コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第211回/どうしていいかわからないオーディオ初心者の人に[鈴木裕]
ミュージックバードのコラムをアップしてもらっている担当者に、テーマに関してリクエストありますかと訊いたところ、オーディオのことがぜんぜんわからないんですけどどうしたらいいでしょう、というきわめて漠然とした反応をいただいた。音大出身で、ピアノを弾いていた女性だ。よりよく音楽を楽しめるにはどうしたかいいか、というような意味に捉えて、この疑問に答えてみたい。 現在のところ多くの人にとって一番身近なのは、スマホで音楽を聴くことだろう。まずはこれを聴く時に使うヘッドフォン/イヤフォンを替えると音楽の聞え方がどうなるのか体験してみてほしい。イヤフォン/ヘッドフォン売り場で、複数の機種を試聴できるところ、たとえば東京で言えば秋葉原のeイヤホンに行くと、たくさんの製品を体験することが出来る。各地でも規模の大きな家電売り場であれば、ある程度の製品数が揃っているだろう。 |
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最初の段階としては、たくさんの機種の中から何を聴くかの指針もないだろうから、とりあえずは値段で区切るのが得策かもしれない。3千円以下とか、5千円以下とか。まずは何の先入観も持たず、その範囲の中で10機種くらい聴いてみたい。2曲で6分間、10機種で1時間。もし、大して違いはないなと感じれば、買わないで今までのもので聴いていけばいいし、良くはなるんだけど5千円の投資には見合わないと感じれば手ぶらで帰ってくればいい。
ちょっと説教臭くて恐縮だが買い物というものはオーディオ関係にかかわらず、積極的に欲しくなるものを買った方が成功する場合が多い。なんかピンと来るというか、この曲のこのヴォーカルの聞え方が生き生きとしていいとか、ピアノの音が澄んでいるとか、ヒップホップの低音が気持ちいい、といったようなポイント。音がいいと言うより、好きな音楽をより楽しく、気持ちよく聴けるもの。それを良しとしたい。
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オーディオ評論家とかヘッドフォンライターの記事で誉められていたとか、評価が高いものを購入するのもアリだとは思うが、そんなことは気にすることなく、自分は好き、自分はしっくり来ないという観点で聴いて買ってほしい、というのが鈴木裕の心からの願いだ。そして、好きなポイントがあって買って、長らく使っていくうちに、自分が実はこのポイントを好きだったんだというのが後になってわかってくることもある。好きだと思っていたのが実は飽きてくることもある。というか、実は人はけっこういろいろな音が好きなのだ。このサウンドの傾向にはこのヘッドフォンが合っているとか、この人の声はこのイヤフォンがいいというのもある。料理で言えば、甘いものも辛いものもあるし、濃くておいしい料理もあれば、薄味で好ましいメニューもある。 |
さて、ここまでは「音」という観点だが、売り場でいろいろな製品を試聴して手に取っていくと、デザインの好き嫌いも大きいのを感じると思う。色ということもあるし、形もあるし、素材の感じ、仕上げの質感、チープでいい感じ、高級感が心地よいもの、スタイリッシュ、レトロシック、などなど、いろんなデザインが存在する。これに気付くと、もう実はオーディオ好きの最初の階段を登り始めていることになる。そう、イヤフォン/ヘッドフォンという音楽を聴く道具の、その道具自体のモノとしての魅力に気付いてしまったからだ。「趣味とは、その道具自体が目的化することである」という定義があるが、既にその領域に踏み込んでいる。
何十万円とか何百万円のオーディオというのも、そうした好きな音、好きなデザイン、好きな質感を求めて、グレードアップしていった先にある。他人からは邪魔なオブジェにしか見えなくても、その人にとっては音の気持ち良さと共にモノとして好きなのだ。他人がどうこう言う問題じゃない。 オーディオって要するに音楽を聴く道具じゃないかというのがひとつの考え方だとも思うが、超高級、超高額なオーディオも、数千円のイヤフォン/ヘッドフォンを選ぶ延長上にある。また、メーカーとかブランドの持っているストーリーと音の関係とか、好きな者どうしの交流とか、あるいは自作の楽しみとか、ネットではなく実際の店を探し歩くといった面倒臭いことが楽しみになってくることもある。オーディオ趣味というと今やずいぶん狭い世界でもあるが、録音された音楽を聴くという広い意味では分母の大きいホビーなのもまた事実。 |
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と言うわけで、まずはイヤフォン/ヘッドフォンなど、今使っている以外のモノで音楽を聴いてみることを勧めたい。 |
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