コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第103回/手作りSDカードプレーヤーの衝撃[村井裕弥]

 11月に「手作りSDカードプレーヤーでハイレゾを聴こう」という特集をお送りした。技術系オーディオ愛好家・的場文平さんが自作したSDカードプレーヤーをスタジオに持ち込み、それを使って、様々なハイレゾ・ファイルを再生。個人的には、スフォルツァートDSP-01を持ち込んだ特集(2015年6月)に肉薄する高音質であったと感じている。
 もちろん、放送はハイレゾでないから、その手作りSDカードプレーヤーによってD/A変換された音を再びA/D変換して電波にのせているわけだが、それでも例月とはクォリティが格段に異なる(とあるデジタルのプロから「あの手作りSDカードプレーヤーを聴かせてもらえないか」と筆者に問合せがあったほどだ)。


左下がSDカードトランスポート。その右はDAC。
上半分はほぼ電源

 さらに興味深かったのは、CDのリッピングデータを再生した音が、予想をはるかに超えてなめらかだったこと。「これが本当に、CDフォーマットの音?」と何度も首をひねった。
 念のため付記しておくが、この手作りSDカードプレーヤーはリサンプリングや超高域付加など、「データをハイレゾに近付けるような回路」を一切採用していない。おこなっているのは、SDカードに移されたデータを、スムースかつ規則正しく送り出し、忠実にD/A変換する。たったそれだけのこと。
 それなのに、どうしてこんなにも音がよいのか!?
 そのあたりのことを的場さんに訊くと、「僕は何もしていませんよ(笑)」とおっしゃる。要するに、人様が作ったSDカードトランスポートとD/Aコンバーターをパーツとして買い求め、それをコーリアンボードにネジ留めしただけだというのだ。
 いや、いくら何でもそんなことはあるまい。改めて手作りSDカードプレーヤーの写真を凝視する。思い付くまま、よい音の秘訣(筆者なりの分析)をあげていくと、


製作者・的場文平氏(左)

○ SDカードは、デジタルデータを安定的に出力するのが得意(しかも、特に音がよいといわれているソニー製SDカード“for Premium Sound”採用している)。
○ コーリアンボードが、適度な制振性を持つ。
○ パーツとパーツは、メーカー製ではありえないしっかりしたケーブルで結ばれている(それもソケットでなくハンダ付け)。
○ パーツ同士をできるだけ離して取り付けてある。
○ ふたがない。
○ 電源部が恐ろしく充実している(十分過ぎる容量だけでなく、デジ・アナ分離など、考えられる限りの手はすべて打ってある)。
○ 最上級マスタークロックで制御している。
○ デジタルデータをSDカードに移し終わったあとは、パソコンの電源をOFFにできる。

 こうやってあげていくと、「この手作りSDカードプレーヤーの音がよいのは当たり前」という気がしてきた。
 今後、この手作りSDカードプレーヤーはさらに進化していくのだろうが、極力多くの方々に聴いていただければと願う。これを多くの方が体験することで「ふつうのレベル」が上がり、メーカー製品の音質も向上するに違いないからだ。

(2015年12月20日更新) 第102回に戻る 第104回に進む

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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