コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第65回/一体型の強み~カーオーディオのAVナビの話題
 [鈴木裕]  

 セパレートとワンピースと書くと季節はずれの水着の話題になるが、セパレート化と一体型はオーディオの話。たとえばアンプ。ハイパワーが必要な場合、大出力のパワーアンプ部での電流や振動の影響を避けるためにプリ部とパワーアンプ部は分かれることになる。さらにプリも電源部と本体、あるいは電源部と左右のチャンネルが独立した3筐体化していったりする。パワーアンプ側もモノーラルになり、しかも本体と電源部というように分かれると4筐体。つまり、アンプだけで7筐体になっていく。

 分けていくことのメリットはいろいろあるが今回のテーマではないので省略。


  ALPINE BIGXプレミアム

 今回は一体型の良さについて書いてみたい。誤解なきように先に書いておくが、オーディオの世界に限らず「逆もまた真なり」ということは良くある。セパレートで大型・高級なオーディオにはそれでなければ聴けない音がある。一般的なサイズの大きくも小さくもないオーディオ、たとえば幅43センチくらいのプリメインアンプがメジャーな存在なのはそこにさまざまなメリット、存在理由を持っているからじゃないだろうか。ようは自分がどんな音が欲しいか、どう音楽を聴きたいか、どんなオーディオを所有したいか、という条件とか必要性とか趣味性とか、堅く言えばそれぞれの生き方とかオーディオに対する哲学の問題だと思う。いきなり話が堅くなって恐縮だが。


  ECLIPSE AVN-SZX04i

 さて、一体型のオーディオの内部を簡単に分けてみると、CDを回転させて読みとる部分があり、DAC部があり、音量調節や「音のコントロール部」があって、チャンネル分のパワーアンプ部を持っている。ラジオを聴くためのチューナーや最近だとインターネットラジオを聴けるものもある。これはホームオーディオで言うと、いわゆるレシーバーだ。率直に言って、普及価格帯というか、入門機的なポジショニングの製品だ。
 実はこの一体型オーディオの中でも現在大変なクォリティになっているのがカーオーディオのジャンルのAVナビである。「オーディオって音楽だ!」No.127でもしゃべらせてもらった。ここではあらためてその優位性をまとめておきたい。

 現在のAVナビの優れたものは、正真正銘、何のエキスキューズもいらず、真実まことに相当な音のクォリティに到達している。たとえば具体的な数字として挙げれば、アルパインのAVナビの内蔵パワーアンプ部のダンピングファクターは実測で300を越えているのだ。昔のような、ナビにオマケでオーディオがついている状態じゃない。もちろん、家の中でAVナビを使うためにはクルマ用の12.ボルトのバッテリーと、そこに給電するDC12.ボルトのチャージャーが必要なのでオススメするわけではない。ただ、オーディオを考える時に非常に興味深い成り立ちをしているように思うのだ。


  Pioneer AVIC-VH0099
 一体型であるAVナビのメリット、その1は「メーカーが責任を持って音作りをしている」点だ。以前にもたとえばセパレートのプリとパワーアンプを選ぶ場合、ひとつのメーカーの同時期の、同一グレードの製品を選んだ方が失敗は少ないということを書いた。また、プレーヤー、スピーカーもひとつのブランドでまとめるとその音の評価も変わってくる。何回もそういう体験をしているが、出版社の試聴室のリファレンスを使って単体としてテストするよりも、ひとつのブランドでまとめた方が再生音のクォリティはるかに高くなる場合が実際に多いのだ。AVナビはクルマの2DINという規格の中にまとまっているので当然この条件に当てはまざるを得ない。

 その2は「信号経路の短さ」である。CDを回転させ信号を読み取り、プロセッサー部、DAC部、プリアンプ部、パワーアンプ部という流れでスピーカーユニットへ信号は出力されていくが、2DINの箱の中で、一番上で読みとったものを一番下へ持っていき、また2段目の階層に戻しといった無駄なことをする理由もない。信号を長く引き回すことは対ノイズ的にも不利だし、なにしろAVナビの中には空間的余裕はない。従って中の回路は1枚の基板の中においても、何枚かの階層に分かれての立体的な流れという意味でも合理的で短いものにならざるを得ない。

 その3は、「2」とも重なるが、「端子や接続ケーブルがないこと」である。端子の存在は必要悪かもしれないということは以前に書いたような気がする。また、ケーブルはたしかにいろいろと音が変わって楽しいが、ほんとうに高いクォリティものというと残念ながら高額である。こういった存在がそもそも内部においては存在し得ない。

 その4は少なくとも現在の日本において「AVナビはイヤー・モデル」であること。毎年、型が変る。もちろん変ればいいってものではないが、やる気のあるメーカーのものは実際に年々驚くほど進化している。ホームオーディオではちょっとあり得ない状況じゃないだろうか。


  DIATONE NR-MZ90PREMI

 その5に、「製造している台数の多さ」である。ホームオーディオの、たとえば普及価格帯のCDプレーヤーやプリメインアンプの台数と比較しても10倍とか100倍とか、もしかしたら千倍くらいの台数を製造しているはず。これがどういうことを意味するかというと、たとえばトランジスタやコンデンサー、あるいは集積回路、いわゆるチップといったパーツを専門メーカーと共同で開発して採用することが可能になる。


  Panasonic CN-RX01WD

 その6は「厳しい経済環境で、厳しい立場というAVナビのポジショニング」である。つまりユーザーのさいふのヒモは堅く、ナビ情報はスマートフォンでまかなえる時代だ。10万円を越えるAVナビを購入してもらうためにはその魅力のひとつとして音がいいことが必要なのだ。メーカーの人は必死である。

 具体的に音のいい機種名を挙げておこう。
アルパイン/ビッグXビッグXプレミアム
イクリプス/AVN-SZX04i
カロッツェリア(パイオニア)/AVIC-VH0099、AVIC-ZH0099
ダイアトーン/NR-MZ90、NR-MZ90PREMI
パナソニック/CN-RX01WD、CN-RX01D

 中でもダイアトーンとアルパインの2つのブランドの製品の音は頭抜けている。ステレオサウンド社のカーオーディオの雑誌『オートサウンド』。現在は雑誌としては休刊状態でウェブのみのメディアとなっているが、そこでのグランプリにおいて、ここ3年、この2機種はずっと1位を分け合っている。いいライバルの存在はお互いを高めあうことになり、その頭抜け型が尋常じゃない状態なのだ。しかも、アルパインの太く濃く、多くの人がわかりやすい音の良さと、ダイアトーンの繊細でしなやかな、オーディオ的マニアックな音、というように音の方向性が年を追うごとに乖離しているのも実に興味深い。
 一体型のオーディオのメリットではないが、この2機種においてのメリットその7として、「善きライバルの存在」を挙げておきたい。

(興味のある方は、http://www.stereosound.co.jp/as/ にアクセスしてほしい)

(2014年11月28日更新) 第64回に戻る 第66回に進む 

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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