コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第41回/オーディオのステアリング

 オーディオの話をするのに、時々クルマにたとえる時がある。
 パワーアンプはクルマで言うと「エンジン」、みたいな言い方だ。クルマに興味がない方には、かえってたとえ話の方がわかりにくいかもしれない。
 スピーカーはクルマで言うと「タイヤ」ということになるが、細かく言うとスピーカーユニットが「車輪(タイヤ+ホイール)」、エンクロージャーが「サスペンション」といった感じだろうか。そして、ボリューム(音量調節機構)が「アクセル」と「ブレーキ」と続く。


オーディオをクルマに例えると?

 問題は、これは最近考えついたのだが、クルマの「ステアリング」だ。慣習的に日本では「ハンドル」と呼ばれるが、要するにフロントタイヤの向きをコントロールして曲がるための操舵のシステムである。これがオーディオでは何にあたるか、という話。
 実はこれ、トーンコントロールとかイコライザーじゃないかと思う。

 電車にはステアリングはない。いや、もしかしたらステアリング機能を持った電車もごく一部存在するかもしれないが、基本、電車で運転手さんが握っているのはマスコン(マスター・コントローラー)と呼ばれる、加速と減速をコントロールするレバーだ。なぜステアリング機構がいらないかと言うと、レールに沿って走っていけばいいからだ。そもそも電車用に作ったレールであり、ステアリング操作の必要はない設計である。


(補正前)

(補正後)

 アキュフェーズのデジタル・ヴォインシング・イコライザーDG-58で測定、補正したうちのオーディオの周波数特性のグラフ。 右チャンネルのみをアップしてみた。
 補正前は低域の50~70ヘルツや、200ヘルツあたりの落ち込みが気になる。
 フラットに自動補正してみると、見事に補正されている。 実際に聴いても、音の色彩感や、楽器の音色の再現性が高い。


 クルマもクルマ用に作ったガイド付きの道があればハンドルは要らないのかもしれないが、一般の道はそういうわけにもいかない。交差点を曲がるし、ごく一部の道を除いて、通常の道はゆるく右に左にと曲がっている。あるいはストレートな道でも凹凸やアンジュレーションもあってクルマは直進しない。だからハンドル操作をしないとどこかにぶつかってしまうのだ。要するに走れない。

 オーディオも、オーディオ用に設計、施工した部屋であればイコライザーは必要ないだろうが、多くの場合、定在波や響きのクセなど部屋は何らかの問題を抱えている。これを補正しようというのがイコライザーだ。音響パネルなどの各種オーディオアクセサリーも有効だが、およそ120ヘルツ以下の低音のコントロールはかなり難しい。
 補正するだけでなく、たとえば声を魅力的に聴かせるとか、低音感を好みの感じにするなど積極的な音作りにも使える。周波数特性をフラットにすればいい音になるわけではないが、ジャンルを越えてさまざまな音楽を聴けるオーディオはフラットを基本とした周波数特性を持っているように思う。そういうコントロールを積極的に行えるのがイコライザーだ。

 ということで、脅かすような話でまことに恐縮なのだが、オーディオでイコライザーがないということは、クルマでたとえるとハンドルがないのといっしょ。そう考えるようになった。クルマのような事故の危険性はオーディオにはないが、音が良くないというのは音楽を再生する機能においては致命傷とも言える。

 ただしこれには例外があって、小音量再生の方や、低域のレンジが100ヘルツ程度くらいのスピーカーだったら部屋の影響は少ない。そういう方はイコライザーなしでも大丈夫だ。なんか、終わりの方でフォローして、却って読んでいる人の心証を悪くする墓穴を掘ってるような気もするが。

 あなたのクルマ、いやオーディオに「ハンドル」は付いていますか。

(2014年3月31日更新) 第40回に戻る 第42回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。ライターの仕事としては、オーディオ、カーオーディオ、クルマ、オートバイ、自転車等について執筆。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)季刊『オートサウンド』ステレオ・サウンド社、月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。オートサウンドグランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員(2012年4月現在)。

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