コラム「ミュージックバードってオーディオだ!」

<雑誌に書かせてもらえない、ここだけのオーディオ・トピックス>

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第225回/フルレンジの解説をしていたら、マルチアンプへたどり着いてしまった[炭山アキラ]





 前回に少し触れ、あまりに膨大な中身を持つものだから「稿を改めよう」と書いてしまった項目がある。ほかでもない、フルレンジとマルチウェイという、スピーカー形式についての得失である。ここで、改めて少し詳細に書いてみることとしよう。

 フルレンジというスピーカー形式は、その名の通り再生する全帯域を1個のユニットで再生するものだ。小さいものは2.5cmから大きなものでは38cmまで、さまざまな口径のフルレンジ・スピーカーユニットが世の中には存在している。その全数で、可聴帯域の20Hz~20kHzをすべて再生するのは、キャビネットや回路によほど特殊な工夫をしない限り、ほぼ不可能といってよい。小口径は高域方向に伸びるが低域に弱く、大口径は低音は出せても高音を伸ばせない、という具合だ。よく「フルレンジは16cm(ロクハン)が基本」といわれるが、これは上下両端のバランスが最も良い、ということが理由と考えられる。

 余談になるが、16cmフルレンジはなまじこういう言われ方をするだけに、というかその条件を実現するために、設計へいささかの負担がかかっているように見受けられる部分がある。コーン型スピーカーユニットの高域は、後述する「分割振動」の働きで、ユニットの中心部分、もっといえば最高域はボイスコイルボビンから再生されているといってよいのだが、高域を可聴帯域ギリギリまで伸ばすため、ボビン径をあまり大きく設計することができないのではないか、と考えざるを得ないのだ。それで大きな振動板をしっかりと支えることが難しく、振動系がバタついてしまうのか、振動板面積の割に耐入力が満足でないような気がしてならない。



4ウェイになって戻ってきた「ホーム・タワー」。ミッドバスのユニットを新しくしたら、4ウェイ全体の表現力が劇的に向上したように聴こえる。音場感の減退など、心配していた副作用もほとんど感じられない。






「ホーム・タワー」のミッドバス~ミッドハイ、ミッドハイ~トゥイーター間は、フォステクスのミニ・チャンネルデバイダーEN15で切っている。もともとは音楽之友社のムック付録チャンデバを使用していたのだが、フォステクスから製品版が出たので交換したものだ。クロスの帯域が狭まるなど、少し使用に制限は増えたが、音の品位は明らかに上がっている。

 一方、確かに大半の16cmフルレンジは、周波数特性を測ってみるとほぼ可聴帯域の上限まで再生できているが、せっかくある種の犠牲を払って獲得したその最高域は、決して褒められた音質ではないことが多い。それはそうだろう。普通のマルチウェイ・スピーカーで20kHzを再生するのはトゥイーターで、多くはたった20~25mm程度の口径を持ち、振動板そのものももちろんフルレンジとは比較にならない軽さだ。同じ土俵で戦えるわけはない。そんな中で、少数ながら最高域までしっかりとピュアオーディオ品質をキープしている中~大口径フルレンジも存在するが、それらは大いに称揚されるべきだろう。

 マルチウェイに比べ、概してレンジが狭いフルレンジ・スピーカーが、なぜ根強いファンを持ち続けているのか。それは、フルレンジに比べてマルチウェイはレンジが広いという利点があるのと同様に、フルレンジにもマルチウェイにない利点があるからだ。


 マルチウェイのスピーカーには、例外なくクロスオーバー・ネットワークという存在が仕込まれている。コイルには交流の周波数が高いほど通しにくくなるという性質があり、コンデンサーは周波数が低いほど通しにくくなる。それらの性質を利用して、マルチウェイの各ユニットから必要な帯域の音楽信号のみが放出されるよう、帯域制限を行うのがネットワークの役目である。同時に、各ユニット間の能率をそろえるため、抵抗器も用いられる。


 それらのネットワーク素子は、ユニットへ直列と並列で接続され、それぞれに音質へ大きな影響を与える。例えば、高級なトゥイーターへ安物の電解コンデンサーを直列に接続すると、コンデンサーのキャラクターばかり聴こえてきて頭を抱えたくなる、といったことが珍しくない。コイルも大きな定数のものを用いると概して反応の良さが損なわれ、力強いが重い、ロースピードの低音になることが多いものだ。即ち、ネットワーク素子そのものがユニットの音質を左右し、情報量を損なう"必要悪"ともいうべき存在なのである。1本100万円を超えるような高級スピーカーでは、その悪影響を少しでも抑えるために、巨大で高価な素子を惜しげもなく使っていることが多い。カタログ等でよく謳われているから、ご存じの人もおいでのことだろう。



こちらは音楽之友社「これで決まる!本物の低音力」ムック付録バスチャンデバ。「ホーム・タワー」のウーファーをハイカットするのに用いている。本機に上側ユニットのローカット機能はないが、私はミッドバスを「逆ホーン型」キャビネットとして、フィルターなしに低音を減衰させている。

 ネットワークについてはまだまだ書きたいことがあるのだが、少々マニアックな話題に過ぎるような気もするので、また他の機会へ譲ることとしよう。

 一方、フルレンジ・スピーカーにはごく例外的な製品を除き、原理的にその"必要悪"が存在しない。その分だけ音は伸びのび、生きいきと鳴り響き、特に微小領域の再現性に優れるものが多いという傾向がある。レンジの狭さに関しては、こと高域へは最もシンプルなハイパスフィルターとしてコンデンサーを1発直列に接続したトゥイーターを載せる、という手法がよく用いられる。故・長岡鉄男氏が愛用された方式で、私もつい先だってまでわがリファレンス・スピーカーの「ホーム・タワー(仮)」に同様の方式を採用してきた。もう片方の低音にも、サブウーファーを加えるという手法が用いられるが、こちらは意外と帯域間のスピード感を合わせるのが難しく、違和感なくつながるようにするのはテクニックが必要だったりもする。






ムック付録バスチャンデバへ交換するまで使っていたベリンガーCX2310(写真は後継のV2)。調整パラメーターが多く追い込み甲斐がある半面、-24dB/octのスロープ特性がシステムに合わなかったのか、適切なバランスを得るのに結構苦労した。もっとも、上下とも本機で切っていたら、もっと簡単かつ素直につながっていたろうとも考えられる。


 フルレンジ最大の欠点は、広いレンジを賄うために「分割振動」と呼ばれる現象を積極的に利用していることとよくいわれる。ギターを弾かれる人なら、開放弦の真ん中へ軽く指を触れると1オクターブ上の音が出る「ハーモニクス奏法」というのをご存じの人も多いだろう。あれは弦の真ん中を節として、開放弦の2倍の周波数で弦が振動することによって起こる現象だが、スピーカーでもそれと似たようなことが起こり、一定以上の周波数はコーンの中心側半分で、さらに高い周波数は中心の1/4、1/8とコーンが分割されて再生音が発せられるのだ。その分割振動をどれほど広範囲に、しかも違和感なく起こせるかに、フルレンジの設計の多くは負っているといってよいだろう。

 それでは、分割振動の何がいけないのか。ごく大雑把にいえば、振動板全体を使って再生している「ピストンモーション」域と分割振動域では、音質や品位が変わる、具体的には大半の場合音が粗野になったり歪みっぽくなったりしてしまう、ということである。マルチウェイ派の人の中には、「だからフルレンジはハイファイじゃない」とおっしゃる人もいる。しかし、実際はどうだろうか。

 ピストンモーション域と分割振動域は、スピーカーユニットの周波数特性やインピーダンス特性を見ると、ある程度その分岐点となる周波数を見定めることが可能だ。それを見ていると分かるが、実のところピストンモーション域でほぼフラットに再生できているのは、大体2オクターブ前後しかない。可聴帯域を20Hz~20kHzと考えても約10オクターブ、完全にピストンモーションで全帯域をつなごうとすると、理論的には最低5ウェイ以上が必要ということになる。つまり、「フルレンジは分割振動があるからハイファイじゃない」とおっしゃっている人がお使いのマルチウェイ・スピーカーにしても、その大半は分割振動域を活用しているのだ。


 かつて私は、実際に5ウェイを組み上げて活用していた頃がある。その時、面白いことに気が付いた。高次のマルチウェイはユニット間のクロスが難しく、特にユニットそれぞれのキャラクターの違いによる違和感を抑えるのが大変だ、というのはよくいわれることなのだが、ことユニット間の音色差に関しては、不思議なくらい違和感を生じなかった。これは、ユニットの最も美味しい帯域のみ使った、即ちほとんど分割振動域に頼らず全帯域が構成できたせいで、ユニット同士のキャラクターがさほど大きな違和感にならなかったのではないかと推測される。ユニットのキャラクターは、その大半が分割振動域で発生するのではないか、というのが現在のところのわが仮説である。




 もっとも、例えばスコーカーを布製のドームからメタルドームへ交換したら、全体の音質傾向は大きく変わった。そういう意味ではキャラクターが色濃く存在するのは否めない。しかし、それだけ全体の音色を変えるというのに、クロス帯域に違和感が出ないのだ。まことにもって不思議な体験だった。


 翻って現在の4ウェイ「ホーム・タワー」はどうかというと、少なくとも帯域間の違和感に関してはほとんど感じていない。これはユニットをオール・フォステクス製品にしたことも関係するかもしれないが、慎重にできる限り分割振動域を避ける工夫をしたせいもあるのではないか、と考えている。



5ウェイを展開していた頃に使っていたのは、"世界のハイエンド"アキュフェーズDF-45だった。余分なキャラクターがなく、情報量は極めて多く、私が体験したチャンデバで本機に勝るものは存在していないが、信頼する先輩の話によると、「音質的にはまだ上の世界がある」のだとか。しかし、こと扱い勝手の洗練さにかけては世界一ではないかと思う。

 とはいえ、5ウェイの頃ほど完璧なピストンモーションが実現できているわけではなく、たとえばFE168EΣは、インピーダンス特性を見ている限り600Hz近辺に軽微な山が認められ、ひょっとするとこれが分割振動域の始まりなのかもしれないが、周波数特性を見ると1kHzくらいまでは何とか指向性が良好で、さほど大きな副作用は出ていないように見える。というわけで、5ウェイ時代は500Hzで切っていた168EΣを1kHzまで何とか欲張って使い、4ウェイ化を実現したというのが「ホーム・タワー」の眼目でもある。

 また、同社エンジニアの話によると、ソフトドームは厳密にいえば再生周波数の下限から正しくピストンモーションを行っているわけではなく、コンピューターで4次元解析すると、結構タコ踊り的に振動板が揺さぶられているのだとか。即ち、ミッドハイを担当するFT48Dも正しくはピストンモーションではない、ということになる。

 まぁそれでも大勢に影響なく、ビックリするほど廉価な陣容で多chマルチウェイ、しかもマルチアンプ構成を維持できているのだから、「ホーム・タワー」は成功作といってよいだろう。残念ながらユニットの大半が生産完了になってしまい、同じ構成を試してもらうことは難しくなってしまったが、それでも似たような構成を試すことは可能である。無限ともいうべきユニットの組み合わせを試すことができる、それもマルチ派の醍醐味の一つといってよい。





「ホーム・タワー」でミッドバスに使用しているフォステクスFE168EΣの特性表を見てみると、指向性はほぼ1kHzまでフラットで、そこから上はある程度の特性差が出てくる。それで私はギリギリ1kHzまで使っているのだが、もう少し下、600Hz付近にインピーダンスの小さな山と周波数特性のディップがある。ひょっとしたらここから上が分割振動なのかもしれないな、とも感じ、5ウェイの頃は500Hzで切っていたのだが、4ウェイへまとめるなら1kHzクロスで限界だ。ことほどさように、ピストンモーション域のみでつなぐことには難行苦行が伴うのである。

 確かにマルチアンプは結構なノウハウを必要とするし、素材は廉価にそろえられても実力を発揮させるには結構な時間と腕前が求められる、というのは間違いない。しかし、しっかりとチューニングが決まりさえずれば、こんな価格でとはとても信じられない高度なハイファイをわが手にすることができる。人生を賭して挑む価値のある"道"だと、個人的には信じている。

 そしてもちろんマルチアンプの世界は、極めれば数百、数千万円を費やし、家そのものまでスピーカーにしてしまうという"究極"の世界が現出するが、そういうシステムを構築するに当たっても、私のようなほんの入り口のマルチアンプを展開している時に重ねたノウハウはそのまま生きるものである。

 ちょっと敷居は高いかもしれないが、あなたも魅惑のマルチアンプの世界へ、足を踏み入れてみてはいかがだろうか。もしご質問がおありなら、番組宛てにお手紙かメールを頂ければ、誠実にお答えすることを約束しよう。

(2019年7月10日更新) 第224回に戻る  第226回に進む  

炭山アキラ

炭山アキラ(すみやまあきら)

昭和39年、兵庫県神戸市生まれ。高校の頃からオーディオにハマり、とりわけ長岡鉄男氏のスピーカー工作と江川三郎氏のアナログ対策に深く傾倒する。そんな秋葉原をうろつくオーディオオタクがオーディオ雑誌へバイトとして潜り込み、いつの間にか編集者として長岡氏を担当、氏の没後「書いてくれる人がいなくなったから」あわててライターとなり、現在へ至る。小学校の頃からヘタクソながらいまだ続けているユーフォニアム吹きでもある。

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