。
 しかも中古盤は程度がいいものばかりだ。ニュージーランドは押しなべてどの街も清潔だった。そういう国民性はレコード1枚にも反映されるのだろう。
 85年にリリースされたクイーンの『ライヴ・イン・コンサート』が見つかる。かっこいいジャケットはニュージーランド盤のみ。問題は音だ。
 その点もこの店はえらくて、試聴用ヘッドフォン&ターンテーブルが6台も用意している。さっそくチェックしてみたが、ホールの残響が強い録音が好みに合わず止めた。
 そんなこんなで『Roberta Flack & Donny Hathaway』や『King Curtis Live At Fillmore West』、モータウンなどのソウル系の米初盤を何枚か安値で買った。日本でも容易に手に入るものを荷物になるのを承知でつい買ってしまう。なんだかなあと自分でも思った。
 7インチ盤コーナーに足を止めたら、また手を動かし続けることになった。そこにはこう書いてある。

「12,000 USA IMPORT 45S 7 INCH RECORDS ON SALE NOW」

 ジャンルも時代もムチャクチャに並んでいたが、そのほとんどは初期プレスだった。どれも税別640円。
 残念ながら僕の知識では、曲も歌手も全く知らない盤が続き、探索にはめげるのだが、ごくたまにオッと思う盤に出会う。それがあるから止めようにも止められない。時間がなく1万2000枚の3割もチェックすることができなかったが、次の7インチを買った。

・Me And Mrs. Jones/Billy Paul
・Spinning Wheel/Blood, Sweat & Tears
・The Look Of Love/Sergio Mendes & Brasil '66
・Our House/Crosby, Stills, Nash & Young
・Teach Your Children/Crosby, Stills, Nash & Young
・Woodstock/Crosby, Stills, Nash & Young
・Me and Bobby McGee/Janis Joplin
・We've Only Just Begun/Carpenters
・Eternal Flame/The Bangles
・What Kind of Fool/Barbra Streisand & Barry Gibb
・Must Be Love/The James Gang
・One/Three Dog Night
・Can't Give You Anything (But My Love)/The Stylistics
・Scarborough Fair/Simon & Garfunkel
・My Cherie Amour/Stevie Wonder
・More The Feeling/Boston
・Ripple/Grateful Dead
・Only Love Can Break Your Heart/Neil Young


7インチ・コーナー。
筆者が撮影用に散らかしたのではありません。 


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 結局、ニュージーランドで買った自分用のおみやげは、この店で買ったレコードだけだった。上質なセーターとかニュージーランドで買うべき特産品はあちこちでいろいろ売っていたけど、そういう性分なのでまあ仕方ない。

(2017年10月10日更新) 第167回に戻る 

【恒例のレコードイベント「ヤエレコ」開催!】
124chに出演中の田中伊佐資氏と生島昇氏(ディスクユニオンJazzTOKYO)が、話題のアナログ製品を使って次々とレコードを鳴らし、楽しみ方を語ります。

「田中伊佐資の八重洲レコード聴きまくり大会Part11」
~秘蔵・超ハイパワーMMカートリッジ・バトル!

日時:2017年10月14日(土) 15:00~17:00
場所:Gibson Brands Showroom TOKYO2F(JR東京駅 八重洲口より徒歩5分)
入場料:無料
主催:ディスクユニオンJazzTOKYO
詳しくはこちら
 
田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に「オーディオそしてレコードずるずるベッタリ、その物欲記」(音楽之友社)、「オーディオ風土記」(DU BOOKS)、監修作に「新宿ピットインの50年」(河出書房新社)などがある。

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