コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」
<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>
ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー
第34回/ぶらっと奈良に行ってきた
金・土・日と、奈良に行ってきた。当連載第16回で京都市近郊のオーディオ愛好家M氏のお宅訪問記を書いたが、その取材中、ウチのやつは浄瑠璃寺にいて、「すごく良かったわよ。1月には吉祥天立像(土門拳『古寺巡礼』などで広く知られる)の特別公開があるから、ぜひその日に行きましょうよ」とくり返しいう。ちょうどその日は、締めきりと締めきりのはざまだし、「そこまでいうなら行ってみるか」ということになった(正確にいうと、浄瑠璃寺は京都府木津川市なのだが、奈良市内から急行バスに乗るほうが何倍も行きやすい)。 |
浄瑠璃寺 浄瑠璃寺の池も、この冬一番の寒波に凍った |
當麻寺。左から金堂、本堂(曼荼羅堂)、講堂 |
2日目は、いまJR東海のテレビCMで盛んに取り上げられている當麻寺(たいまでら)を訪ねた。十代から大伯皇女(おおくのひめみこ)の万葉歌が好きなので、久方ぶりに二上山(大津皇子の墓所)を拝みたくなったのだ。
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106番歌 ふたり行けど行きすぎがたき秋山をいかにか君がひとり越ゆらむ
(ふたりで行っても難所である秋の山を、わが弟・大津皇子は、ひとりでどのように越えているのだろうか)
165番歌 うつそみの人にあるわれやあすよりは二上山をいろせとわが見む
(謀反の罪で処刑されてしまった弟と違って、いままだ生きている私は、あすからあの二上山を恋しい弟だと思って恋いしのぼう)
「そんなこと常識だよ」と笑われそうだが、この山、筑波山などと同じように頂上が2つ有るから二上山という(古代はフタカミヤマと呼び、いまはニジョウサンと呼ぶ)。
筋肉痛がひどいので登頂は断念したが、帰りの電車、大和八木あたりから「夕陽をバックにした二上山のシルエット」が見えたのは大きな収穫だった。あのふたこぶラクダのような稜線は、なぜか心に深くしみ入る。 |
「道の駅ふたかみパーク當麻」の蓮花定食 |
3日目は、某講演会を聞きにいった。そうしたら肩書きだけは立派な歴史学者が、ろくな準備もせず、ウィキペディアの引用と他人がまとめた孫引き資料のコピーを使って、素人レベルの雑談をした。言い訳と前段がやけに長く、自らテーマを明示したくせに、それに対する答えはどこへやら。孫引き資料をひたすらなぞって時間を稼ぎ、エンディングは自虐ネタで締めくくるという体たらく。「ギャラもらっといて、いい加減な仕事してんじゃねぇぞ。このボケ」と野次ってやりたかったが、うしろを見ると、100人以上の古代史ファンがうっとり聞いていらしたので、「この方たちのしあわせを壊してはならない」と必死でこらえた。
筆者もよく「講演らしきもの」をさせていただくが、ああいういい加減なことは絶対しちゃいかんなと、肝に銘じた。
大宇陀人麻呂公園に立つ柿本人麻呂像 |
講演会のあとは、飛鳥のとあるお寺に参り、とろろ定食をいただいたのち、甘樫の丘に登った。飛鳥の名所が一望できる丘だが、ここからも二上山がよく見えたのはうれしかった。もちろんはるかに近い大和三山(香具山・耳成山・畝傍山)もよく見えた。学生時代から十数回登っているが、こんなにもよい気持ちになれたのは初めてかもしれない。 |
この歌が詠まれた猟場なのだが、もちろん夜明け方でないから、そんな絶景は望むべくもない。しかし、なぜか気分はよかった。筆者はひどい頭痛持ちなのだが、この3日間は頭痛のきざしすらなかった。肩も凝らなかった。 |
あるじの帰りを待ちわびる「楓ちゃん」 |
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