コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第73回/江川三郎先生の40年にわたる業績を振り返る [村井裕弥]





  1月18日、オーディオ評論家・江川三郎先生が亡くなられた。もう1か月がたつというのに、ショックがどよーんと体内に残っている。
 21日発売の『季刊オーディオアクセサリー』第156号には、その業績を表す年表が掲載された。音元出版会議室に朝から晩までこもり、第2号から第110号までのノートを作り、それを元に自宅で作成。第111号から第131号は自宅にあるバックナンバーを読み返しながらまとめたものだ。トータルで50時間以上かかった。
 その結果、1976年から2008年にかけ、江川先生がどのような発言をされていたかが、ハッキリ浮かび上がってきた。くわしくは第156号をお読みいただきたいが、70年代のみざっくり要約すると、

1974年 ○ 究極のアナログ再生には、大きくて重いターンテーブルが必要だ
1975年 ○ ケーブルによって、音質は大きく変わる
1976年 ○ ニアフィールド・リスニングの可能性
1977年 ○ ウーファーユニット2発のお尻を、向かい合わせに連結せよ
     ○ 渦電流を減らせ
1978年 ○ スピーカーケーブルをとことん短くせよ
     ○ 電源のクォリティにこだわれ
     ○ 逆オルソンのスピーカー・セッティング
     ○ オーディオ用のタップをぜひ開発してほしい
1979年 ○ JBLバラゴンの左右連結は、音質向上のための必然だった
     ○ ユニットを四角い箱に収めちゃ駄目なんだ。角を丸く落とさないと
     ○ 生け花用の剣山を、カーペットに突き刺せ

 まだそんなこと誰も気にしていなかった40年前、すでにこのようなことが指摘されているのだ。しかも、その多くが後年製品化されたり、オーディオ愛好家の「常識」になっていたりする(発言当初は異端扱いだったというのに)。
 新製品ニュースをながめていると、いまでも「えっ!? これは何十年か前に江川先生が手づくりした試作品そのまんまなんじゃないの?」という代物が現れたりもする。




2000年6月15日 自作スピーカー「オープンマインドジルコン」と江川三郎先生



2001年5月10日 BOSEの業務用スピーカーを傾けて鳴らすことで、その指向特性を検証する江川三郎先生

 先日、自分の番組で追悼特集(4月放送予定・4週連続)を収録。ゲストのお言葉を、思い付くまま引用すると、






2002年2月21日 無指向性スピーカー特集

○ 時流に流されず、理論や測定値より、聴感を大切にした方であった
○ 時代を超えた「宇宙人」のような方だった
○ 音楽家との交流に熱心で、「本当に耳のよい人たち」の指摘を謙虚に受け入れた
○ 音楽再生はあくまで個人的な行為であり、人様を驚かせるためにやるものではないと語っていた。
○「低音がどうの、高音がどうの」ではなく、よりよい音楽再生のためのオーディオを大切にしていた
○ 作る側の都合より、聴く側の心地よさを大切にした
○ 8,000円アナログプレーヤーやポータブルCDプレーヤーの改造は、節約のためではない。彼は、それらをベースに「真のハイエンド」をめざしていた
○ オーディオにひれ伏してはならないというのが何より大切なポリシーだった
○ 問題点に気づき、それをクリアする方法までは考えついても、それを手づくりで実現させてしまう工業力に脱帽(とても真似できない)
○ 不毛な議論が起こりそうになると、「じゃあ実験してみようじゃないか」が口ぐせだった






 どれを取っても「ああ、とても真似できないなあ」と思う。

 97年のある日、江川先生から「君の書くものは面白い。インターネットで、イベントレポートを書いてみる気はないか」と声をかけられ、いつの間にかライターになったのだが、「少しは見込みのあるやつ」と思っていてくださったのだろうか。
 そういえば、とある業界人がわが家にいらして、「江川先生が提唱していらしたことを、そのまま実現したような音ですね」と褒められたことがある。「まさかぁ」と思って、全然本気にしていないのだが、お世辞であってもうれしかった。
 ただひとつの心残りは、江川先生をわが家にお招きできなかったことだ。もし実現していたら、「こんな変な音出して、よく平気でいられるね。ははは」と笑い飛ばされただろう。

 改めてご冥福をお祈りしたい。

(2015年2月20日更新) 第72回に戻る 第74回に進む 




2009年5月9日 広島市サウンドデンでおこなわれた江川三郎実験室 



2010年7月8日 厳しいリハビリを乗り越え、おおよそ2年ぶりで工房に復帰された江川三郎先生

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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