コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

ミュージックバード出演中の3名のオーディオ評論家が綴るオーディオ的視点コラム! バックナンバー


第137回/最近のうちの電源 [鈴木裕]

 トルストイの『アンナ・カレーニナ』冒頭に、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」とあるが、これに被せて書くならば、オーディオにとっての電源も「幸福な電源はどれも似たものだが、不幸な電源はいずれもそれぞれに不幸なものである」とまず書いてみようか、ちょっと格調が髙すぎるが。いやなに、うちのオーディオの電源のことを書いてみるだけだ。 

 話題の主役はアコースティック・リヴァイブのRPC-1だ。前回のコラムにも「うちは前段系とパワーアンプ側とブレーカーを分けていて、前段系に使いだしたのがその音にほだされ、パワーアンプ側にも2個目を購入することにした」と書いた。RPC-1を導入して以来、電源系をいろいろと見直すという変動期に入ってしまった。これがもう変化率も大きいし、到達する音の純度やリアルさも半端ない。まずRPC-1について紹介してみよう。アコリバのウェブサイトに行ってもらってもいいのだが、ここで自分なりにRPC-1のことを読み解いてみたい。


アコースティック・リヴァイブRPC-1。
 まず、そのジャンルについてアコリバでは「電源コンデイショナー」という言い方をしている。そもそもそのアイデアは「赤外線マウスの発明者である故・柴田潤氏」によるものだという。ちょっと調べてみると、ヒューレット・パッカードにも在籍したことのあるIC測定器設計技術者だ。作動原理としては「内部の特殊コイルの組み合わせによる独自の回路」の働きということで、「電源経路に乗る超高周波ノイズの除去だけを行」うとか、「超高周波ノイズの低減と均一化を行っている」と説明されている。番組でも前回のこのコラムでも、鈴木裕は並列型ノイズフィルターという言い方をしているのだが、同社の説明によれば「並列型ノイズフィルターのようなエネルギー感や躍動感の減衰など副作用の発生」がないとも書かれている。並列型ノイズフィルターは、こうした副作用はあまり感じないものだが、アコリバとしてはそこにも副作用を感じているということだろう。

 個人的に興味深いのは、そもそものアイデアを「HWTとACOUSTIC REVIVEの共同研究によって発展、製品化させた」と書かれている点だ。HWT、ハイエスト・ワールド・テクノロジー。その製品、FOL電源エンハンサⅡという並列型のノイズフィルターをうちではパワーアンプ用にだいぶ長く使ってきていた。音の変化率からいうと、アコリバRPC-1の5分の1くらいの効き方だが、音に乗ってくる粉っぽい感じがなくなり、音の透明度が上がる。5分の1というと余り効かないようだが、アコリバが強烈な効果を持っていると考えていただいた方がいい。

 もうひとつ、ちょっと読むと意外な記述もある。「クリーン電源の出力コンセントに装着することでクリーン電源自体の性能を向上させることが可能」であり、さらに「特に電源生成装置はそれ自体が大量の高周波ノイズを発生するため、RPC-1をクリーン電源の出力コンセントに装着することで絶大な効果が見込めます」と書かれている点だ。これ、疑問に感じてもおかしくないが、うちの場合ではまさしく肯定できる。前段系にはファーストクライ(光城精工のかつてのブランド名)の1000VAの容量を持つクリーン電源Arayを使っているのだが、「交流電源を再生成するリジェネレータ方式」とメーカーが呼ぶその出力にRPC-1を使って、明確な効果がある。こう書くとクリーン電源に意味がないみたいに誤解されそうだが、基本的な話として90Vのものを100Vに正常化させるような力はRPC-1にはないし、Aray自体にも音の汚れを除去し、再生音を芳醇にする効果は少なからずある。ただ、そこにRPC-1を付加して使ってみると音像にまとわりつく付帯音がさらになくなるし、音自体がしなやかに、あるいは見事に細部が見えてきて、演奏のディテールやリアリティ、ニュアンス、現場にあったはずの空気感が甦って来るので、電源って本当に不思議だなと思わざるを得ない。


前段系用の電源タップ。オーディオリプラスに、プリアンプ、CDプレーヤー、フォノイコライザーの電源ケーブルが差さっている。RPC-1は現状、CDプレーヤーと同じコンセントに差している。
 というわけで、具体的なことを書いてみよう。あくまで現状。
 うちの最寄りの電柱のトランスは家から約150mくらい離れたところにある。昔、NTTからの電線がなぜかその電力線にククリ付けられていた時期があって、オーディオの音はけっこう歪みっぽかった。電話線には48V程度の直流電気が流れているはずで、それが電力線を通るAC200Vと干渉していたらしい。これがきっかけでファーストクライのクリーン電源を導入することになったのだが。

 文章の前半にもあるように、オーディオ用に使っている電源ブレーカーはふたつに分かれている。もともとはクレルのパワーアンプ、FPBM600を使っていた頃、20Aの容量があのアンプには不足気味で時々ブレーカーが落ちてしまうために分けたのだが、それが現在でも続いている。ちなみに配電盤もオーディオのところの壁コンセントまでの電力線もオーディオ用ではない。

 前段用の壁コンセントはパナソニック電工のホスピタルグレードのWN1318。ここからファーストクライまでの電源ケーブルはオヤイデのPCOCC時代の電力線。そこからの電源ケーブルも同じく電力線で、前段系の電源タップはオーディオリプラスのSAA-6SZ-MK2。3つのコンセントが使われているが、そのそれぞれにプリアンプとフォノイコライザーとCDプレーヤーを分けて接続。RPC-1はとりあえずCDプレーヤーのコンセントに差している。リプラスの電源タップの特徴としてはアルミ削り出しの内部は3つの壁コンセント用のそれぞれの部屋と、ホットとコールドのケーブルが通る左右の細い通路に分かれている。インレットからの配線も「インレット→コンセントA」、「インレット→コンセントB」、「インレット→コンセントC」のように、それぞれ独立して配線。試しにひとつのコンセントにプリとCDプレーヤーの電源をいっしょに差してみると、いきなり音が濁るのがわかる。

 パワーアンプ側も壁コンセントはWN1318。二口ある、そのひとつはプリアンプとパワーアンプの間に位置するパラメトリックイコライザー用に使っている。とはいうものの、いったん中村製作所のアイソレーショントランスNZT-0600に入り、ここから電力を取っている。NZT-0600は500VAと100VAのふたつのコンセント口があり、パラメ用は500VAに。100VAのコンセントにはHWTのFOL電源エンハンサⅡが差してある。

 パワーアンプ用は壁コンセントからまずオヤイデのTUNAMI NIGOで作った自作電源ケーブルで自作電源ボックスのジョデリカのザ・サウンド・ソースという壁コンセントに入る。このあたりのパートは壁コンセントからたっぷりと電力を吸収するイメージ。そしてオヤイデのBLACK MAMBAを通って、次の自作電源ボックスの、オーディオリプラスの壁コンセントRWC-2RUに入る。この部分でやってもらいたいのは電気をほぐし、位相を合わせて、しなやかに、しかし勢い良く次に電気を渡すイメージ。これらのイメージはあくまで自分の希望的なもので科学的な根拠はない。

パワーアンプ側の壁コンセントからの電気で動かしているのが、パラメトリックイコライザー。プリとパワーの間にあるので前段系の電源から取ってもいいのだが、ファーストクライとの相性が悪く、電源部のトランスが唸ってそれが音にも反映されてしまうために分けている。中村制作所のアイソレーショントランスNZT-0600に差している。


その中村製作所のアイソレーションに使っているのがHWTの並列型電源フィルター。アコリバのRPC-1の祖先的な存在だ。


パワーアンプ用の電源系。右側は自作の電源タップ4連で、手前のジョデリカのザ・パワー・ソースにまず電気が入り、続いてひとつ奥の赤いコンセント、オーディオリプラスのコンセントに入り、そこからアコリバの電源ボックスRTP-4 absoluteに入り、そしてモノーラルのパワーアンプに給電している。やりたい放題。

自作電源タップ4連(と言っても現在、2つしか使っていない)の2番目はリプラスのRWC-2RU。コンセント中央の取り付けボルトは制振のポイントだが、レクストのレゾナンス・チップ・スノウ。電源プラグの横には同じくレゾナンス・チップ・コネクト。空いてる口にはオヤイデのMWA-EC(電磁波吸収コンセント キャップ)とやりたい放題。


自作電源タップ4連の下は分厚い硬めの木材。その下の白っぽい板は樺集成材。見えていないが、オヤイデのカーボンのインシュレーターINS-CFXも使っている。なにしろやりたい放題。

 そして、リプラスの壁コンセントに差さっているのは某メーカーの試作電源ケーブル(自己責任で使っている)で、アコリバの電源ボックス、RTP-4 absoluteと接続。これとパワーアンプの間はMITの往年の電源ケーブルZ CordⅡ。また、RTP-4 absoluteにはもうひとつのRPC-1も差している。役割としては、試作電源ケーブルで音をさらに分解させ、RTP-4 absoluteで音を整えノイズを除去。さらに音の純度を上げながら電気の濃度を高くしているイメージ。そしてRPC-1はより音楽に近く、リアルにそのものを聴けるようにする役割。Z CordⅡはもう20年くらい持っていて、使ったり外したりという存在。地味というか滋味あふれる音で、存在感がないのがいい。現状は、ノイズ除去とか分解能とか勢いとか色彩感といったさまざまな要素をその直前までで作っておいて、さいごにパワーアンプに対して実直に電気を渡してもらう役割をお願いしている(つもり)。

 と、いきなり最後のパワーアンプの直前がマニアックになっている。自作電源ボックスとか自作電源ケーブルというのはうまく出来れば自分の出したい音の方向性を持たせられるが、組合せをやっていくと実に面倒でキリがない。というか、つまるところとっても楽しい(笑)。たとえば電源ケーブルというのは、コンセントに差さるプラグの部分と、ケーブルと、IECプラグの3つの要素があるわけで、これの組合せが実に膨大だ。自作電源ボックスと言っても、パナソニック電工の露出型スイッチボックスという鋳鉄のものを使っていて、これ自体に壁コンセントを付けただけでは音はかなり粗雑だ。分厚い硬めの木材に固定しているが、木材との接点を面研してあったり、塗装したり、あるいはそこに装着したコンセントの中央のナットのところ(ここ、制振の重要なポイントです)には、レクストのレゾナンス・チップ・スノウを貼る、といったノウハウが必要。さらにその分厚い木材の下のインシュレーターでも音は変わってくるので、使いこなしの要る物体だ。そこがまた楽しい。

 ここのところ、このパワーアンプへの給電の組合せや、前段のファーストクライのクリーン電源からリプラスの電源タップのところへの電源ケーブルをいろいろやっているのだが、なかなか決定的なものにならない。正直、クラシックの音は相当にいいのだが、まだ上があるんじゃないかとか、ジャズの太さは出ないのかとか、この自作の電源ケーブルのプラグをアレに替えるともっと良くなるはずとか考え出すとここでオッケーという気にならない。要するに強欲というか、煩悩すぎる人生である。煩悩の成れの果てがオーディオライターをやっているという事情は番組を聴いている方にはバレバレだと思う。

 最初に書いた「それぞれに不幸」の一番の原因は自分の気の多さにあるのはわかってはいる。クラシックもジャズもロックもこういう音で鳴ってほしいというイメージがある。それをひとつでまかなおうというのがそもそも無理なのかとも思う時もある。それがパワーアンプへの給電組合せにも出ていて、なんだったらクラシック用、ジャズ用の組合せが出来ないかといったことを密かに考えているのだからお恥ずかしい。


 自分の番組のタイトルは「オーディオって音楽だ!」だが、オーディオの音の実体は電気である、という意味では「オーディオって電気」なのだ。変な言い方だが、電源系によって音はポークにもビーフにもチキンにもなるし、パンにもゴハンになる。音の組成の根本的な実体が変わると感じている。インターコネクトやスピーカーケーブルはリファレンスからほとんど交換しないのだが、電源系はいろいろやっている。自作するのもバラすのも比較的容易という事情もあるがなにしろおもしろい。

 最初にトルストイに倣って「不幸な電源はいずれもそれぞれに不幸」と書いたが、実は不幸を不幸と認識できることが一番幸福なのかもしれない。

(2016年11月30日更新) 第136回に戻る 第138回に進む 
鈴木裕

鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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