コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第149回/ずっと幸せなオーディオ [鈴木裕]





 世の中にはおいしいものがたくさんある。今日はあそこのラーメン、明日は隣町のイタリアン、あさってはさっぱりとした焼き肉屋さんといろいろ行けたらいいなと思う。お寿司、フレンチ、タイ料理も好きだし、ちゃんこなべに焼きそば、手打ちのそばも外せない。和菓子もいいしケーキもうまいし、時々登場するどっかの外国のデザートも食べてみたい。

 正直、そんなにおいしいものを食べ続けるのは経済的にまず無理だし、そんなに飽食をしていてはコレステロールは溜まるし太るし、健康に良くないだろう。



究極は白メシとお茶のようなオーディオ?


 いや、たぶん一番問題なのは毎日そんなにおいしいものを食べつづけていたら「おいしい→うれしい→幸せ」みたいな感覚がなくなってしまうことじゃないか。1年前はあんなにおいしいと思って食べていたものが、おいしくなくなってしまうのだ。

 おいしいと言えば、以前山の奥の方にあるマタギのおっちゃんのやっている食堂に行ったことがある。たしか昼の1時過ぎで、そのおっちゃんがちょうどメシを食っていた。ちらっと横目で見ると、彼が摂っていたのは白メシとお茶だけだった。おー、さすが本物のマタギのおっちゃんは違うなと思った。ご飯(お米を炊いたもの)完全食説というか、ご飯だけ食べていれば大丈夫という考え方もあって、山で獲ったクマやシカの肉も時々食べつつ、ふだんは白メシだけなのかもしれない。事実そのおっちゃん、生命力がギラギラとしているというか、オーラみたいなものも強かった。

 いやこれ、オーディオの話である。

 複数のシステムを持つ楽しみがあって、ある部屋はフルレンジのシンプルなシステムで歌が良く鳴るもの。隣の部屋はワイドレンジで音の色彩感が豪華絢爛な感じ。その隣の部屋はシリアスでストイックで真っ正面から切り付けてくるような再生音。その先はとろとろにとろけるような、ふんわりとじんわりとカラダとココロにしみ入ってくるような音。そういうオーディオを構築できるのがひとつの夢としてあるが、実際どうなんだろうと思ったりする。そういう境遇になったことが1ミリもないので想像しにくいが、幸せなのだろうか。毎日美食に明け暮れた挙げ句、ココロの満足感が低くなってしまったりしないのだろうか。

 また、こんな風にも考える。

 オーディオの音を良くするというのはどういうことか、と。新しいオーディオアクセサリー類の何かを自分のシステムに投入したところ、これが見事にうまくハマって、音がとても良くなったとする。うれしい。でも、10日、一カ月、1年と経ってしまうともうその音に慣れて、うれしい感覚はなくなっている。新しいアンプやスピーカーの投入もしかり。慣れてしまうのだ。だったら音が良くならなくてもいいではないか。

 変わり続けることが幸せなのか。

 であるならば、なるべくグレードアップしないように、少しずつ音を良くしていった方が幸せではないのか。1㎝単位で少しずつ世界記録を更新していった棒高跳びのセルゲイ・ブブカのように、つとめてすこしずつ世界記録を更新するやり方だ。意図的にちょっとずつ音を良くしていく方が、オーディオの達人なのかもしれないと考えたりもする。

 究極的には、あのマタギのおっちゃんの食べていたような、白メシとお茶のようなオーディオ。これが実現できたらカッコイイと漠然と思うのだが、漠然としすぎていて具体的な何かがまったく思い浮かばない。

(2017年3月31日更新) 第148回に戻る 第150回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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