コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第93回/カートリッジはリードワイヤーでどうとでもなることを体験した8月 [田中伊佐資]

●8月×日/カメラマンの高橋慎一さんが監督・撮影した映画『Cu-Bop(キューバップ)』が渋谷のアップリンクで期間限定上映中。すごい反響で連日ソールドアウト。必ず上映後にトークショーがあり、ぼくも呼ばれてひとくさり話をさせてもらう。
 といってもこの映画、地元ハバナとNYで活動する二人のキューバ・ミュージシャンの出会いを描いたドキュメンタリーで、人前で講釈できるほどぼくはキューバ音楽に精通していない。そこでゲストがホストにインタビューをする、文字通り主客転倒で話を進める。これは仕事などで顔を合わせたときの会話は、田中ツッコミ、高橋ボケの感じなので、打ち合わせもなく行き当たりばったりながら、スムーズに流れて終了。
 それにしてもキューバで政府に無許可で映画撮影することはとんでもないことで、もしバレたら捕まっていたらしい。しかも勝手に国立音楽大学でコンサートを主催してしまったというから、ヘタすると国家問題に発展していた(かも)。


映画『Cu-Bop(キューバップ)』は渋谷のアップリンクで上映中

8月9日・16日に「アナログ・サウンド大爆発!」にも出演してくださった柄沢伸吾さん(左)



●8月×日/カートリッジのリードワイヤー専門工房KS-Remastaを訪問取材(ステレオ誌「ヴィニジャン ~アナログの壺~」)。代表の柄沢伸吾さんは音ミゾにも出てもらったことがあり、60個のカートリッジをスタジオに持参してくれて、そのうちの一部を使ってワイヤーの聴き比べをやった。
 60個でびっくりするのはまだ早くて、工房にははざっと数えてその5倍ものカートリッジが個別に仕切られたケースに入れられていた。ただ取材テーマはコレクションではない。おそらく世界で最もリードワイヤーをハンドメイドしている柄沢さんのリードワイヤーだ。
 なにしろ導体の素材、その研磨、ハンダ、フラックス(ヤニ)などの複雑なコンビネーションでラインアップが成立していて、グレードが上がっていくと各種の方向性がはっきり出てくる。あまりにもヴァリエーションが多くてお客さんが混乱するとかで、工房の通販ではたった4種類に絞っている。結論としては、カートリッジはリードワイヤーとのマッチングで音が決まり、高級品であるかどうかは二の次ということだ。

●8月×日/KS-Remastaでリードワイヤーを購入。工房で聴かせてもらったらもうだめだった。ぼくが買ったのはウェスタンのヴィンテージ・ワイヤーを柄沢さんが被覆を剥き、酸化した皮膜を削ぎ落とし、同じくヴィンテージ・ハンダで端子を接合させたもの。
 ヴィンテージ・ワイヤーはあまりに細く頼り無げだった。まあよくこなれていて枯れた音かなと想像していたら、これがとんでもない。赤裸々で鋭敏、低域はどっしり腰が据わっていた。工房には愛用のライラを持参し、それに付け替えてもらったら、途端に水を得た魚のように生き生きした音を出した。ちょろちょろっとした線がたった4本のわりには、決して安価とはいえないが、柄沢さんがここまで研鑽を重ねてたどりついた結果(音)を考えれば、納得なのだ。


リードワイヤー専門工房KS-Remastaの柄沢さんが所有するカートリッジ(※画像クリックで拡大)

●8月×日/蓄積したレコード、CD、雑誌などの収拾がいよいよ付かなくなり、売却と廃棄を決める。オーディオ部屋に取材が入っても、なんとか体裁を保てるように整理しているつもりだが、その隣りの屋根裏部屋にすべてのシワ寄せが来ていた。それを暫定的に物が累積していると好意的に解釈していたが、家内の目にはゴミ捨て小屋としか映らず、とうとうそのカオスに業を煮やして爆発、それに対抗できるだけの論拠もなく、素直に整理整頓となった。
 ディスクユニオンはいつもの買い取りキャンペーンをやっていることもあって、査定額は軽く10万円をオーバー。こういう臨時収入を知らない間に飲み食いなどで使ってしまうくらい虚しいことはないので、そっくりそのままレコードを即購入する幸せの循環(堂々巡り)に浸るのがいつものパターン。
 しかし、イケアでレコード収納に最適のラック、トレービーが月末まで半額セールを行っていることを知り、一挙に買い込んでしまった。幅80cm×高80cmの大きさでオシャレなデザイン、それがなんと1個4000円。衝動的に6個もせしめたのはいいが、さてラックはどこに置いたらいいのだろう。とりあえず、いま組み立てずに屋根裏部屋へ置いてある。

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田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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