コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー

第183回/ヴィンテージのジュークボックス・サウンドから刺激を受けた2月 [田中伊佐資]







●2月×日/目黒にあるジュークボックス・ショップ「フラット4ヴィンテージ・ジュークボックス」を「ステレオ」のヴィニジャンの取材で訪問。
 ここはちょうど3年前に「IN THE LIFE」の依頼で取材したことがあった。ジュークボックスっていうと、ボーリング場とかにあるあれでしょ、みたいなイメージだが、この頭に「ヴィンテージ」と付くと、モーとんでもない世界が展開する。僕はそれまでまったく知らなかった。

 物体として四の五の言わせないパワフルな存在感があり、レコードを選んでかけるまでのメカがロボットにようにメカニカル。とても感動的だった。
 ただその頃はまだオーディオ的な聴き方(音場の広がりとか、低音がどこまで出ているとか、分離とか、オーディオ雑誌に書いてあるようなそんなこと)の尺度がメインだったので、果たして音が良いのか悪いのかわからないモデルもあった。



目黒にある「フラット4ヴィンテージ・ジュークボックス」の店内




エルヴィスを聴いたAMi社の64年製JBM-200



 ここ3年、そんなオーディオ耳が進化したのか退化したのかよくわからないが(たぶん老化)、音を大雑把にとらえて音楽の胸中への響き方ばかりが気になるようになった。現代オーディオの傍らを流れる川を隔てた向こう岸にあるヴィンテージ・サウンドもちっとはわかったふりができるようになった。久し振りに再訪してみようと思ったわけなのだ。

 ヴィニジャンで書いてしまったので、素晴らしきヴィンテージ・ジュークについてはさておき、そんな時代の雰囲気をもろに感じさせるサウンドを聴いていると、一般的なオーディオの音ってわりと一面的だなと思う。
 ショップではエルヴィス・プレスリーの「ハウンド・ドッグ」をAMi社の64年製JBM-200でかけた。自宅のオーディオでエルヴィスを聴いたことはある。確かにカッコいいとは思うが、なんでキング・オブ・ロックンロールとまで呼ばれていたのかまではピンと来なかった。ただ単に自分はエルヴィスやそういったサウンドがあまり好きではないと思っていた。


 しかしながらヴィンテージ・ジュークでこの曲を聴いたら「ウハ、エルヴィスいいわ」と理屈抜きで体がのった。なるほど10代だった頃のビートルズ4人は、ラジオでそしてジュークボックスでこれを聴いてぶっ飛んだわけだ。




 きっとこれは感覚的にはライヴに近い音なんだろう。ライヴ会場に行ってオーディオ並みにシャープな定位とかノイズ感とかをくどくどと気にしている人はいない。そんなことは完全に頭のなかから消え去る。ジュークからそのまま出た音を受け止める心境になる。そもそも実際に稼働していたのもダイナーやバーなどのライヴな場所だった。
 だからといってもちろんジュークが無敵の装置でない。SPやドーナツ盤時代の音楽以外はバチッとフィットしない。そもそもそれ以外は再生できないし。
 となるとジューク・サウンドのおいしい要素をどうやって、オーディオに付加していけばいいのかを考える。ヴィンテージ系オーディオが何かひとつのポイントになってくるのだろう。だが、糸口はたくさんありそうでそれほど無く、無さそうで実は結構あるようにも思う。



内部のメカはジュークボックスによって異なり、見ているだけでも楽しい

 とりあえず、いまはシュアの古いカートリッジを司令塔にして、Hi-Fiから遠いところに流れて行ったMy-Fiをやっているが、オーディオの深淵に思い巡らすことはまだまだ多い。

(2018年3月9日更新) 第182回に戻る 第184回に進む 

田中伊佐資

田中伊佐資(たなかいさし)

東京都生まれ。音楽雑誌編集者を経てフリーライターに。現在「ステレオ」「オーディオアクセサリー」「analog」「ジャズ批評」などに連載を執筆中。著作に『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)、『オーディオ風土記』(同)、『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(音楽之友社)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。
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