コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第95回/ヘッドフォン、イヤフォンのこと [鈴木裕]  




 ヘッドフォン/イヤフォンは一番身近なオーディオかもしれない。ちょっとこれにまつわることを書いてみたい。
 若い世代に絶大な支持を受けている、ということはいまさらここで書くことでもないだろう。電車に乗ればでっかいヘッドフォンをしているひとたち、男性も女性も女子高生もいて、もはやファンションのひとつになっているのを感じる。これって大事である。いい音で楽しく音楽を聴けることも大事だが、でっかいスピーカーや重たいアンプというのがひとつのスタイルを確立しているように、ヘッドフォンをしている私、というのが善きものとして、ひとつのスタイルとして認められているのだ。「ヘッドフォン女子」で検索すると、いろいろなウェブサイトにヒットする。

 ヘッドフォンやイヤフォンはトランスデューサーである。空気の疎密波を電気信号に変換するもの。あるいは電気信号を空気の疎密波に変換するマイク、スピーカー、ヘッドフォンが代表的だが個人的な考えとしてはカートリッジもここに入ると思っている。どうもこのトランスデューサーは個人によって好き嫌いの嗜好が強く出ると感じている。値段とかブランドじゃなくて、自分にとって音が良く、デザインの好きなものを選んでほしい。雑誌やウェブサイトの評価などいろいろな情報が流れているが、自分で聴くのがもっともたしかな方法ではある。昔から、数多くの製品が並んでいて試聴のできるヘッドフォン売り場にはたくさんの人が集まる印象だが、やはり自分で聴かないとわからない。その経験を重ねてある基準ができた人だったら、誰か、たとえば野村ケンジの書いたインプレを読んで、それが自分向きかどうかをわかったりするかもしれないが。なにしろ、自分の好きな音と出会えた人は幸せだ。




自分のリファレンスのヘッドフォンとイヤフォン
クラシック用に気持良く訊けるDENON AH-600。50mm径の振動板のせいか、意外と駆動しにくい。空間の感じの出る密閉型。そして、3基のバランスド・アーマチュアドライバーを採用しているSHURE SE535Special Edition。エネルギッシュさとスムースさのバランスの取れた音に感じている。




 オーディオ業界の人と話をしていると、高級ヘッドフォンで音楽を楽しんでいる人たちにどうやってスピーカーを鳴らすシステムを構築してもらえるか、という話題に良くなるのだが、正直言ってその方策はわからない。スピーカーであれ、サブウーファーであれ、鳴らしたい人が鳴らすものだからだ。誰かに誘導されたり強制されて聴くものじゃないだろう。無責任なようだが、なるようにしかならない。魅力的な音、魅力的な存在のスピーカーとかアンプに出会ってもらうしかない。

 ヘッドフォンでひとつ問題だと思うのは、これだけ高いクォリティになって来たのに、いまだに4端子方式(いわゆるバランス接続。本当はアンバランス接続なのになぜかこの言葉が使われている)が一般化してこないことだ。ひとつには端子の規格統一が覚束ないからだろう。ミニジャックの4端子規格と、たとえばキャノン端子の4端子のものという2種類をデファクトスタンダードとして確立すべきだと思うが、なにしろユーザー、業界、メディア全員が濁流に流されている状態。リーダーシップを取れる存在が出てこないのだ。三者ともに不利益を被っているというのに。
さまざまな端子があることについては、
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/1505/16/news014.html








うちにあるヘッドフォン端子のある機材(据え置き用)
上の左からバーソン・オーディオのヘッドフォンアンプSoloist SL、マイテック・デジタルのUSB DAC、Stereo192-DSD DAC。そしてプリアンプはサンバレー SV-192A/D ver.2 。


うちにあるヘッドフォン端子のある機材(携行用)
左からポータブルプレーヤーAstell&Kern AK Jr。USB DACのiFi micro I DSD。そして録音機のRoland R-09。

 ちょっとネガティブなことを書いたのでポジティブな要素も挙げておこう。HPLの存在である。世の中で生み出される音楽の多くは、スピーカー用にミックスダウンされている。バイノーラル録音という、ヘッドフォン/イヤフォン用の収録方式、そしてバイノーラルマイクによって録音されたソフトもあるにはあるのだが、どうも自分が経験している限り、しっくり来ない。そんな状況が長年続いたところに出てきたのが、HPLだ。ヘッドフォン・リスニングHeadphone Listeningからの3文字で命名されている。ヘッドフォンで音楽を聴いた時に、聴きやすく、自然な音色感、自然な音場感を持った音にする技術である。アコースティック・フィールドの久保二朗さんによって開発された。 詳しくはアコーティック・フィールドのウェブサイトを参照してほしい。

 このHPLの音源は現在のところ、ハイレゾの音楽ファイルとしてダウンロードする形で購入することができる。 たとえば普通の2チャンネルの録音、スピーカー用に作られた音楽をヘッドフォンで聴いている時に、ごくごく客観的に音のいるところを把握してみると、頭の後ろの方の、下の方にいる感じがある。これをHPL2にした音源で聴くと、頭の前の方の、それも左右のヘッドフォンの発音部ではなくて、頭の真ん中のあたりにまとまって音がいる感じがする。上記のアコースティック・フィールドに出てくるイラストだと、頭から離れて音場が展開しているように描かれているが、さすがにそれはないように感じる。久保さんはそもそも頭外定位を目指していない、という。
 さらにすごいのは、HPL5とかHPL7、HPL11といった存在である。5、7、11というのは、元のソフトがサラウンドマルチとして制作されているもので、それを2チャンネルにエンコードしている。サラウンドマルチのレコーディングエンジニアであるミック沢口さんとか阿部哲也さんらが、自分たちの録ったサラウンドマルチ録音を(普通の2チャンネルの)ヘッドフォンで聴けることに驚いているくらいだ。
 宣伝になって恐縮だが、2015年10月8日放送の『オーディオって音楽だ!』で実際に久保さんにゲストに来てもらって特集するのだが、その良さが放送に乗り切れるかどうかが心配ではある。



 さいごにひとつだけ。ヘッドフォンで音楽を聴く時は音量の上げすぎに注意を。特に、鼓膜と振動板の位置が近いインナーイヤータイプは意識的に音量を設定したい。残念ながらいったんひどい難聴になると治療できないからだ。重度の難聴は不治の病である。もっと大きな音量感で音楽を聴きたかったら同じ物理的音量(dB)でもスピーカーを鳴らした方が満足度は高いと思う。住宅環境の関係で大きな音で楽しみたい時にこそヘッドフォンを使っているのにという方もいるとは思うが、自分のカラダのことなので衷心から申し上げたい。詳しくは以下のサイトなどを参照してほしい。
イヤホン難聴、ヘッドホン難聴の改善方法を理解しよう

 個人的な考えでは、未来的にはヘッドフォン/イヤフォンは小型のものと大型のものに二極分化。大きな方は耳を覆う空間の容積がより大きくなり、ドライバーの位置や角度などが進化。それに皮膚や骨格、内蔵に低音が訴えかけるサブウーファーが組みあわされ、なおかつHPL音源が普及してくると、いよいよオーディオとして面白くなっていくような気がしている。さてどうなるやら。

(2015年9月30日更新) 第94回に戻る 第96回に進む

鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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