コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

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第309回/続・高域遊び 具体的なやり方は?[炭山アキラ]


 昨今はわれわれスピーカー自作派も周辺が広がってきて、昔ながらの手挽きノコでサブロクのベニヤ板から切り出して作るという人はごく少数派になってしまったことであろう。かくいう私も20歳の頃にやったのが最後で、あとはずっとホームセンターのパネルソーで直線を切ってもらい、切り欠きや丸穴あけなどを自分でやるというスタイルで作り続けている。

 もう20年くらい前からか、図面を送れば板を切って送ってくれるという業者がいくつか登場してきたこともあった。木工室やマキゾウなど、今はもう撤退してしまった店も多いが、今でもエクスペリエンスサウンドアティックスなど、請け負ってくれる社もある。私は利用したことがないが、ホームセンターとは比較にならない高精度というので、試してみる価値はあるのではないか。東急ハンズもずいぶん少なくなったが、おそらく渋谷店あたりではまだ高精度のカットを頼めるのではないかと思う。

 そこからさらに発展して、特注キャビネットのお仕立て上がりを手がける業者もある。先のエクスペリエンスもそうだし、「オーディオ実験工房」でおなじみ荒川敬さんのオーディオみじんこでも扱っているようだ。普通は故・長岡鉄男氏や私の作例を製作してもらうことが多いようだが、ご自分で引いた豪壮なスピーカーの図面を持ち込まれる剛の者もおられると聞く。




ムジカノートの小型2ウェイ・ブックシェルフ型キャビネットS-NW08L-VF(ペア¥69,800)。井筒割菱の組子格子グリルが実に美しい。日曜大工ではとてもかなわぬ"匠の技"だ。


暫定3ウェイの「ホーム・タワー」へ載せたS-STW01(ペア¥19,800)。この作りと仕上げでこの価格は、本当に驚くべきお買い得だ。


 また、その延長線上にはショップ・オリジナルのスピーカーを製作・販売する工房がある。オーディオみじんこもそうだし、第285回で触れた山越木工房もそうだ。各社それぞれの独自技術と発想を源泉として生み出された、創意にあふれた作品群が並ぶのが実に興味深い。





S-STW01の内部写真。底板はなく、引っくり返せば普通に見られる。この赤いコンデンサーを交換することで、全体の能率や音色、音の品位を大幅に変化させられるのが面白いところだ。

S-STW01をバッフル面とツライチに合わせたところ。わが家では逆相接続でここへ設置してバランスした。

 そんな工房の中で、ここ最近になって注目を浴びる社がある。兵庫県の内陸部、朝来市にあるムジカノートである。天然木をぜいたくに使ったキャビネットの製作を得意にする工房で、井筒割菱や麻の葉といった美しい組子格子のグリルが大きな特徴の一つといってよいだろう。

 そのムジカノートが発売したアドオン型トゥイーターが、いろいろな意味で実に好ましい。S-STW01は高性能のハードドーム・トゥイーターを手作りのキャビネットへマウントした製品で、ネットワークも内蔵されているから、アンプからスピーカーケーブルを引いて背面の入力端子へ接続してやれば、ひとまず音が出せる。その敷居の低さがまず良い。

 またキャビネットが実に美しい。ちょっと背の高いカマボコ型というか、天面がきれいな半円に成型されており、さらに突き板仕上げが施されているから外観は本当に見事なものだ。

 ネットワークはコンデンサー×1発で、本体底面から奥に見えているが、Audiophilerというブランドの製品で、デフォルトでは1uFが装着されている。このコンデンサーについてはよく知らないが、音を聴く限りそう悪いものではないと思う。前にも少し触れたが、トゥイーターというものはコンデンサーのキャラクター次第で天と地ほども音質が違ってしまう。キャビ内へ収まる大きさの中から好みのコンデンサーへ取り替えると、また大きく表現の方向性を変えられるのが、トゥイーターの面白いところだ。

 話ついでに、アドオン型トゥイーターの調整方法を少し詳しく解説しておこう。20kHz以上まで伸びたスピーカーへトゥイーターをプラスする場合、概ねクロスは20kHz以上になる。とはいってもコンデンサー1発では明確なクロスオーバーの"肩"(ネットワークが効いてレベルが落ち始める周波数)はなく、緩やかなダラ下がり特性になるので、どこをクロスと定めるかは難しい。一応、8Ωのスピーカーユニットで1uFなら20kHzクロスということになるのだが、あくまで目安でしかない。

 それゆえ、ネットワークと位相管理の常識を通用させることが難しく、聴感で違和感のないところを探っていくしかない。というと何だかずいぶん敷居が高そうに感じられるかもしれないが、なに、慣れればどうということはない。簡単なものである。



 具体的にどうやって調整するのかというと、まずトゥイーターへつなぐスピーカーケーブルを正相と逆相のどちらにするかで再生音全体の質感が大きく変わる。とりあえず違和感の少ない方に決め、そこからトゥイーターをスピーカーの天面上で前後させていくのだ。20kHz近辺なら波長は1.7cmしかなく、つまり8.5mmも動かせば逆相になるということである。実際は前後2cmくらい動かしてやれば、どこかに必ず「ココだ!」というポイントが見つかることであろう。

 チェックする音源は、聴き慣れたボーカルものが良い。本当に、声ほど音の違いが分かりやすい、言い換えれば厳しいソフトもないのではないかと思う。私はいつも井筒香奈江の音源を「怖い」と表現するが、それは彼女の声こそが最もシステムの、いやもっと正直にいえば自分が設計・製作したスピーカーの不具合、チューニング不足を如実に教えてくれるからだ。あなたにとっては、それが井筒香奈江である必要はない。ご自分が最も愛するアーティストの音源、最も回数を聴き込んだ音源でテストされるのが正解であろう。

 大体の位相が決まったら、次はコンデンサーの定数を見直そう。スピーカーの能率というのは80dB台前半から100dB超まで千差万別だが、それによってアドオン・トゥイーターの音量も変えてやらねばならない。アッテネーターをつないでやることも可能ではあるが、一番手軽なのはコンデンサーを交換してしまうことだ。わが家のリファレンス・スピーカーでいうと、10cmフルレンジのフォステクスFE108NSを使用したバックロードホーン「レス」へ同社のホーン型トゥイーターT96Aを載せるには、0.1uFのコンデンサーをシリーズにつないでいる。一方、同じトゥイーターを超強力な限定16cmフルレンジFE168SS-HPへ載せるなら、0.33uFくらいのコンデンサーが必要になる。定数にしても音圧にしても3倍ほどは違うのだ。




後方へ3cmほど動かす。大体はここまで大きく動かす前にセッティングが決まると思う。


S-STW01を撤去し、数カ月ぶりに4ウェイを復活させる。大体の調整はすぐ終わったが、やはり微調整には数日かかった。それが決まってみると、やはり廉価なものでもマルチの優位性は感じられるなと意を強くした次第だ。


 ならばコンデンサーをどれくらいの定数にすればよいのか。これにも一義的な正解はない。具体的には、トゥイーターを載せる前と帯域バランス的には変わらず、音の品位のみが向上する定数へ決めたいところだが、この辺は個人差も大きく、これはあくまで私のチューニング・ポイントだと申し上げるほかない。故・長岡鉄男氏も大先輩の浅生昉氏も、先程のポイントよりももう少し積極的にトゥイーターを鳴らされていたと記憶する。このあたりも、"自分の音"を見つけるための旅の一環といってよいだろう。

 もう一つ、コンデンサーの形式と銘柄についても触れておかねばならない。形式については、よほどの例外を除いてセラミックと電解は用いてはならない。フィルムや箔巻き、オイルコンデンサーなどがよいだろう。銘柄についてはフォステクスやムンドルフなど、名の知れたオーディオ・ブランドなら申し分ないが、まぁコイズミ無線などの自作系オーディオショップで扱っているものなら、よほど廉価なものを除けば大きな問題はないだろう。

 ずいぶん長々書いてしまったが何のことはない、私自身が始終こういうことをやって遊んでいるからで、皆さんにも「楽しみのお裾分けを」と考えてのことである。「ちょっと何言ってるのか分からない」けれど興味ありという人は、番組「オーディオ実験工房」気付で分からない部分を質問してもらえれば、番組へは載せられなくとも個人的にお答え差し上げることをお約束しよう。

 編集部から返却要請がこないのをいいことに、ムジカノートのトゥイーターは結構長くわが家の「ホーム・タワー」暫定3ウェイ版の高域を受け持ってくれていた。しかし、FE168SS-HPのエージングもほぼ万全となり、そうなるとこのまま4ウェイ・マルチアンプを封印しておくのももったいない。ということでムジカノートを元箱へ仕舞い、久々にミッドハイとトゥイーターをマウントしたボード(15mm厚MDF×4枚重ね)をミッドバス・キャビネットの上へ据える。ミッドバスのユニットを変更したのだからチューニングは一からやり直しになるが、長年の付き合いだけに測定器なしでどうにかこうにか特性が出た。もっとも、これは大変特殊なことであるから、特に3ウェイ以上のマルチウェイを自作で構築されるなら、簡易なものでよいから測定器、具体的にはスペクトラム・アナライザーを用意されることを薦める。今はスマホの無料アプリもあるから、簡単になったものである。

 2~3日かけて追い込んだ「ホーム・タワー」で音を聴くと、改めて「4ウェイはいいな、マルチはいいな」と実感することになる。今回の変更はミッドバス帯域の2オクターブ半ほどだが、声の大半を受け持つ帯域だけに、音質は圧倒的に向上した。猛烈なパンチ力と朗々たる伸びやかさ、音像には命の炎が宿り、コクたっぷりに歌い上げる表情が堪らない。




で、こちらは「ハシビロコウ」へ載せたフォステクスT925A。アリゾナ・キャパシターズのオイル・コンデンサーがこなれ切ったことも手伝い、本当に超絶的な切れ味とカミソリの解像度を備えた美音という、世にも稀なコンディションが実現している。

 また、最高域がドーム・トゥイーターからRPに変わったのも大きい。現在は商品が途切れているが、RP(Regular Phaseの略)は超軽量の薄いフィルムにボイスコイルを印刷して強力な磁界の中で鳴らすというタイプのユニットで、音の軽やかさと抜けの良さ、シャキーンとどこまでも伸びる超高域が堪らないユニットなのだ。ムジカノートのドームもかなりの実力だったが、やはり長年使い込んでこなれ切ったRPには一歩を譲るようである。

 さらに、これはある種の"別格"だが、わが絶対リファレンス「ハシビロコウ」へ載せたホーン・トゥイーター、フォステクスT925Aの放射する超高域は、「何か間違っているのではないか?」と思わせるほどの瑞々しさと力感、音像から響きが放射されるさまなどが強烈、濃厚に味わえる。「やっぱりホーンでなければ出ない音があるなぁ」と、改めてその表現力に首を垂れることとなった。

 なお、ムジカノートの名誉のために申し上げると、あのAudiophilerなるブランドのコンデンサーは、ネットで調べてみるとそう高価な製品ではないようだ。同定数でももっと高級なものに交換してやれば、音質はさらに大幅な向上を見る可能性がある。同製品をこれから購入する、あるいは既に購入したという人は、是非とも追試を行っていただきたい。

(2021年11月10日更新) 第308回に戻る 

炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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