コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第222回/15年ほども使ったミッドバス・ユニットを交換する[炭山アキラ]

 このコラムへ執筆を拝命した第1回に、リファレンスのスピーカーを交換した話を書いた。そのバックロードホーン(BH)「ハシビロコウ」は、自宅へ据えてからのエージングも順調に推移し、今や絶好調の感がある。余談になるが、例えばしっかり鳴らし込まれた中古のスピーカーなどでも、自分の環境へ迎え入れるとエージングは必要になるものである。なぜかはよく分からないが、スピーカーを据えた床やスタンド、アンプ類ならラックの棚板との、ミクロン単位の平面性のズレなどが、時間を置くことで重力によってなじみ、音が安定するのではないかと考えている。

かれこれ15年ほども使ったFE168EΣが、ついに故障した。普通に音楽信号を入れてもウンともスンともいわず、極端な大振幅を入れてやると時々音が出るような状況だ。これは明らかにどこかの導通がおかしくなったと推量される。

FE168EΣの配線コード。俗に「錦糸線」と呼ばれるものだ。おそらくだが、この線とボイスコイルをつなぐハンダ付けが劣化して、導通が危うくなっているのではないか。修理もできなくはないが、このたびは新品と交換することにした。

 しかし、好事魔多しというか何というか、今度はもう一方のリファレンスたる、4ウェイ・マルチアンプ・スピーカー「ホーム・タワー」が故障した。4ウェイのミッドバス帯域を受け持つフォステクスの16cmフルレンジFE168EΣが1本、どうやら断線してしまったようなのだ。マルチアンプの4ウェイなどというと、8本のスピーカーユニットのどこかが調子を崩すということはさほど珍しいことではなく、特にわが家のマルチは「お客様が見える直前に機嫌を損ねる」というジンクスがあって、実はこのたびも、はるばる奈良から友人が遊びにくる前日に突然音が出なくなる、という次第となった。こんな時にまで、律義にジンクスを更新してくれなくともよさそうなものである、まったく。

 とはいえ、このたび断線したFE168EΣは発売当初のもので、もうかれこれ15年ほども、いろいろなキャビネットへマウントし、酷使に酷使を重ねた個体だから、むしろこれまで長く頑張ってくれたとねぎらいの言葉をかけたくなる。

 さて、このままでは業務にも支障が生ずるので、フォステクスと相談しつつ、新たなミッドバス・ユニットを導入することとした。なぜ同社と相談するのかといえば、EΣはもう長く現役を張ったユニットで、ほぼ同格の新製品FE168NSが発売されたばかりだからである。もちろん私は両方の音を知っているし、おそらくどちらでも「ホーム・タワー」へ迎え入れて違和感なく使えるであろうことは、容易に推測がつく。それで、少々生臭い話だが、ならばいっそ同社が露出したい方のユニットを迎え入れようか、と考えてのものだ。

 その申し出に対して、フォステクスの担当者は「炭山さんのリファレンス・スピーカーですから、ご自分でお決めになって下さい」と言ってくれた。かたじけないと頭を下げ、このたびも同じFE168EΣを導入することと相成った次第である。

 とはいえ、EΣよりNSが劣っているから前者にしたのではない。「ハシビロコウ」に用いているFE208-Solは一般的な形状を持つコーン斜面なのに対し、EΣは同社特有のHPコーンと呼ばれる複雑な形状を持つ斜面となっており、両方の"顔"をわが家へ導入しておきたかった、という理由である。

 もっとも、せっかくのHP斜面も、わが家のEΣは1kHzで高域をカットしており、中~高域の凹凸を減らして自然な再生を可能にするという効果の大半を生かしていないこととなる。同社の開発エンジニアには申し訳ないが、今はミッドバスの専用ユニットが少なく、このユニットほど音質や特性を知悉したものもないので、ずっと愛用している。

画像では分かりにくいかもしれないが、新旧のユニットは明らかに色が違う。真っ白な新品に対して、15年使った初期品は、タバコも吸わないのに茶色く煤け、シミも散見される。

 かくしてわが家へやってきた新世代のFE168EΣだが、初期モデルと最新ユニットだけに、ひょっとしたら大幅に音質が変わっているかもと、いささか冷やひやしながらエージングを開始したが、うん、最初の音が出た瞬間に「音質傾向は変わらず、全体の器が大きくなった」というイメージが聴こえてきて、ホッとした。初期モデルが少々寄る年波でくたびれていた、という項目は否定できないにしても、エージングもままならない段階でこれだけの音を聴かせてくれた現行世代は、「安心して使える」ユニットといって差し支えないと思う。お使いの人も多かろうと思うユニットだが、故障しても安心して新しいユニットへ買い替えられそうである。

 といったような次第でわが家へ収まった新FE168EΣだが、エージングの間はできるだけ1kHzで切ったりせず、全帯域の音楽信号を食わせてやりたい。ウソのような話だが、ローパス(ハイカット)フィルターを入れればカットオフより上の帯域でいつまでもエージングが進まず、時にクロスを変更したいと思っても、使っていなかった帯域のみひどく鳴りづらく、違和感が拭えなくなることが多いのだ。

エージング用に仕立てた3ウェイの「(仮)ホーム・タワー」。本稿執筆時点でずいぶんエージングも進み、そろそろ元の4ウェイに戻してもよいかな、という気がしてきている。4ウェイがどんな格好かは、第216回を参照してほしい。

 それでただいま、FE168EΣに全帯域を入れ、上にコンデンサー(0.33uF)×1発で同社のホーン型トゥイーターFT96H(生産完了)を載せ、ウーファーは4ウェイの頃のまま生かし、レベルだけ再調整して使っている。つまり、3ウェイへの仕立て直しだ。3ウェイにしてアンプはステレオ2セットを使っているから、「セミ・マルチアンプ」といってもよいだろう。前述の通り、FE168EΣには全帯域の音楽信号を入力しており、ネットワーク素子は一切介入していない。低域方向のクロスはキャビネット側の工夫で落とし、ウーファーのみムック付録のバスチャンデバで落とす、という構成は、前に触れた通りである。あとはトゥイーターへのコンデンサーが1発だけだから、3ウェイとしてはクロスオーバーは極めて簡素で、しかし2セットのパワーアンプを要する複雑なシステム、ということになる。

 実は、旧FE168EΣが断線したのはゴールデンウィーク前で、かれこれ1カ月以上この構成で鳴らしているが、実のところ、ただ音質だけでいえば、遥かに複雑な4ウェイへ戻らなくとも、仕事に差し支えがないレベルで音楽を鳴り渡らせている。「つくづく私はフルレンジが好きなんだな」と実感するところでもあるが、しかしこの構成なら、最低音域の25Hz近辺が再生できていることを除けば、表現力は「ハシビロコウ」の方が明らかに優れている。それはそうだろう。"究極"とも謳われた限定20cmフルレンジに巨大なキャビネットと大型の高級トゥイーターを組み合わせた「ハシビロコウ」に対し、現在の「(仮)ホーム・タワー」はレギュラー販売の16cmに廉価で小さなトゥイーターを組み合わせているのだ。再生音が匹敵するわけもない。

 ネットワーク素子を入れずに朗々と鳴っているFE168EΣに、4ウェイ化へ伴ってチャンネルデバイダーを挿入すると、コイルなどのパッシブ・ネットワーク素子などを介するよりもずっと軽微ではあるが、やはりフルレンジで鳴らしている時のような開放感は、幾分かは抑えられてしまうが、それでも単体のミッドハイとトゥイーターが加わることにより、音の品位、ピュアリティは大きく高まるものである。また、その利点を味わいたいからこそ、システムの複雑化、高コスト化というリスクをあえて押し、ごく限られた人がマルチアンプへの道を進むのだ。  3ウェイの「(仮)ホーム・タワー」は、今のところある種の完成形へ至ったといってよいように思うが、このままでは「マルチ派」の旗を掲げ続けるには少々分が悪い。いささか名残惜しくはあるものの、やはり近日中に4ウェイの「(本)ホーム・タワー」へ、再び仕立て直そうと思う。 (2019年6月11日更新) 第221回に戻る  
炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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