コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第38回/フィギュアスケートが辛くて見ていられない






 ソチオリンピックが終わった。特に女子フィギュアスケートは大きな話題だった。ただ、個人的にはずっと以前から見ているのが辛い競技だ。跳べるか跳べないか半々くらの確率のジャンプをやって、転倒しても何事もなかったように演技を続行。まずカラダが痛いはずだし、ケガをしている可能性もあり、人権問題じゃないかとさえ思う。また、いろいろと話題になっている採点の問題もよくよく調べてみると、なるほどと納得できる反面、いよいよわからなくなってくる要素もある。

 技術点の項目、たとえば3回転ルッツであれば、それなりに客観的な点数の判断は付くことは想像できる。しかし5つの項目の合計である演技構成点が抽象的だ。


フィギア・スケートの採点方法って?

「Skating Skills(スケート技術)」「Transition(つなぎ)」「Performance(演技)」「Choreography(振り付け)」「Interpretation(音楽解釈)」の5つ。

 音楽が関連しているので発言するが「Interpretation(音楽解釈)」というのがよくわからない。羽生結弦選手の演技で使用してきた「パリの散歩道」をゲイリー・ムーアが演奏しているものなど、爽やかな羽生選手にどうしてああいうやさぐれた曲調のものを持ってくるのか理解に苦しむし(本人が好きらしい)、金メダルを獲得したのだから高いポイントを獲得しているだろうがどこが採点のポイントなのかなかなか難解である。






オリジナルの「パリの散歩道」を収録したゲイリー・ムーアのアルバム『Back On The Streets 』

 音楽解釈というとあえて俗な例を出せば、演歌で♪愛してる~♪という歌詞であっても、作詞家が歌手に「これはほんとは憎んでる意味なので、そう思って歌ってね」という指示があったりする。あるいは、ショスタコヴィッチの第5交響曲の4楽章の前半。指揮者によって相当にテンポが違う。それによっては、質実ココロの底からの勝利を表現する音楽として演奏したい時もあれば、共産主義国家の表現統制に対して作った空疎な勝利感みたいなのもを表現しているのかなという時もある。これらはいずれも音楽解釈である。そういう意味で、ゲイリー・ムーアバージョンの「パリの散歩道」の解釈って何なのだろう。音楽解釈の点数が高いってどういうことなのだろう。

 といった、ボヤキに近い長い前フリのあとにオーディオの話題。

 カーオーディオにはコンクールというものがあって、審査員が審査してその点数で順位を付ける競技会が存在し、僕自身も審査員を担当したことがある。審査は限られた時間の中でやらなければいけないので大変だが、採点自体は15程度あるひとつひとつの項目について判断していけばいいので、それほど悩むようなものではない。たとえば「ビリつき」とか「ノイズ感」といった基本的なものもあるし、「中音域のサウンドクォリティ」とか「楽器や声の音色の再現性」といった音色感に関するもの、「サウンドステージの全体的なバランス」とか、「サウンドステージの奥行き方向の深さ」といった音場感やサウンドステージに関するもの。そして総合的な「音楽性」という項目もあって、これは以上の技術的というか、オーディオ的な項目があまり芳しくなくても、そのカーオーディオのオーナーが中心に聴いている音楽は良く鳴るとか、楽しむことが出来る場合に加点しようという発想だった。ポジティブに捉えたいという配点だ。




 オーディオにもやはり優劣というものは存在するし、技術的に高い達成を持ったオーディオではいろいろなジャンルの音楽を楽しむことが出来る。また、あえて参加料を払ってコンクールに出てきているのだから、ある種の客観性とか評価をしてもらいたいという気持もあるわけだし、審査する側としてはそれに誠実に応えなければいけないとも思った。

 興味深いのは、たとえば高いレベルでまとまっているAとBというふたつのカーオーディオがあったとして、個人的にはAが好きだが、自分の採点としてはBのが高得点というのが存在することだ。逆に言えば、それくらい自分の好き嫌いで採点しているわけじゃないということでもある。オーナーが好きで聴いてるのだからどんな音でもいいじゃないか、という意見も聞こえてきそうだが、やはり競い合うことは大事だ。


競い合って認め合う。フィギアスケートでもカーオーディオの世界でも。

鈴木裕出演~【特別番組】プラチナSHMのすべて~不朽の洋楽名盤編 全40タイトル

 と、同時にお互いを認め合う。これがコンクールの根底にないとお互いを否定し合ってしまうことになりかねない。頑張って構築してきたオーディオである。他人のオーディオを否定することもない。カーオーディオのコンクールの時も、審査員が審査する以外はそれぞれのオーナーが他の人のクルマの音も聴いていた。興味もあるだろうし、勉強にもなる。趣味なのだからあたり前と言えばあたり前だが。

 フィギュアスケートの選手たちも、もちろんお互いを認め合っているはずだ。あの領域に到達するためにどれほどの努力や節制が必要だったのかお互いに知っているからだ。メディアや無責任な素人が対立を煽ったり、選手をけなすことをすべきではないと考えている。オーディオでもフィギュアでも、知らない人ほど全否定したり、節操なく批判するものだ。ルールとか審査の内容も知らないのにものを言うべきじゃない。

 そういう、あの競技を取り巻くものも含めてフィギュアスケートは見ていて辛いのだ。

(2014年3月3日更新) 第37回に戻る 第39回に進む

 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。ライターの仕事としては、オーディオ、カーオーディオ、クルマ、オートバイ、自転車等について執筆。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)季刊『オートサウンド』ステレオ・サウンド社、月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。オートサウンドグランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員(2012年4月現在)。

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