コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第212回/レコード・クリーニング愛好家と出会った1月[田中伊佐資]
●1月×日/「私はこうやってレコードをクリーニングしてます」みたいなアンケート企画を月刊ステレオ誌の3月号でやっている。 この分野は、ミゾに付着した(あるいは取れた)ゴミを肉眼で確認できないだけに、それぞれの人が自分にフィットするやり方でやっている気もする。 水に浸しギュッと絞ったガーゼで拭く、クリーニング液をたらして専用クロスで拭く、ブラシで擦った後にバキュームマシンで吸い込む、超音波を当てる、接着剤でパックするなどなどいろいろあるが、実務的なノウハウよりもそうする理由(その人なりの理屈)が話として実は面白いのかもしれない。 |
クルールラボの美肌ソニック |
柄沢さんがクリーニングに力を注ぐ出発点は「レコードをかけ終えたとき、針先にゴミが付着することが、なによりも許せない」ということだ。
「再生したときのチリパチがイヤなんじゃなくて、そっちですか。針先のゴミなんて、ハケでちょいちょいと擦って取ればいいでしょ」とすかさず突っ込もうとしたが、いや待て針先の汚れは確かに侮れないと思い直した。
FLUX HIFIの針クリーナー「SONIC」をたまに活用するが、処置をするとミクロレベルのゴミがレコードを1回かけただけでかなりくっつくことがわかる。きれいにしてからの再生音は誰でもわかるほどクリアになるのだ。
だから柄沢さんは針を保護するためにレコードを磨いているともいえるだろう。
クリーニング液はいろいろ試したそうだが、コンタクトレンズ用の精製水に30%イソプロピルアルコールを混ぜている。
アルコールのレコード有害説は根強くあるが、どうなんだろう。僕は無害だと思っている。
樹脂に関して化学的に研究した人によると、アルコールは塩化ビニールに影響を与えないという話を聞いたせいもあるが、アルコールで盤がおかしくなった事例にまだ出会っていないことが大きな根拠だ。音質悪化もまだ体験したことがない。
リョービの集塵機 VC-250T |
柄沢さんはそのクリーニング液を使って、白馬毛歯ブラシKENT(池本刷子工業)のブラシ部分だけを縦に4つ並べて、電動歯ブラシにジョイントとできるように工夫し、掃除していた。 しかしもっといいブラシがあるはずだと探したところ、毛先が0.005mmの赤ちゃん用ボディブラシを見つけた。操作性は悪くなかったそうだが、細いために大量の洗浄液を吸ってしまい、効率が悪かった。また手動よりも電動がいいと考えて、行き着いたのがクルールラボの美肌ソニックだった。 「美肌ソニックは、ブラシが1分間に4800回の音波振動することで、“きめ細かい泡”を生み出し、皮脂汚れや残ったメイクを擦らず浮き上がらせます(HPより)」。 |
これはよさそうだが、考えてみたら、レコードを女性の肌並みに丁寧に扱う一方で、ダイヤモンド針で引っ掻くわけだから、マニアとは勝手なもんである。 盤を磨いてから後処理がある。これはさすがだった。リョービの業務用集塵機で吸い取るのだ。先端部分はレコード用のノズルを自作していた。 液体を使ったレコード・クリーニング後は必ずバキュームするべきだと力説していたが僕もそれには同調する。 洗った後にきれいに拭いても液が少しは残る。それを自然乾燥させたとしても、その液に含まれていた微小なゴミは残ってしまう。衣類の洗濯のようにすすぎ洗いを繰り返せば問題ないが、普通そこまではやっていられない。まあこれは最初に書いたように、実態を肉眼で見たわけではなくて、気分的な要素が多分にあるのだが。 |
集塵機の先端ノズルはレコード用に一工夫 |
音楽を聴くのかレコードを磨くのか、どっちが目的かわからなくなる知り合いも少なくないらしい。
おそらく汚れで音が悪くなろうとノイズが出ようと気にしない、ゆえに掃除なんぞしないが最も幸福なスタイルなんだろうと思う。僕も早くそこまでの鈍感力を磨きたいものだ。
(2019年2月18日更新)
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