コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

    <雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

    ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

    第141回/ディスクの整理能力が激しく欠けていることを猛省した12月[田中伊佐資]

     ●12月×日/2月17日にDU BOOKSから発刊予定の『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』の校正会を自宅で実施。
     この本は『JAZZ LIFE』で2008年から続いたコラム「JL音質探検隊」全100回のうち67回分をピックアップしてまとめたもの。サブタイトルは「オーディオファンも一生持っていたい優秀録音盤」といまのところ決まっていて(変わるかもしれない)、まあ、そんな内容になっている。
     紹介するディスク201枚には、録音年月日、スタジオ、エンジニアなどが記載される。しかし連載執筆時に転記ミスや漏れがあるかもしれないと、CD、LPの現物に記されたクレジットと校正紙と照らし合わせる。それがその日の作業だった。
     編集のDU BOOKS渡邉淳也さん、日頃はオーディオ誌の編集者だが、今回は校正を担当してもらった野呂健一さんが集まってチェックを続ける。
     僕は盤の整理がいいほうではなく、といいいますかめっちゃ悪く、棚へ適当に新着順で突っ込んでおくので、ありかを探すときは、なあんとなくの記憶を頼りにするしかない。校正するより現物探しが大変で、このだらしない性格はなんとかしようと反省したが、うなだれている暇はなかった。
     渡邊さんから「まだ出ていないCDが結構ありますよ」とやんわり言われ、校正は2人に任せて家捜しを続ける。しかし無いものは無い。そのことごとくが、録音がいいオイシイ盤だった。だから売ることはありえない。そのCDだけ抜いた空き巣がいたとしたら、同好の士として友達になってもいい。





     最後まで見つからず、データは別の方法でチェックしますと2人は帰っていった。
     そこでふと思い当たることがあった。まったく聴かない盤は、段ボール箱に詰めてほったらかしにしてある。当然そこはノーマークだ。だがもしかしてとその界隈を探すと、あった! そして記憶のフォーカスがピシッと合った。
     これらのCDはミュージックバードに「Best Sound~オーディオ評論家が選ぶ優秀録音盤~」で使うために貸して、返送されて箱詰めになったままだった。
     ああ、いったいどうしてくれるんだミュージックバード。マジで汗かいたわ‥‥ではなくてずぼらな性格があかんのでした。と同時に、放置していたことを忘れているボケ具合もかなり深刻ですな。自戒ばかりの2016年暮れでした。




    問題となったCDの箱詰め










    レコード・クリーニングマシン「クリーンメイト」

     ●12月×日/レコード・クリーニングマシン「クリーンメイト」の取材。取材といっても、ステレオ誌に「試してみたいので借りてくださーい」とお願いしていたもので、要するに個人の趣味モード全開なのだ。
     このマシンに注目したわけは、製造元がオーディオメーカーでないアイテックスという新潟の会社である点。サイトで見ると事業案内のトップには「現金自動受払機組立製造」とある。精度を求められる仕事が本業であるから、いい加減な作りではないだろうと思った。それに、ばんばん売れるものでもないから「よく作ったなあ、えらいなあ」とそのスピリットにもいたく感服する。
     僕がこの会社の経営者だったとして、会議の席上で部下が「レコード・クリーニングマシンを作る計画を練っています」などと突然ブチ上げたら、ブチ切れるよね。「オマエ、会社、つぶす気かー」と。いかに僕がレコード好きであろうとも。まあ、実際その当たりの経緯はよく知りませんけどね。


     マシンはヴァキューム方式にもかかわらず、価格が税別9万2000円(市場価格はもっと安い)であることも画期的。高いものが多い海外製品と勝負に出ている。それでありながら、見た目もちゃちくない。
     ステレオ編集部の隣りに半分が倉庫になっている工作室のような中途半端な試聴室がある。その日、編集の守屋良介さんがレコードを持って待っていた。
    「ジム・ホールの『アランフェス協奏曲』RVG刻印付きのオリジナル盤です。昨日ディスクユニオンで買いました。激安です。でも盤面を見てください」
     前オーナーは、このレコードをトレイにしてフライドポテトを食べたのかと思うほど表面がうすら白っぽくなっていた。さっそく再生してみたら、ジャリジャリと豪雨のようなノイズが著しい。
     これが取れたら大したものだねとクリーンメイトで洗浄開始。付属のクリーナー液をじゃぶじゃぶかける。回転中のレコードに思いっきりブラシを押しつけて、モーターの強さをはかったが(ユーザーはやってはいけません)、ブラシの腰が折れても回転は止まらなかった。かなり強力だ。
     クリーンメイトには「除電アーム」と呼ばれる装置が付いていて、これで静電気を抑えることができる。クリーニングした後の締めくくりに使う。なおこのアームは着脱式で、自分のプレーヤーにも設置して再生しながら除電もできる。このアイデアは賢い。
     クリーナー液が乾いたことを確認して『アランフェス協奏曲』を再生してみると、なにかとポーカーフェイスの守屋さんが「ニカッ」と笑った。ノイズは豪雨から小雨になった。どうにもならない小傷や取れない汚れもあるからまったくゼロにするのは無理だ。しかし、普通に聴けるようになった。引っ込んでいた音が前に出てくる。ヴァキューム音は掃除器並みに盛大だが、この結果なら許せる。
     守屋さんも僕も実は何枚ものレコードを自宅から持って来ていた。実益を兼ねた取材はその日けっこう長く続いた。暮れなので、大掃除ってことで。

    (2017年1月10日更新) 第140回に戻る 第142回に進む

    田中伊佐資

    田中伊佐資(たなかいさし)

    東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に「オーディオそしてレコードずるずるベッタリ、その物欲記」(音楽之友社)、「オーディオ風土記」(DU BOOKS)、監修作に「新宿ピットインの50年」(河出書房新社)などがある。

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