コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第153回/10年ぶりにスピーカーを買った4月 [田中伊佐資]

●4月×日/昨年の夏に、横浜のアフロオーディオで、真空管ヴィンテージ・アンプをどんどん聴いていく取材があって、その相手をしたスピーカーがJBLのL75メヌエットだった。
 ユニットはLE8T一発。それと同じ20cm径のドロンコーンが仕込んである。姿がめんこいうえに快活ないい音で鳴った。担当の原さんは「個人的に欲しかった」そうだが、すでに買い手がついていたようだった。
 ずっとその音が頭にこびりついていて、探しているような探していないような時間が半年以上経った。するとある時、ひょっこり程度が素晴らしくいい中古を見つけてしまい買うことにした。振り返ってみるとスピーカーを買うのは10年ぶりだ。

ネット上の音楽をJBLのL75メヌエットで聴く

 これをメインスピーカーと切り替えて使うのではなく、パソコンにつなげる。高域が15kHzまでしか出ない50年近く前のスピーカーでハイレゾを聴くのもなかなかオツかもしれないが、そもそも僕はハイレゾにまるで興味はなく、逆にレコードを買うためのメヌエットなのだ。


地味ジャケのReal Estate『In Mind』
 言うまでもなく、ここ数年はけっこうマイナーなミュージシャンでもレコードを出している。同時にYouTubeにはオフィシャル・ビデオもアップしている。サンプル音源も数限りなく聴ける。ちょっとでもいい音で内容を確認できれば、いっそう深くレコードを掘れるというものだ。最近ではUSインディー・ロックのReal Estateが出した『In Mind』がとても良かったけど、地味ジャケなこともあって店頭だったら間違いなく素通りしていた。デジタルの有効活用がアナログを充実させる。
 メヌエットのいいところは小型のわりに能率が高いこと。エンクロージュアが響くので低音に量感がある(ゆるいといえばゆるいが)。わずか数ワットの出力で軽くパパーンと鳴るから、アンプが小さくても済む。

 そこで過去ステレオ誌の付録となっていたラックスマンLXU-OT2(USB-DAC)と同LXA-OT3(デジタルアンプ)で鳴らしてみる。十分いい感じ。特性的には現代スピーカーと比べようもないほどハチャメチャなんだろうが、往年のJBLはなんか楽しい音がする。
 そういえば久し振りのスピーカー購入になったけど、ラックスマン・ユーザーになったのも20数年ぶりのこと。雑誌の付録でユーザーってのもおこがましいか。

●4月×日/シュアのヴィンテージ・カートリッジ王者決定戦はまだ続く。
 3月の段階ではM44の針を付けたV-15(初代)が王者だった。ところがふとしたきっかけで、自称にして通称「カートリッジ馬鹿」の浅香満寛さん(7月の「音ミゾ」出演予定)と出会い、バトルが激化してしまった。
 浅川さんが改造したM44がすごい。その内容はケースをアルミ製の高剛性のもの(Paradox)に交換し、不要振動を鉛玉でダンプするというもの。これが英国プレミアリーグで降格圏内にいたレスターが翌年いきなり優勝したように大躍進した。DJ用ってことで、ピュアオーディオ・ファンから見くびられているが、ちょっとやそっとではこれには勝てないぞ。
 M7Dは以前書いたように、なにせ昔のものなので最新プレス盤では荒っぽく聴こえる。だがやはり浅川さんより「当時のオリジナル針を使ってみたら~」とちょうどオークションで出品されているブツを教えてもらい、落とすことができた。交換してみると太くて濃いM7Dの味に加えて、鋭利な切り込みが加わった。昔のオリ盤はもちろん新譜もまたすごくいい。
 強欲な僕としては、この三大モンスターを上回るカートリッジをもちろん探し続けます。

 ●4月×日/「八重洲レコード聴きまくり大会」が番外編として5月13日(土)午後4時から『OTOTEN2017』(東京国際フォーラム)のティアック・ブースにて開催決定。
 ディスクユニオンJazzTOKYOの生島店長に、フォーマルなオーディオフェアなので、いつもの飛び道具(珍盤)をかけるか確認するが、手の内を教えてもらえず。


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田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に「オーディオそしてレコードずるずるベッタリ、その物欲記」(音楽之友社)、「オーディオ風土記」(DU BOOKS)、監修作に「新宿ピットインの50年」(河出書房新社)などがある。

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