コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第28回/四大オーディオイベントが嵐のごとく過ぎ去り、いつの間にか秋も終わった

  ハイエンドショウが10月11日に始まり、真空管オーディオフェアオーディオ・ホームシアター展(音展)と続いて、インターナショナルオーディオショウが11月4日に終わった。あわただしかった。子どものとき、台風一過のことを台風一家(いくつもの台風が一度にドッと来ること)と勘違いしていたが、ちょうどそんな感じだった。

 ハイエンドショウについては、ひとつ前のコラムで報告したが、とにかく中身がギュッ(!)と詰まっていた。

 真空管オーディオフェアには、自作スピーカー「メープルボール楓ちゃん」をお客様方に聴いていただくという恐ろしいイベントがあったのだが、何とか乗り切った。中には「村井さんのスピーカーが一番ナチュラルだった」と言ってくれた奇特な方もいらして、大いに舞い上がった(このスピーカーにからむ話を、『オーディオアクセサリー』第151号に書いたので、ぜひお読みいただきたい)。

 今年からお台場に移ったオーディオ・ホームシアター展では、初日番組収録、2日目・3日目はミュージックバード専用チューナーの聴き比べをおこなった。自宅や秋葉原FAL、富士ソフトアキバプラザで経験しているが、CDをかけてテストするわけではないから、やはり緊張する(「同じ曲の同じところを聴きくらべなきゃ、厳密な違いなんかわかるワケないだろ」とクレームが付いたらどうしよう、などとふるえているのだ)。

 まずは入門機CDT-1AMで受信し、次は中級機NSD-100A。さらに付属ACアダプターを出川式定電圧電源に交換。そして、最上級機C-T1CS。アップサンプリング・スイッチON。C-T1CS+外部DAC。最後はC-T1CS+ルビジウム・クロックRB-1。これらをいちいち電源を落として切り替えるのだから、本当にたいへんだ(野辺さん、本当にありがとうございました)。

 最後に使用したルビジウム・クロックRB-1に関しては、港北ネットワークのサイトをお読みいただきたいのだが、
○ ふつうは50万円くらいするのに、95,000円!
○ 接続する各種デジタル機器(CDプレーヤー、DACなど)の周波数に合わせてくれる親切なオーダーメイド
○ 中古パーツとはいえ、とことん選別し、1台ずつ綿密に調整してから出荷


「メープルボール楓ちゃん」製作過程


真空管オーディオフェアで「メープルボール楓ちゃん」について語る筆者(写真提供ナノテック・システムズ)

など、至れり尽くせり。会場での反響も実に大きかった。これをつなぐだけで、「デジタル的なハイファイ・サウンド」が「アナログ的な、味わい深い音」に変わるからだ。


ハーマンインターナショナルの小部屋で鳴っていたF206

 インターナショナルオーディオショウは、初日(土曜)から大盛況。ドアをあけても超満員で入れない部屋さえあった。丸1日いても、ちゃんとした席で聴けたのは全体の四分の一以下。本当は、この欄に「私的レポート」を載せようと張り切っていたのだが、途中まで書いて断念。その書きかけの中から(比較的うまく書けたと思っている)ハーマンインターナショナル小部屋レポートだけ、ここに載せさせていただく。

 ここで主役となったのは、REVEL AUDIOのトールボーイスピーカーF206だ。165ミリウーファー2発にスコーカーとトゥイーターを組み合わせた3ウェイ。
 まずはロシア民族楽派的な音楽がかかり、そのあとビッグバンドを従えた女性ヴォーカル、男性歌手を盛り立てるクリス・ボッティ、サラ・ヴォーン「You are too beautiful」などがかかった。驚いた。それぞれの音楽がかなり異なる音色で鳴ったからだ。硬い音も柔らかい音も、直接音も間接音も、明るい音も暗い音も、皆きっちり描き分ける。レーベルごとの音調の違いもわかりやすい。細部まで実によく見えるが、「暴き立て型」の過剰な情報量にならないあたりもうれしい。

 正直な話、これまでREVEL AUDIOの音というのを把握できずにいたのだけれど、なるほど。こういう音のスピーカーなのか。ひとことで言うなら「音楽に奉仕する、忠実なしもべ」。大会場のデモではやや地味な存在かもしれぬが、リビングに設置して、中音量で鳴らしたとき実力を発揮するタイプと見た。

 ここまで聴いたところで、ハーマンの担当者から、歌手の井筒香奈江さんと竹下ユキさんが紹介された。そして、お2人のCDがそれぞれかかった。井筒さんは『時のまにまにIII~ひこうき雲~』から「ひこうき雲」。竹下さんは『街角のマリアたち』から「Broken Vow」。どちらもよく聴くCDだが、筆者が理想と考えている鳴り方にかなり近い音が飛び出してきたから、感動を飛び越してショックを受けた。トータル170万円くらいのシステムでこんな音を出せるのか!? まだまだ修行が足りん。

 続いてかかったのはエヴァ・キャシディ「Over The Rainbow」。いわゆる優秀録音には程遠い音だが、よそで聴くと耳に突き刺さってくる刺激感が皆無。むしろ声とギターのリアルさが際立つ。

 ラストには、近藤房之助「You Are So Beautiful」(六本木PIT INNでのライヴ・レコーディング)がかかった。スピーカー2本で再生しているというのに、定位の前後感がリアル。ふつうバックミュージシャンの力量や自己主張がここまで聞こえるか!? 目を閉じると、正に会場にいるかのよう。近藤のヴォーカルは例によって黒っぽく、ナチュラルで、なおかつ渋い。メモ帳には走り書きひとつ残っていない。仕事であることを忘れ、すぐ音楽鑑賞モードに引きずり込まれたものと思われる。ハーマンの担当者はくり返し「スピーカーはスペックじゃない。大切なのは音楽再生能力」と語っていたが、それを証明するのに、これ以上の音源はあるまい。

 


井筒香奈江『時のまにまにIII~ひこうき雲~』

竹下ユキ『街角のマリアたち』

 あとで聞いた話だが、竹下ユキさんはオーディオ・イベント初参加。ご自分のCDをこういったスピーカーで聴くのも初めて。その感激を「見知らぬ世界へ」というタイトルでご自分のブログに記しておられるので、ぜひともお読みいただきたい。

 とまあ、こんな具合で30社紹介したかったのだが、到底無理であった。もちろん、これらイベントの合間を縫って、雑誌原稿を書き、「マックトン十番勝負」を仕切り、多くのコンサートにも行った。自分ちの音もかなりいじった。そのあたりのことはまた次回報告しよう。

(2013年11月20日更新) 第27回に戻る 第29回に進む 

村井裕弥

村井裕弥(むらいひろや)

音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。

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