コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第114回/ViV laboratoryのトーンアームをカーボン製にしたことで、またレコードが楽しくなった3月 [田中伊佐資]

 ●3月×日/「うーん、欲しいな」「しかし今月は金欠だ」「よし、買うか」「しかし今月も金欠だ」と現実を直視しない・するのバイオリズムを繰り返してきたが、ついに決断。ViV laboratoryのトーンアームRigid Floatをカーボン製にグレードアップした。といってもまあ、決断っていうほど大袈裟なものでもないが、従来のアルミ製でももちろん十分にいいので、なかなか踏ん切りがつかないままでいた。
 ところがカートリッジを水平に調節できるアジマス機構を付けてもらうために(現行品はすべて装着済み)、メーカーに送ったら「せっかくなら、このついでしかない」と激しい衝動にかられた。
 結果的には、アップグレードしてばっちり正解。これはかなりいい。気がつかなかった付帯音というかクセが減退、いつもよりもまして大音量にしても、かしましさがない。ニール・ヤングの歪んだギターが心地好く歪むので、クレイジー・ホーズとやった一連のセッションをまた聴き直す。


ViV laboratoryのトーンアームRigid Floatをカーボン製にアップグレード

 ●3月×日/M2TECHのフォノイコライザーJOPLIN MKIIを買ったら、輸入代理店からぜひ大阪のお客さんにも良さを知ってもらいましょうと声を掛けてもらい「河口無線」と「ジョーシン日本橋1ばん館」でデモする。
 このフォノイコの大きな特徴は、以前書いたようにイコライジング・カーブの設定を細かくできることで、コロムビアやデッカ盤を正しいカーブで聴いてみたら、お客さんはああなるほどと納得してもらえた(と思いたい)。
 またカートリッジ・メーカーのZYXが出している「ZYX RING(ジックス・リング)」も会場のリアクションが大きかった。ヘッドシェルとトーンアームの間にこれを挟むことで、両者のガタツキがなくなるという理屈だが、音の滲みがとれてかっちりした。アームのこともそうだけど、まだまだレコード回りには、やるべきアナログなことがたっぷりあるみたいだ。

 ●3月×日/ジャズ批評のジャズ喫茶巡りの連載で、大阪のジャズカフェ&バー「NELLIE」を訪問。
 大阪駅北側、通称「梅田北ヤード」と呼ばれる広大な開発途上地(空地)を右手に見ながらトボトボ歩き、こんな味気ないところに商売が成り立つのかいなと不安になってきたあたりで、店は突如出現。店内の雰囲気はスタイリッシュ、しかもお高くとまっていない。店のオーディオはアルテックのラグーナ、タンノイのコーナーヨーク、サンスイのヴィンテージ・アンプなどで、このチョイスもいい。


大阪のジャズカフェ&バー「NELLIE」

 オーナー川越智夫さんは東西新風堂という店舗や住宅の内装業を営んでいる。高い家賃を払って繁華街に出店するより、ちょっとひとけのない場所でもドレスアップした店を作るのがいいですよと提案するためにこの店を開いた。道理で格好いいわけだ。
 しかし高校時代からジャズバーに通っていたというジャズ・ファンで、オーディオ好きでもあるから、音にもこだわっていた。スピーカーはヴィンテージ系に多い、部屋のコーナーに置く3本脚を好んでいる。
 本業の技術を駆使して、オリジナル設計のスピーカーもあった。いずれは、本格的に製造を開始する予定。企業ポリシーが好きだというサンスイ(山に水)にちなんで「川越」(川を越える)というブランド名は決定している。

 ●3月×日/「あの頃をプレイバック!温故知新オーディオ歴史館」でおなじみ、「ステレオ時代」(ネコ・パブリッシング)の主筆を務める牧野茂雄さんの家を訪問(ステレオ誌「音の見える部屋」)。
 番組リスナーはよく知っているだろうが、牧野さんのカセット・テープ愛は底知れぬほど深い。デッキ、ラジカセは全部で30台は所有している。デッキによって音の味わいが異なるので、どんどん増えていったらしい。これはまさにレコードに対するカートリッジにようでもある。
 仕事部屋がオーディオルームで、いつも作業している机に向かわせてもらうと、すぐ手が届くところに文房具やらオーディオやらカセットやら何もかもがある。コックピット・オーディオと勝手に名付けさせてもらった。

(2016年4月12日更新) 第113回に戻る 第115回に進む


牧野茂雄さんの“コックピット"
田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

音楽出版社を経てフリーライターに。「ジャズライフ」「ジャズ批評」「月刊ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」などにソフトとハードの両面を取り混ぜた視点で連載を執筆中。著作に「オーディオ風土記」(DU BOOKS)「ぼくのオーディオ ジコマン開陳 ドスンと来るサウンドを求めて全国探訪」(SPACE SHOWER BOOKS)がある。

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