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Best Sound~オーディオ評論家が選ぶ優秀録音盤~

124ch THE AUDIOにて放送中! (月~金)6:00~9:00、11:00~13:00、15:00~19:00、 (土・日)6:00~9:00
評論家による優秀録音盤セレクション。 「Best Sound~オーディオ評論家が選ぶ優秀録音盤~」  

●寺島靖国・選(ジャズ)【Part.1】(2015/8/31~2016/7/29) 
【Part.2】はこちら(2016/8/1 ~) プロフィール  その他選者

★寺島靖国が選ぶ100枚!!~現代のピアノ・トリオを聴く
<選曲にあたって>
「今回選んだのは、ある種のジャンルに限定されています。何といってもピアノ・トリオな訳ですよ。ディスクユニオンの新譜コーナーに行って手当たり次第買ってくるという。それが大体、8割ね。あとの2割がテナーのワンホーンカルテットやトロンボーンのワンホーンカルテットだったり、クインテット、セクステットだったり女性ボーカルだったり。実際いつもその割合で日頃聴いているから、選ぶとなるとそうならざるを得ないんだよね(笑)
 ただピアノ・トリオといっても普通の人はピアノを中心に聴く。僕の場合はベースとドラムが一番好きな楽器だから、ピアノ・トリオといいながら、ベース・トリオやドラム・トリオという考え方で聴いています。そして皆さんにもそういう風に聴いてもらいたい。ピアノトリオだからといってピアノだけを聴くのではなく、むしろ最近音のいいベースやドラムを聴く。
 最近はレコード会社もベースとドラムに力を入れて録音しているところが増えている。ベースとドラムをいかにいい音で録って全体の音をアピールするかという点に意を注いでいるから。そこが以前のピアノ・トリオの録音と違っているところ。だから聴き方も変えていかなければならない。ベースの音を吟味する、ドラムの音を楽しむ、シンバルの音を賞味する、みたいに。そういう風に聴くと実に面白い。現代のピアノトリオを聴くときはね・・・僕はいつもそういう風に聴いているので、ドラムの音、シンバルの音、そしてベースがズーンと沈み込むというように、自分のオーディオ・システムを調整している。そしてますますピアノ・トリオばかりになっていくわけですよ(笑)」(寺島・談)

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( CD番号 )
コメント
1 Speaks latin / David Gordon
( DGT 005 )
ラテン・ジャズというと、いつも一段下に見られるが、これはそんな俗説を一蹴するラテン・ピアノ・トリオの快作。楽しくて哀しいラテン・ジャズを底上げするもの。おすすめは⑤の「Sambova」
2 Lazy Afternoon / Alain Jean-Marie
( SHA525-2 )
メロディをおろそかにしない。否、メロディに敬意を払ったプレイがいい。ピアニストはフランス人だが、タッチは強力。パーカーの曲だろうが、ミンガスだろうが全て自分のジャズにしてしまう程の唯我独尊性を買う。ジャズはそれでいいのだ。
3 in the meantime / Tine Schneider
( TS3475 )
オランダのピアノ・トリオ。ピアノ奏法はオランダの大西順子といった塩梅。スタンダード、ジャズメン・オリジナルに自分のオリジナル曲をまぶした曲配分は好感が持てる。私はいつも②のトリスターノ作曲「Lennie's Pennies」で溜飲を下げる
4 July 6th: Live at Birdland, New York / The Great Jazz Trio
( VRCL18841 )
日本人風の選曲は先日惜しくも死去した伊藤八十八さんのプロデュース故。しかしそれが功を奏したラテンの「Amapola」に私は目がない。八十八さんは音作りも天才で、優雅で張りのあるオーディオ的サウンドはまさに第一級品。
5 You and the Night and the Music / Alan Broadbent
( KICJ434 )
音のよさで聴くCDだ。品のいいスタンダードで固めた内容もいいが、それよりブライアン・ブロンバーグの地を這うベースに驚いてくれ。そうかと思うとシンバルも高らかにさえずり、ピアノも格調高く、さすがキング・レコードといいたくなる。
6 IT.6V. / Piero Bassini Trio
( CDH 484.2 )
すべて数字で書かれたオリジナル曲ばかりでスタンダードなど旋律の意味では面白いものではない。しかし一転音質に目をやると驚愕が待っている。4曲目「V. Three」のシンバルの質的、量的アタック感。前代未聞である。太くて甘く、しかし鋭さを内包してやまない。イタリアには時にこうした「事件」が起きるから目が離せない。
7 Rip Van Winkle / John Mayer
( FSR 5027 CD )
ピアノ主導、ベース、ドラム追従型。従来型のオーソドックスな安心感100%のピアノ・トリオ。曲も極めて穏当。安産型で無理がない。となると、平和主義一辺倒でかったるく感じるが、音で勝負している。各楽器の響きの俊敏さ、すばしこさ。スペインのフレッシュサウンドの右に出るものなし。
8 Keepin' in the groove / Rob Schneiderman
( RSR CD 144 )
1996年録音。古い。現代のピアノ・トリオ感覚からするとややオーソドックスに過ぎる。しかしこのあたりの作品から現代ピアノ・トリオの隆盛は始まったのだ。そういう視点で見ると、最敬礼したくなる。仰ぎ見る思いだ。まして録音がバン・ゲルダーとくれば平伏あるのみ。
9 ITALIAN STANDARDS / beppe castellani
( TBP-JAB031 )
テナー・サックスの魅力は中低域のゾリッとした音色のバラッド風演奏、これに尽きる。しかし昨今はコルトレーン調の絶叫ないしは悲鳴に近いテナーマンばかりでこの世は真っ暗。ああしかし、こんな暗闇を照らす光明盤があったとは。正しいテナー音色を渇望する正調テナー・ファンに捧ぐ。
10 Teach Me Tonight / Elisa Fiorillo
( KICJ 443 )
キュート系ボーカル。アメリカ人。2002年録音。音は良好。隣のお姉さんが料理しながらハミングしているような庶民性が持ち味。全編スタンダードで、初心者が安心して聞ける。さらに第一級ボーカルに食傷した第一級ボーカル・ファンが意外な良さを見出すはず。手許に置いて寵愛したくなるのだ。
11 For My Father / Hank Jones
( JUST 209-2 )
カナダのジャストイン・タイム盤の音の良さを聴く。ジャズのピアノ・トリオは大体スピーカーの中央にやや円形を帯びて位置するが、このCDはとにかくレンジが広くドラムのブラッシュの先端サウンドなどがスピーカーの外界へ飛び出すような塩梅なのだ。レンジが広いと音が薄目になるがこの盤は薄目どころか中央部が色濃く密集しているというすばらしさ。
12 Second Language / David Gordon
( ZZCD 9827 )
大変「面白い」ピアノ・トリオ。至るところに仕掛けと工夫とそれに伴うスキルがあって一筋縄ではゆかない。一歩誤ると外道になるが、そうならないのはどの曲にもこれはこういう曲という立派な旋律があって、あくまでも曲として楽しめるからだ。推薦曲は⑧の「サルソヴァ」
13 Sophie Milman / Sophie Milman
( 2 70029 )
ジェーン・モンハイトとともに現代女性歌手の最高峰に挙げよう。どんな歌手にも「危なげ」要素があるが、この人には一切それがない。その上に「上手さ」が成り立っているのだ。声量、声質、抑揚などすべて第一級。⑩「私の心はパパのもの(My Heart Belongs To Daddy)」の最初の意表つく唐突的アレンジは決して忘れられない。
14 Brandyn / Al Foster
( 351000832 )
アル・フォスターを真の天才ドラマーと言ったのはピアノのスティーブ・キューンだ。私に言わせれば野性的天才。この盤では野生が少しソフィスティケイトされている。リーダーになって気を遣ったのだろう。それでも牙をむいた獣的ショットはあちこちに。4曲目のオリジナル「Barney Rose」はドラマーの作曲した名曲に登録したい。
15 what love is / erin boheme
( VICJ61351 )
アメリカ中西部出身の人。若干の塩分を含んだキュート系。実は私、音質検査にこの盤を使っている。コンコード盤は普通な音の最高級盤。普通の最高がいかに出現するか。ブライアン・ブロンバーグのベースの豊かな盛り上がりを聴く。その低音部が歌手の声帯的低域にいかに有効に作用するかを聴く。6曲目の「Make You Happy」が試聴曲。
16 Swingin three / Serge Delaite
( AS 074 )
ひたすら10曲目の「Blues of J.M.」に耳を傾ける。シンバルがジリジリ鳴り、タイコがドスドス音を立て、頃合いを見計らってピアノが入ってくる。リズム・セクションから始まる演奏はジャズの華だ。音の立ちが素晴らしくいい。オーディオ・チェックに恰好なのだ。トリオ全体の色調、音調はいかにも澤野工房らしい端正なもの。
17 the best collection / Halie Loren
( VICJ61704 )
ベスト物だ。ベスト・アルバムから買うのが一つの手かもしれない。昨今女性ボーカルは失敗が多い。しかし、ヘイリー・ロレンに失敗はない。一つとして外れがない。ただしそれはオジサンにとっての話。ややセクシーである。目や耳をそむける女性が少なくない。私などはそういう女性が多ければ多いほど嬉しい。歌は絶対に上手い。
18 i love you / Woong San
( PCCY 30220 )
声帯は渋め。その中に約10%のキュート声をまぶしている。キュート声の多い昨今の女性ボーカルの中でそれがまず特異。惹きつけられる。ある種不気味なのだ。選曲は全方位的。リズムも多彩。バラバラ感が出そうだが、どの曲も完璧にこの人の世界に統一されている。歌唱力は抜群。4曲目の「Savannah Woman」をベストに選びたい。
19 Tomorrow / Woong San
( PCCY 30197 )
Woong Sanの声は渋いが、よく聴くと愁いを含んでいる。沈んでいるのだ。音調をぐっと落として体内にひそむ哀しみの情を総動員して表現した3曲目の「The Boulevard of Broken Dreams」が絶品。そうした意味では「Am I blue」もいい。全体ブルーの音調で覆われている。ブルースとは違うブルース。
20 It's Hamilton Time / Jeff Hamilton
( LSR 2001 CD )
1990年代。ピアノ・トリオの走り的作品の一枚。ただしその頃から流行り出した三者一体型トリオではなく、リーダーのドラマーが特権的猛威をふるう、主従関係が鋭く確立した1枚。それだけにドラム好きファンには恰好の贈り物で、最後まで聴くと自分がドラマーになったような気分に陥る。
21 american songbook / Olaf polziehn
( SDP 1032 1 )
一口にピアノ・トリオといっても多種あり、スタイルが各々異なるからこそピアノ・トリオは面白くてやめられない。このドイツ人グループ、新進を目指すでもなく、オリジナルに挑戦するでもなく、ひたすらモダン・ジャズの伝統に根差したプレイに終始する。志の高さは見上げたもの。2000年代のドイツ版オスカー・ピーターソン・トリオ。
22 Segments / Geri Allen
( DIW 5002 )
1980年代、DIWレーベルが尖がっていた頃の熱血トリオ作品。しかしさすが国内制作、とんがりピアノのジェリ・アレン、とんがりドラムのポール・モチアンを起用しながら耳当たりのいいCDに仕上がっている。曲がほとんどすべていいからだ。外国作品だとこうはゆかない。とんがりミュージシャンにとんがり曲ではとりつく島がない。⑧のヘイデン作「La Pasionaria」がベスト・チューン。哀愁曲作りの達人。
23 Back to Earth / Lisa Ekdahl
( 74321 61463 2 )
元祖キュート系。20数年前、スウェーデンから輸入された猫なで声を思いのままに駆使して本格ボーカルファンを唖然とさせたが、歌は上手いからのめり込む人もいた。不肖私もその一人。こういう歌手がいてもいい。ひとつの才能だ。コール・ポーターの珍曲「Laziest Girl In Town」など選曲にも才能がある。
24 Construction Zone (Originals) / Ethan Iverson Trio
( FSNT 046 CD )
音楽はいささか辛気臭い。大向こうを唸らせようとの魂胆がありありだ。で、聴きどころはただ一つ。音質、音色である。音なら誰にも負けないぞ、と私が力むことはないが、さすがスペインのフレッシュサウンド。大方こういうのを生より優れたオーディオ・サウンドというのだろう。
25 Blabete / Mathias Landaeus
( AMCD 876 )
「なつかしのストックホルム」を筆頭にスウェーデンの民謡はいつだって本格ジャズ・ファンの涙腺を緩ませてやまない。一曲目がそれ。思わずアート・ファーマーのアトランティック盤「スウェーデンより愛をこめて」を思い出した。これはそのピアノ・トリオ版だ。昔からスウェーデン・ジャズを特異の存在たらしめた要因の一つにこのスウェーデン・トラディション曲がある。
26 Maya / David Gibson
( NagelHeyer2018 )
トランペット、テナー・サックス、トロンボーンの三管編成。ジャズ・ファンはその3つの楽器がかもし出すハーモニーを楽しむが、ジャズ・オーディオ・ファンはさらに3つの楽器の前後左右感覚を嬉しく聴く。テナーがソロをとるとテナー奏者が一歩前に出る。そういう動的な感覚がえも言われぬ快楽となって伝わってくる。レーベルはドイツだがミュージシャンは現代NYの最先端をゆく人達。50~60年代の濃さはないが、現代ジャズ特有の美的稀薄空気感を聴く。
27 In Concert / Tingvall Trio
( 9127-2 )
50~60年代濃厚ピアノ・トリオと激しく一線を画す現代ヨーロッパのピアノ・トリオ。原産国はドイツ。森林の中で聴くジャズのようだ。煙に燻されるかつてのNYジャズとはえらい違い。曲はすべてオリジナルだが親しみやすい旋律性を重視したもの。ジャズに恐怖感を持つ人が最初に聴くジャズ。
28 What Happened / Alex Riel
( Cowbellmusic14 )
アレックス・リールはデンマークのドラマー。今年77才。筋金入りの職人だ。ドラミングはコンクリートの中の鉄筋のように芯が強い。バシッと火花が散る。故に本盤はあくまでドラム中心に聴くのが極意。デンマークのカウベル・レーベルはレンジはやや狭いがそれ故に中域音色が色濃く、従ってシンバルも分厚い。スネアドラムの「カーン」もスティックの根元の太さが如実に伝わり、いやドラム好きには天国だ。
29 Remembering the Future / Stanley Sagov 2015年の作。アメリカ人。推定年齢50歳。いま時こんな粘っこいピアノを弾く人がいたとは。鍵盤にのりが付着しているようだ。6曲中「ナルディス」「ジャン・ピエール」などマイルスゆかりの曲が半分を占めているが、楽想、演奏法はまったく別物。マイルスやエバンスの匂いはどこにもない。強弱、めりはり感の突出したピアノでひたすら鍵盤を打ちすえてゆく快感。ジェットコースターのようなピアニストだ。
30 Reminiscing / Jodie Christian Trio
( DE-531 )
肩をいからせていないピアノ・トリオ。シカゴ産のジャズは昔からそうだ。2001年吹き込み。趣味の良いスタンダードを並列している。ピアノのスタイルは黒人風のタッチの中に幾方から白人風知性を混入させたもの。聴きものは②の「瞳を閉じて(I'll Close My Eyes)」。ベースのランニングに目を奪われる。速いテンポでのミラクルな上下運動が凄い。指が行きつ戻りつするのが見えるようだ。音も良好。
31 A World for Her / David Hazeltine
( CrissCross1170 )
学校の先生のようなピアノを弾く。腕は達者だがジャズに必要なアドベンチャラスな面に乏しい。よってピアノ・トリオではなく別の楽器が入った本盤のような作品に興味が向く。この盤ではテナーとビブラフォンが入っている。ビブラフォンが一曲だけ入った6曲目の「Old Devil Moon」がベストだ。甲高いトップ・シンバルと中性的なビブラフォンの音が共鳴する。一方が振動するともう片方も振動し、いやその共鳴音の気持ちいいこと。
32 Tender Waves / Martin Wind
( AL 73030 )
おだやかなピアノ・トリオだ。腕の力はきれいに抜けている。ピアノのビル・メイズもドラムのキース・コープランドも白人穏健派。リーダーのマーチン・ヴィント。ドイツ人。この人のベースの音色が聴きどころだ。日頃固くタイトなベースしか聴こえない私のスピーカー。そのように調整しているが実にゆったりとほぐれた暖色系の音が張り出してくる。これが天性のベースの音なのか。母なる大地。抱擁型ベース。
33 Presences / Georges Paczynski TRIO
( KKJ 101 )
これくらい響きのいいシンバル音を私は知らない。ずっと聴いていると体が透き通ってくる。シンバルの黄金色に染まってゆく。ジャズ批評誌、2007年ジャズ・オーディオ・ディスク大賞金賞CD。フランス録音。技師はバンサン・ブルレ。イタリアのステファノ・アメリオと共に現在録音界のトップにいる人。曲はすべてオリジナルで馴染みのないものだがどうでもよい。要は音。音で聴いて100%の満足を得られる得がたい作品。
34 Rejuvenete / Ralph Moore
( CrissCross1035 )
くせ者盤だ。1988年産出。産出国はオランダ。しかし吹き込みはニュージャージー。と言えば録音技師はご存じルディ・バン・ゲルダー。とくれば一挙にジャズ・オーディオ・ファンの興味が沸騰するだろう。まずは⑤の「まるで春のよう(It Might as Well Be Spring)」を聴いてくれ。B級テナ―のラルフ・ムーアが超A級テナーマンに様変わりだ。ブルーノート時代からB級ミュージシャンをA級に仕立ててきた「仕立て屋」がバン・ゲルダーだ。
35 The Spinning Top / Ake Johansson
( TGCS-2100 )
中庸の国スウェーデンから出た中庸ピアノ・トリオ。最近の一部のとんがったピアノ・トリオにうつつを抜かす人には物足りない。けれど音で聴くファンにはもうけの幸い、推薦とゆこう。1950~60年モダン・ジャズ時代の音に現代サウンド風味を混入したらこんな音になる。レンジは幾分狭いがそれだけにピアノや
36 4:JJ/SLIDE/CURTIS and AL / Robin Eubanks
( TCB 97802 )
まずは1曲目「JJ」を聴く。J・J・ジョンソンというトロンボーン奏者を音楽で表すとこういう曲になる。作曲はロビン・ユーバンクス。彼のトロンボーンはあくまでなめらか、スライディングはどこまでも延びてゆく。しかし、J・J・ジョンソンに比べたら先は遠い。しかし、音楽を聴きつつ感動が沸き起こるのは彼のいじらしいまでのジョンソンに対する尊敬と憧憬の念ゆえだ。それが1曲目に出ている。
37 Imagination / Christof Sanger
( laika 35100752 )
ドイツ人ながら南国風味のピアノを得意とする。カリビアン・ピアノ。やや軽量だが芯は確実に固い。リーダーよりベースのジョージ・ムラツ、ドラムのアル・フォスターが有名。こうした倒錯傾向は最近各レーベル随所に見られる。有名ミュージシャンも人の子。頼まれれば「仕事」に精を出さなければならない。よってベースとドラムのサポートも第二の聴きどころになる。個人的にはラスト曲「Tres Palabras」が好み。音は中域の美味部分を味わう。
38 C'est Magnifique / George Masso
( CD 060 )
モダンもいいがこうしたスイング系も大好物。コンセプトがどうしたなど小うるさいモダンに食傷すると職人芸を大事にするスイング~メインストリーム系でホッと一息。高度になり過ぎたモダン・ジャズへの頂門の一針盤がこれだ。本盤はコール・ポーター作品集。作曲家の中ではコール・ポーターがいちばん親しみやすい曲を書く。親しみやすい演奏と曲。ビギナー及び最晩年ファンはこれでジャズに親しむべし。
39 At long Last Love / George Masso
( ARCD 19249 )
酸いも甘いもかみ合わせたトロンボーンがジョージ・マッソだ。人生を味わい尽くしたトロンボーンがジョージ・マッソだ。その絶妙な境地を知りたければ⑧のバラッド「But Beautiful」を聴くべし。こせこせした人生が嫌になると私はこの曲にすがりつく。逃げ込む。するといきなり安堵感に包まれる。この幸せをどう表現しよう。トロンボーン奏者と同時にマッソは人生の癒し家だ。音楽の効用、これに極まれり。全体のサウンドは非常になごやか。
40 Quartet live / Sean Smith
( CR(D)360 )
CDを取り出すとすぐさま⑨のボタンを押す。この一曲のためにこのCDは存在するのだ。他の8曲はすべてリーダーのベーシスト、ショーン・スミスの作曲だが、やはり巨大な作曲家の楽曲は年月が経っても新しいミュージシャンの魂をゆさぶるのだろう。感激的なプレイが聴ける。巨人の名前はデューク・エリントン。この演奏でいちばん大事なのは「間」。間がとりにくい新進ミュージシャンもこの曲にかかると間に合ってしまうという塩梅。
41 Weaver of Dreams / Danny Moss
( cd 017 )
聴くべきはテナー・サックスの豪勢な音色。蒸気が吹き出て今にも爆発が起きそうなきわどい瞬間音。コールマン・ホーキンスが現代のサウンドで録音したらこうなる。現代のブルーノート・サウンドを再現するレーベル、ナゲル・ヘイヤーだからこそこの熱血のテナー・サックス音を実現出来たのだ。もう一つメリットがある。選曲のセンスの良好さがピカピカに光る。なかんずくタイトル曲などのバラッド演奏。スススのサブ・トーンがテナー好きファンの心をゆさぶる。
42 Happy Together / Ken Peplowski
( CD 097 )
2テナ―物は珍しくない。アル&ズートなど。しかし長く演奏が続くとしんどくなる。同一楽器でしかも音色などが似ているからそのうちどうでもよくなってくる。K・ペプロウスキーとイエスパー・シローはさすがそこが老練。2人ともクラリネットをよくするからテナーとクラリネットを鮮やかに吹分けてあきさせない。圧巻は「世界は日の出を待っている(The World Is Waiting For The Sunrise)」。余り例のない2クラリネットの妙技妙味をふんだんにばらまいてジャズの別種の世界を形成する。
43 Jazz im Amerika Haus vol.4 / George Masso
( cd 014 )
1950~60年代の二管編成モダン・ジャズは今から見るとジャズ界最高の発明品だった。二管物がモダン・ジャズ期を栄えさせたのだ。欠点もある。二管によるユニゾン奏法、すなわち斉奏演奏がマンネリ化の原因を作った。本盤も二管だがしかし、色々細工を施していてそこがさすがだ。ニューオリンズジャズ風に2つの管を絡ませたり、テーマを2人で分け合ったりする。現代スイング・ジャズのあらまほしき見本。
44 Sinne Eeg / Sinne Eeg
( COPECD 072 )
シーネ・エイの声質は甘さと辛さが同居している。いわば甘辛系。楽曲を作った作曲家が作った通りに正直に歌わない。やや作り変えるが、それほど無茶はしない。許容範囲である。これ以上無茶をすると私は聴いてやらないが、敵もわかっていてそのあたりのかけ引きは絶妙だ。ベースと2人で出る形のデュオの歌いだし方も私は好きだが、それが⑧の「Close Your Eyes」で目下のところ一番の愛聴曲になっている。
45 A Place to Be / Sliding Hammers
( SOL GZ-001 )
2トロンボーンの良さを再確認したい。ソロを楽しむならワン・ホーンだ。しかしハーモニーの美しさを知るには2本以上の構成に限る。よく言われるようにトロンボーン一本は象の放屁、2本以上は天使の歌声。この格差はどうだろう。3トロンボーン、4トロンボーンはともかく、2トロンボーンは美麗ハーモニーと同時平行的にソロの活躍も楽しめる。ベスト・システムだ。①の「サウダージ」が最高峰。出だしの数秒に超生命力が宿る。
46 Out of This Mood / Lyambiko
( NagelHeyer2021 )
白人とも黒人ともつかぬ、その中間色彩的な歌い方がいい。ジャケットで見る通り褐色の肌を持つ素朴な美人、リャンビコ。飾らぬ風貌そのままが歌にばっちり旨く投影されている。正直なCDだ。2ヶ月に一度ほど取り出す。まず③の「Chega De Saudade」を聴き、次に⑨のピアノ・トリオ「Parakeet Prowl」に移動する。これが本命曲だ。音のテスト曲。パーカッションの要素がスピーカーの全面に散乱し、その光景を見て狂喜乱舞の態。
47 Movin' / Dag Arnesen
( VACD-1002 )
1994年、ノルウェー製。北欧のCDには危ないものも多い。全オリジナル。旋律性、律動性ゼロという危険物。安心して聴けるのがこの作品だ。安心といっても緊張感はきちんとある。全9曲のうち、スタンダード2曲、ジャズメン・オリジナル1曲、他はピアニスト作によるオリジナル曲だが、すべて旋律性全開。これぞ優れたCD作品の要諦。演奏の聴きどころはベースの踊る旋律。こうした歌うベースが現代ピアノ・トリオの最重要用件になっている。
48 After hours / Dusko Goykovich
( ENJ-1014 )
1970年代、ジャズ界真っ暗。50~60年代のベテラン・ミュージシャンは疲弊、あるいはアメリカを見捨て渡欧。そんな中で一つの大きな光となって現れたのがダスコ・ゴイコビッチだった。エンヤというドイツのレーベルはゴイコビッチが有名にした。反対にゴイコビッチを有名にしたのはジャズ喫茶だった。連日リクエストが殺到。曲良し、スイング良し、言うことなしだが難点もあり。それはメロディー満開でわかり易過ぎること。贅沢言うなと言われそうだが。
49 State of the Union / Laurence Hobgood
( naimcd038 )
オーディオ・ファンに推薦しよう。音楽ファンには、さぁ、どうだろう。曲を選ぶ必要がある。中にはフリー・ジャズ風に破綻をきたしている曲もある。さて、音。録音からCDになるまでには幾つかの行程がある。ミックス・ダウン、マスタリングがそれであるがこのCDはそのいずれのプロセスも経験していないような音がする。つまり素の音。生まれたままの音。一切の加工を施さない音。一言で言おう、鮮烈だ。
50 Butterfly blue / Halie Loren
( VICJ 61709 )
ヘイリー・ロレンを受けつけない人がいる。特にご婦人がそうだ。セクシーを売り物にした、本道を外した歌手ということなのだろう。わかる。しかし男性で受け入れられないというのは理解不能。男性たる資格があるのかと思う。彼女のセクシー唱法は許容の範疇であり、彼女を好む人のスピリットは健全だと確信する。まず上手い。これが特徴の一番。上手さにほんのりとしたセクシーが付着。ボーカルの最大最高の境地ではないか。
51 Jazz Trombone Spirituals / Vincent Nilsson
( 101 4240 )
デンマークのトロンボーン奏者。1998年吹込み。トロンボーン奏者とごく一部のトロンボーン好きにしかアピールしないトロンボーン盤が多い。そうした中で普通のジャズ・リスナーにまで領域を広げて制作したのが本作品だ。故にトロンボーン入門盤として最適。「ジェリコの戦い」「時には母のない子のように」「聖者の行進」などニグロスピリチュアル特集。シンプルな作風を避け、各曲変拍子その他の趣向を用意するなど上級者も視野に入れ、飽きさせない。
52 Angel Feet / David Gordon Trio
( zzcd 9819 )
100%ジャズ・スピリッツを発情させるピアニストではない。0.5%ほどクラシカルな香りを含む。故に女性ピアニストなどに好かれたりする。しかし曲作りと選曲の巧みさで一部に熱狂的なファンを持つ。私もその一人。「Bebop Tango」「Francesco's Rhumba」など曲名からして早くも舌なめづりが起きる。パブロフの犬と化す。想像の通り、南国の哀愁感たっぷりの曲想に身悶えする人多し。イギリスのレーベルZahZahはこの人で有名になった。
53 Basic Jazz Trio / Tony Pancella
( W115.2 )
イタリアのピアノ・トリオ。タイトル通りベーシックなファンを対象にしたベイシックな作り。スタンダードを多く取り入れ、その中に自分の作曲を混入した作風はその逆の多い昨今のCDの中ではむしろ好ましく異色だ。スタンダードをやっつけでプレイするのではなく、よく練り込み吟味しているが、そうかといって無理矢理ねじ曲げた形跡は皆無。作曲家の旋律通りプレイしてその中に味わいを求める難易度の高いプレイをこなしている。
54 Swedish Standards / Jan Lundgren Trio
( 2601290 )
定型を嫌うドイツのレーベルから出た極めてまっとうな定型盤。オリジン盤はスウェーデンのSittel。タイトル通りスウェーデンのスタンダードを特集している。「懐かしのストックホルム」を嚆矢としてこの国のフォーク的楽曲は昔からジャズの一つの好ましい現象になって久しい。全10曲、すべて「懐かしのストックホルム」風の柔らかさと安堵感を持ち、あたかもスウェーデンの森の中で寝そべりながら音楽に耳を貸すといった幸せ感に包まれる。2000年代古典盤の出発点になった一枚。
55 All God's Chillun Got Rhythm / Frank Collett
( FSR 5041 )
有名な「グリーン・ドルフィン・ストリート」はブロニスロゥ・ケイパーの作品だ。知る人ぞ知る作曲家。その未知の作曲家の楽曲をまとめて一枚にしてしまったのが本作。凄いマイナー性。凄い度胸。採算度外視。スペインのフレッシュサウンドならではの偉業であり、大物志向の日本では考えられない。ピアニストのピアノは無理矢理感ゼロの穏当奏法。おだやかなスイングだ。音の良さは群を抜く。倍音の美麗さは別格でジャズでこんなに美しくていいのかの疑念が。
56 The Fourth Door / Tan T'ien
( Improvvisatorein
volpntario
0031 )
現代ヨーロッパで名を馳せている録音エンジニアはイタリアのステファノ・アメリオ、フランスのバンサン・ブルレ。もう一人加えなければいけない。本盤をエンジニアリングしたカルロ・カンティーニ。仰天した。オーディオ装置に一億円かければこんな音が出るのだろうか。10万円の装置でもこの録音の良さはくまなく伝わってくる。ご一聴を。しかし音楽内容はいただけない。フリー・ジャズ風でその筋の好きな人はいいが、一般のファンには薦められない。音で聴く一枚。
57 Living in a Movie / Eugenio Macchia
( AU3001 )
イタリアの名録音家、ステファノ・アメリオの作品。よって音を第一に聴くのが正しい。彼の音の調律の凄さは延びているのに延びた音が最后までちからを失わないこと。しかし本盤はやや彼のものとしては最上級ではない。しかし音楽的には聴くべき箇所は多く、曲目も旋律的に配慮され、自作の③「Ursa Minor」やケニー・カークランドの⑨「Before It's Time To Say Goodbye」の静かな作風に圧倒される。音楽がまともになると音の先鋭性も影をひそめるのか。いや、皮肉ではないが。
58 Trio / Eric Byrd
( FX-70012 )
名前を見て黒人と思われた方、正しい。ピアノ・トリオはヨーロッパ盤が多いから白人ピアニストがほとんどのトリオ世界で黒人ピアニストは珍しい存在だ。そして貴重。現代ピアノ・トリオの潮流から一線を画した演奏スタイルを持つ。モダン・ジャズ時代のアクの強さをそこかしこに残し、そこに近代風のアレンジを施したピアノ・トリオの一つのあらまほしき姿を作っている。そこが聴きどころ。どの曲も曲調が明白にわかる旋律を有する。それが第二の美点。
59 rendez-vous / gabriel pezzoli
( TCB29702 )
ピアノの音色は清澄、そして甘く鮮烈、シンバル、ブラシの類は空間に黄金色に散らばる。金粉をまいたようだ。ベースの延びはもちろん深い。ご存知、イタリアの誇るエンジニア、ステファノ・アメリオの傑作サウンド。アメリオの名前を決定づけた一枚。演奏は内省的で時にフリー風に傾くが、タイトル曲の②を一聴すればこのCDを手放せなくなる。ピアノ・トリオを聴く喜びの大きな一つはこうした美麗旋律を見出すことにある。
60 seventh sense / tim lapthorn
( srcd19-2 )
アドリブのフレーズを逐一追ってゆけるタイプのピアニスト。曲のテーマから派生したフレーズとして納得できるアドリブ的旋律を持つ。これを予定調和として嫌う人もいる。アドリブはテーマに関係なく突然変異型、あるいは奇想天外風のものを最上とするジャズファン。ジャズの理想的なあり方として認めるが、私は追ってゆける、そして歌えるフレーズ弾きを好む。「降っても晴れても」のピアノとドラムの間で舞うベースの旋律的跳梁に驚く。
61 going my way / roger friedman オハイオ州、クリーブランドで2009年に録音された。ピアニストは中年男性。全13曲。ジョビンが2曲、スタンダード1曲、コルトレーン・ナンバー1曲。あとはリーダー、ピアニストのオリジナルという構成。ピアノはごく普通のタッチ。ピアノの演奏手法の独特さで聴かせる作品ではない。一曲一曲、手の込んだアレンジが特徴。色濃いアレンジを色濃いピアノでやられたらトゥ・マッチだがノン・カラーのピアノがその意味でメリットになっている。①のオリジナルがベストトラック。
62 here we come / martin sasse
( NagelHeyer2008 )
トリオの3人とも若い。30~40代。にもかかわらず守旧派の演奏構成を行う。現在、若手のピアノ・トリオのほとんどは何らかの形で先進派を目指す中で異色だ。そういうピアノ・トリオ・パターンがあっていい。なくてはいけない。大雑把にいえばピーターソン・トリオ風だ。思い切ってスイングできる。NYの先進派は主として4ビートによる思い切ったスイング体勢をとりにくい。シンプル・イズ・ベストを実践できない。このトリオにはそれがある。音質も思い切ってスイングしている。
63 le carnet inacheve / Georges Paczynski TRIO
( kkj 110 )
私が現代録音エンジニアでベスト、最高、この人以上皆無と信じるのが、フランス人ブァンサン・ブルレだ。音作りで彼が目指すものはなにか。『切れ味』である。『瞬発力』である。これらの要素を出現させるために彼がとった手法はなにか。セパレーションをよくすること。つまりピアノ、ベース、ドラムスの3つの楽器をくっつかないように音を作った。音がだんごにならず、各々分かれて別次元でのびのびと歌い出した。そしてそれが『切れ味』『瞬発力』になって出現した。
64 jazz unit / jazz unit
( pacd 97061 )
ピアニスト・ドラマーはアメリカ、ベースはスウェーデン、曲によってトランペットのランディ・ブレッカー、デンマークのテナー、イエスパー・シローが加わっている。つまり、リーダーのいないユニットというわけだ。題して「ジャズ・ユニット」レコード会社はスウェーデン。演奏は前衛傾向に走らず、ピアノ・トリオ曲と管入り曲を塩梅よく分離、飽きさせない作りは出色だ。ランディ・ブレッカー・フィーチャーの⑤「貴女と夜と音楽(You And The Night And The Music)」、テナー・フィーチャーの「夜のしじま」がいい。
65 le but, c'est le chemin / Georges Paczynski TRIO
( kkj 112 )
12曲目の「La Corde de la lyre」のボタンを押す。するといきなり飛び出すシンバル。リズム。空中に散乱する。ベースが少しでも前に出ようと身をせり出す。自己主張の強さがスイングを大きく作る。その上に君臨するピアノと言いたいが、実は少しおとなし目だ。ドラムとベースが上位のこうしたピアノ・トリオ・パターンがジャズ的、オーディオ的に魅力的なのだ。録音はもはや天上のものとしか言えない。ベスト作家のヴァンサン・ブルレ。
66 no more blues / johanna grussner
( pcd073 )
歌手は特に上手いというわけではない。初々しさが魅力。がんばりが見事。「ノー・モア・ブルース」はしかし聴かせる。声帯にいくらか塩分が加わり、ただのキュート系に収まらないのが良い。聴きものはメキシコ出身のドラマー、アントニオ・サンチェスだ。今をときめく彼の10年前のドラミングが嬉しい。歌伴だけに昨今の阿修羅性は当然かげをひそめ、律儀に4ビートを刻んでいるが、それでもすでに天分は十分に感じられる。音質は良質。マイケル・ブロービーだ。
67 tribute / kaisa kulmala
( impala18 )
本音がどこにあるのかわからない音楽だ。フィンランドのインパラ・レーベルは何枚もシリーズ風に作品を並べているが大体悪くない。しかしこの一枚はちょっと、と思いつつラスト曲の「Somero」を聴いて合点がいった。そうか、本音はここにあったのか。トリオの3人はこの大スイング、大4ビート大会をやりたかったのだ。しかし昨今のヨーロッパ風ピアノ・トリオの風潮にウィンク。思わず「らしい音楽」をやってみたのだが…。
68 late night jazz / slyde hyde
( 5503-2 )
スライド・ハイドはトロンボーン、ベース、トランペット、ユーフォニアム、この4つの楽器をよくするマルチ管奏者。この4つの楽器から諸君はなにを連想するか?答えは柔和なサウンドである。奏者も柔らかい人なのだろう。主としてスロー・スタンダードを演じてはいるが、いやその深い馥郁としたサウンド、いやサウンドといよりは音色に身も心も透明感と幸福感に満ちてゆく。このレーベルは残念にも消滅したが、こういう至福音楽はなかなか理解し難いのかも。
69 Un Lettore Distrato / Michele Franzini In trio
( ABJZ 132 )
1950~60年代のピアノ・トリオと現代のピアノ・トリオはまったくの別物というのが私の意見だ。いいことだと思っている。両方楽しめるからだ。これは現代ピアノ・トリオをじっくり探索しようとする人向きのCD。いろいろ策をめぐらせているがそれを面倒臭がらず解明したい人には光明盤だ。いわば、文系ではなく理系のジャズ・ファンには推薦したい。スタンダードも2~3曲入っているが因数分解的解釈でとまどう。こうこられると困る。しかし7曲目「Leggerezza pensosa (Calvino)」の左スピーカーのあたりにごつく散乱するシンバルの剛音は私への絶好の贈り物。
70 Colors / Steve Allee
( OWL00102 )
大きくスイングするトリオだが音が良くて「For Jazz Audio Fans Only」に収録させて貰った。一曲目の「Bubbles」開演の合図はシンバルの一閃だ。まさに白刃一閃。切れ味最高。もう死んでいる。いや、ベースとピアノが同時に飛び出る。ベースの立ち位置はいちばん手前。その10cm後方にピアノが控えるの図。ピアノがベースの前に出ようとしきりにスキを伺う。そうはさせじとベースががんばる。かくして大スイングが出現した。
71 Crystals / Francesco Maccianti
( 008-01-03 )
ベースのエシート・エシートとドラムのジョー・チェンバースが有名で、ピアニストは一番無名。それはともかく⑤の「Nazca」には降参した。出だしのベースの音、これにしびれた。ヨーロッパのベースの音とはこれだと思った。18世紀の時価一千万円のベースと言われても納得する。ベースという楽器の底知れぬ深さ、深淵のさらに下の深淵を見る思いだ。ベースが深いと他の楽器の音も深くなる。ベースが大事というのはこういうことなのだ。2004年、イタリア録音。
72 Zoom Blewz / Lynn Seaton
( ARCD8021 )
ベース・リーダー作なのにベース・ソロがほとんどないのが良い。昨今のベースのほとんどがメロディ楽器と化したのに昔と変わらずリズム楽器と心得る職人根性が憎い。あくまでもリズム楽器としてメロディアスに歌うのがリン・シートンだ。ここが大事。ベテランの誇るべき領域。ベテランにも関わらず、スタンダードに新鮮なアプローチを施している。施し過ぎもあって微笑ましいが総じて熱意が感じられる演奏揃い。
73 Times Three / paul mindrup
( CSR 01 )
ちゃちなジャケットにしては内容はばっちり。一言でいえば中庸ジャズだが、偉大なる中庸。中庸ジャズで聴く人をとらえるのが一番難しい。その偉業をとげているピアノ・トリオ。内容が明晰なら音質も明晰。要はしゃっきりとしているということ。これに勝るメリットなし。ベース・フィーチャーの③「Bohemia After Dark」から聴き始めるといい。リーダーなしのピアノ・トリオの目指すところが分かる仕組みだ。ケニー・カークランドの②「Dienda」も深く沈む。
74 Trialogue / Rosset Meyer Geiger
( UTR 4405 )
イタリアの名録音家、ステファノ・アメリオの手によるもの。アメリオとスイスのユニット・レコードの共同作業によるCDは見さかいなくかってしまう。損はない。音で聴いて100%満足できる。アメリオの録音の特徴の一つはスピーカーとスピーカーのあいだのみならず、部屋全体に音が行き渡る音域の広大さにある。そこに喜びを持って思い切って鑑賞する。特に名曲というのはないが④「Sahara」に演奏家たちの情感を見た。2012年、スイスはバーゼルの録音。
75 complicated stories (with no end) / christian von der goltz trio
( Konnex Records5152 )
上手いがどこといって特徴のないピアノ・トリオ。安心して聴けるはほめ言葉になる昨今だ。頭でっかちの目立ちたいだけのトリオが多いから。このトリオは、では、どのように勝負しようと試みたか。楽曲である。メロディックなところで目立とうとしたのは賞賛に値する。いい曲を書く。それでリスナーに楽しんでもらう。殊勝な心掛けである。1曲目「Paulie's Idea」、5曲目「Praise」など舌なめずりしつつ聴く。
76 Echoes / Stephan Noel Lang Trio
( nagel heyer 2033 )
ピアノの音色、高いところ、低いところ。そのあいだの幅が広い。上がったり、下がったり振れ幅の大きいピアニストだ。非常に爽快。録音の良さでそれがいっそう明白に感じられる。録音とはこういう箇所で大事なのだ。全部オリジナル曲だが、旋律的であろうとする心意気に打たれる。その努力、創意が最高潮に達したのが12曲目の「Goodbye」。有名な「Goodbye」は永遠の別れの曲。これは明日また会おうという楽しい別れ。この曲を聴きながらジャケットの絵柄を眺める。いっそう鮮やかに見えてくる。
77 Easy Route / Igor Prochazka
( JM-0001CD )
ワン・トゥ・ワンーというカウント声と同時にトリオ全員がスピーカーから飛び出してくる。これはジャズの一つの喜び現象だ。人声もジャズになっているのだ。スペインのジャズ。なんの衒いもない。ひたすら王道のスイング方式を歩む。音はなめらかなハイ・ファイ音ながら無理に広域拡大方法をとらず、トリオの音像を真中にまとめ、そこに音の力を密集させたからたまらない。勢い余って聴き手の目の前に飛び出す、その快感。特にモノラル録音を好む人に絶好。
78 Blues in the night / New York Trio
( TRCV35154 )
初期ヴィーナス・レコードの作品。ヴィーナスの音の魅力は木綿豆腐の味。絹ごしにはないざらりとした感触が出色だ。オーディオ・ファンよりジャズ・ファンにより喜ばれる。愛聴される。ここでの聴きどころはピアノ。ビル・チャーラップ。チャーラップのピアノの特性、それは実に響きのいいこと。石を湖に投げると波紋が生ずる。水面に広がるその波の模様を想像してしまう。それがこの作品でよく出ている。このピアノは絹ごしの音だ。
79 First Look / Mark Shilansky
( MMC2037J )
買い入れた当時は④「Cafe No」のオリジナル曲のシンバルに聞き耳を立てていた。こわもて、強圧的な衝撃音を楽しんでいた。今回久しぶりに聴いたらその強力シンバルに寄り添うベースに目がいった。スティーブ・ラスピーナ。随分高価なヨーロッパ産のビンテージ・ベースを弾いていると聞いたが、なるほどその音色は優雅で典雅。この気品に優れたベース。音のお陰で強圧シンバルとのバランスがとれ、面白く聴けたのだと合点がいった。ピアノは情動のはたらきをむりやり表面化せず内省にとどめるもの。
80 3 Way Play / Dick Katz
( RSR CD 127 )
基本を忠実にジャズ・ピアノの王道をゆく、どなたにも推薦できる一枚。ベースとドラムも刺激的に忠実な演奏だ。音について書く。これはバン・ゲルダー録音。ブルーノート盤は社主のアルフレッド・ライオンの要請を受け、あの独特なサウンドが出来たというのが一般の説だ。しかし約30年後のこの盤でもあのブルーノート・サウンドとそっくりの音が出てくる。社主の命というよりバン・ゲルダー自身の主張したい音だったのだとわかる。デジタル時代でも彼の精神は変わらず。
81 Puttin on the Ritz / Lynn Seaton
( "nagel heyer
cd 099" )
当たり前だが、現代にもジャズの伝説を引き継ぐ若手は多い。誰もがブラッド・メルドーを目指すわけではない。ニュース性に乏しいから露出が少ないだけで、この盤のピアノ、ドラムのような達者な若者は多数。そういう人達を見つけて聴く。これがジャズ・マニアの特徴であり、喜びだ。若手を率いるのがベテランのリーダー、ベーシストのリン・シートン。彼の役割はかつてのアート・ブレーキ―だ。①「Bernie's Tune」や⑤「Indiana」などなんの衒いもなく、パワーで力奏する。聴き惚れっぱなし。
82 Undiminished / David Gordon
( ZZCD 9817 )
こういうピアノ・トリオがあるから、ピアノ・トリオが喜ばれる。ピアノ・トリオ・ファンが生まれる。ピアノ・トリオしか聴かない圧倒的ジャズ・ファンが増殖する。こういうピアノ・トリオがあるからオーディオ・ファンがジャズに着目する。ジャズを好んで聴くようになる。他のジャンルにはないドラムやベースのサウンドに驚き、この種の音に目覚め、自分の再生装置の音を変更、向上させたりする。ジャズ・ファンにもオーディオ・ファンにも薦めたい普遍的名作だ。
83 Consolation / Dirk Balthaus
( TR1009 )
ピアノ・トリオも千差万別、一言でくくれない広大な世界がピアノ・トリオの面白さ。それ故にピアノ・トリオ全盛時代が出現したが、これは、これほど旋律性を重視した作品があるか、というほどメロディアスな楽曲ばかりを揃えた一作。どういう旋律かというと、哀しい、愛らしい、ほほえましい、そっと抱きしめたくなるなど感傷的なものが多い。この要素をジャズのマイナス点と捉える人は聴く必要なし。ジャズはセンチメンタリズム。そう信じる人に捧げよう。
84 Strictly Confidential / Jon Mayer
( FSR 5042 CD )
ジャズの根幹と言われるバップをきちんと踏まえたピアノを弾くのがジョン・メイヤーだ。進歩主義の音楽とされるジャズだが、古いもの、新しいもの、両方併存するかたちが望ましい。進歩だけでは味気ない。この盤ではチャック・イズラエルとアーニー・ワイズの二人に注目したい。かつてのビル・エバンスのベーシスト、ドラマーだ。エバンス時代から約40年、エバンスの束縛から逃れ、自由闊達に4ビートを刻んでいる。嬉しそうだ。二人にエバンス世界は苦しかったに違いない。
85 Three Worlds / Flanklin/clover/seales project
( BW3277A )
タイトルの「Three Worlds」通り、スピーカーとスピーカーの間に「3つの世界」が形作られる。聴くより「見て」ほしい。ピアノ、ベース、ドラムス、この三つの像が一緒くたにならず、それぞれ独立して見えるでしょう。三つの像がくっつくと演奏は停滞して聴こえるが、離れると急に躍動をはじめる。これがジャズ演奏の躍動感。ジャズにおける最もあらまほしき姿だ。オーディオ的にも高等技術が要求され、独立像が出現すれば至福の境地とされる。
86 Emily / Classic Jazz Trio
( "PhilTrino
Productions" )
タイトルが良くない。クラシック・ジャズ・トリオとは自嘲的だ。たしかに全編4ビート・ジャズで伝統的なピアノ・トリオ・スタイル。採用曲もお馴染のものばかり。だからといって「私達古いこと演ってます」と卑下する必要はない。むしろ「ニュー・ジャズ・トリオ」だろう。ほとんどのジャズメンが新しいことを目指す中、こうした伝統芸はむしろ新しいものに写る。音質も良く、50~60年代ジャズの現代版と胸を張ってほしい。ベニー・ハリスの⑥「Crazeology」の選曲が珍しい。
87 Capelton Road / Eric Harding Trio
( XXI-CD 2 1567 )
温厚で親しみがあり、いい人だなと思わせる人がいるが、このピアニストはそういうピアニストだ。ピアノのタッチ、進行は理性的だがその中にあたたかさがほの見える。こちらもあたたかい気分で聴く。そういう温暖性はオリジナル曲にも表れていて、⑪「TWICE BLUE」や⑦「SONG FOR JAMES」は暖色系のスタンダードに近い。好ましい。音質はベースとドラムをやや拡大し、その中にピアノをやんわりと内包させたピアノ・トリオの理想型。私の音チェック盤だ。
88 Excursion / David Janeway Trio
( David Janeway Music )
ピアノは知性派。古からず、新しからず、しごく真っ当なもの。2つほめることがある。J・J・ジョンソンの①「Viscosity」、デューク・ピアソンの③「Ready Ruby」など知られざるオリジナル曲をとり入れていること。音が上質である。ドラムのスティーブ・デイビスが録音した。NYのスティーブ・デイビス・スタジオ。スタジオを所有するドラマーなのだ。シンバルの音が最も美しく録音されていて、笑ってしまう。ピアニストのオリジナル曲、4曲もやや理性的ながら悪くない。
89 What a Wonderful World / Marco Detto
( SSCD-3005 )
イタリアのピアニスト。音で聴ける。いや、聴くべき。ジャズの根本要素の一つである「哀愁感」をピアノの音で表現する人。哀愁のある音は彼の作るオリジナル曲にも及んでいる。いや、彼の音が曲を哀愁の色に染めてしまうのだ。哀愁のピアノが嫌いな人もいる。どうしたらいいのか。エディ・ゴメスのベースとレニー・ホワイトのドラムを聴けばよい。二人ともワイルドの一点張り。ゴリンとバシン。リズムの果し合いだ。リーダーより著名なこの二人の共演を聴くだけで価値観最上の一枚。
90 Mostrebú / Joan Díaz Trio
( SJR CD 00030J )
スペインのピアノ・トリオ。だからといって情熱をあけっぴろげにしない。むしろ音楽を沈静化して聴き手を説得しようとしているのが好ましい。ヒゲ面のスペイン男にしては心情がナイーブなのだ。7曲目の「Muma」をオーディオのリファレンス曲にしている。この一曲のみオープンな4ビートのスイング・ナンバーだ。音はややもやついているが、音量を上げると急に鮮やかになりドラムのビートが実に心地良い。このシンバル音も内面的で華美に走らない。それがいい。
91 OMUNIBUS TWO / ernst glerum
( Favorite 5 )
オランダのピアノ・トリオ。一部にこのグループの愛好家多し。全オリジナル曲ながら、はっきりした旋律を持ち、リズムも正しく律動的。そこは買いなのだがピアノが少しずれた感覚で迫ってくる。多少「変」なのだ。ボタンをかけ違えた感じ。しかしその「変」に慣れるとこのトリオ、いきいきと迫ってくる。クセになる。当たり前の、正調ピアノ・トリオが野暮ったく見えてくる。この恐ろしさ。一部に熱心なファンがいる理由はこのあたりのマジックにある。
92 Trio Talk / Lafayette Harris Jr.
( AR009 )
正しくバップのフレーズを編んでゆく中堅黒人ピアニスト。当然ながら興味はどのくらい挑戦的にプレイしてみせるか。今どきのピアノ・トリオ、まともな4ビートの演奏なら暴れてみせるしかない。存分に凶暴である。そこを目がけて聴くことにこのトリオの意味がある。立役者はドラムのウイナード・ハーパー。暴れん坊もいいところ。しかし決してうるさくない暴れ方。どのピアノ・トリオもドラムの勢いがいいと他の二人が必ずチャレンジングになるという証拠がここに。
93 Gone / Kurt Ribak Trio
( "Rodia Records
2108" )
カルフォルニア出身のピアノ・トリオ。土地柄なのか、あせらず、威張らず、肩ひじ張らない極めて穏健な作風だ。リーダーはベーシストでピアノが二人いるという変形。アルバム制作のポリシーはあくまでも曲旋律の魅力をプッシュしてゆこうというというもの。どの曲も、そうかオマエはそういう曲想なのかが分かって旋律好きにはこたえられない。音質も柔らかで、いきり立たずさすがカルフォルニア産。とは言うものの、決して平々平板に堕してはいない。
94 Minor Context / Piero Bassini Trio
( CDH 684.2 )
ヨーロッパでは充分有名なピエロ・バッシーニ。日本での知名度は低い。新しからず、古からず、いつの時代にも通用する王道的ピアノ奏法の人。こういう人がジャズ界ではえてして浮上しない。無念である。一曲目に聴きものがある。「Autumn Waltz」。ピアノとベースがテーマを同じ旋律で奏でる。いわゆるユニゾン奏法。これが恰好いい。ピアノの個性奏法に固執せず、あえてこうした旋律的奏法に目くばりし、いい曲をさらにいい曲化するバッシーニに栄光あれだ。
95 perfectly Frank / Frank Collett
( FSR 5024 CD )
これぞジャズ・ピアノ・トリオの「教科書」。同じ教科書でもビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デビー』は本当は意外に難しく大学クラス向けだがこちらは中学から高校級ファンつまり初心者に適合。まずビートが易しい。ジャズの基本、4ビート。妙な革新性はさらさらなし。選曲はクリフォード・ブラウンの「Joy Spring」やエディ・ダーハムの「Topsy」などジャズメン・オリジナルの展覧会といった塩梅。これがスタンダードとは違った趣で曲の旋律を学ぶ絶好の材料になっている。「ジャズの曲」とはこういう趣の曲なのだ、ということ。
96 Little Peace / Serge Delaite
( AS 109 )
吉祥寺の洒落た雑貨屋さんの壁面に澤野商会のCDが飾られている。売り物。ジャズに関係ない人も買ってゆくそうだ。ジャケットのセンスの良さにもそそられるのだろう。このCDなどは最も買われてしかるべき一枚だ。ピアノが柔らかで優しい。ベースもドラムスも笑顔。バッハの曲が「Invention No. 8」など3曲も入っている。シャルル・トレネのシャンソン曲も選択されている。それでいてジャズ・ファンからも小言が出ない。納得させられる。そこが澤野CDの威力だ。
97 inner dance / Piero Bassini
( CDH 750.2 )
イタリアのスプラッシュ・レーベル。レコード会社もミュージシャンもCDのタイトル付けには知恵をしぼる。一汗かく。いちばん出来の良い曲をそのままタイトルにする。これがベストに潔い。それが、このCDだ。まず第一にこれを聴いて聴いてくれと。「Inner Dance」3曲目に入っているがなぜ1曲目に持ってこないか。それはやり過ぎだ。程合いを心得たイタリア人たち。ピアニストのおだやかな心模様が行きつ交じりつする5分07秒。全8曲、40分の演奏時間に好感を持つ。
98 Because of you / JOS VAN BEEST TRIO
( AS 006 )
いちばんの聴きどころはピアノの音色である。音色という無機的な言葉では間に合わない。当然、ネイロである。とにかくこのピアノのネイロはただごとではない。これはネイロ・イコール響きに直結するがこれだけ響きの美しいピアノを聴くと他のピアノがすべてボケてきこえ、ピアノという楽器は響きが最重要、他は要らないと言いたくなってくる。響きが最大限に発揮される心のこもったミディアム・スローの曲がよく、「In a sentimental mood」「残りの人生」の2曲がベスト・トラックになった。
99 Road Story / Igor Gehenot Trio
( IGL 232 )
スタンダード曲、ゼロ。すべてオリジナル。近頃の欧州産にありがちな作品だが、聴き手を意識した作りになっているのがいい。抽象性を突出させ、リスナーを煙に巻こうとする策略のないのがいい。曲によって律動性を多用し、具体的な形で冒険心に富む。リスナー泣かせの曲も忘れていない。7曲目の「Nuits d'hiver」がそれで、心情に刺し込んでくる。沈んだ気分の時、ふいに旋律が頭をもたげたりする。ベースが曲によりぐいとばかり冒険的に沈下し、このCDの価値を高めている。
100 Sensory Perception / Gary Fogel Trio ドラム・リーダーのピアノ・トリオだが、演奏にその特徴があっていいと思う。ドラムはエンの下の力持ちが美徳とされた時代があったが、今やドラムは楽器の王様にのし上がりつつある。ドラム上位のジャズがジャズらしくて面白い。と言ってこのCDのドラマー、ドラム・ソロを派手にやらかすわけではなく、きちんとバッキングしつつ、ドラムという楽器の持つ鮮鋭感を極めてシャープに表現する。そこが聴きどころだ。鮮度感を十分に表出したレコーディング技師もほめたい。
101 I love bebop / Sir Roland Hanna
( RMI 901 )
名前は知っていても、ほとんどのジャズ・ファンがじっくりと聴いたことがないピアニストがローランド・ハナだ。かく言う私も大きな口は叩けない。今回が反省のいいチャンスだった。彼の晩年作ながら衰えはみじんも感じられない。一口で言って彼のピアノのどこがいいかって、それは人の気持ちを包み込むちからだ。うむを言わせず腕に抱きかかえてしまう。ふと気付くとピアニストに抱かれてうっとりしている。あ、今おれ、何してるんだ?「あなたは恋を知らない」で完全に夢遊状態。
102 LIFE IS TOO SHORT / JUAN ORTIZ TRIO
( ER 057 )
音のテスト用に使っている。ライブ盤だからまずライブらしい、いい意味での「荒っぽさ」が欲しい。ライブだからドラマーがついエキサイトしてシンバルを大きく叩く。その大きさと瞬間的なバシーンという突出感がバランスなどという通常言語を通り越して出るかどうか。シンバルは「異常」でもピアノは平常心を保っていなくてはいけない。どっしりと構えていてほしい。低いピアノの左手よりさらに低くベースが下降沈下してもらいたい。あれやこれやで満点を獲得するケーブルなどそうあるものではない。
103 Natural Language / Tim Lapthorn
( srcd 9-2 )
イギリスのピアノ・トリオ。例えば一曲目。試聴機で聴いたとたん買いを決めるだろう。正統派ピアノ・トリオ・ファンの心をわし掴みにする正統派バップ曲。バップと言っても広域的なモダン・ジャズという意味だがとにかく音楽性に迷いがない。あれもこれも、ではなく、一本筋を通した格好よさに惹かれる。押しが足りなくないか。充分だ。ドラムとベースが、現代風に賑やかに伴奏を付ける。昔と違ってドラムの音数が多い。それが現代風なのだ。少しも古さを感じない。音質もよい。
104 As Long As There's Music / Denny Zeitlin
( TKCV 35106 )
105 Debut / Thomas Ruckert
( JHM 3630 )
106 Standards / Rob Schneiderman
( RSR CD 126 )
107 Fluide / Baptiste Trotignon Trio
( Y 225 099 )
108 Songs without words / Jurek Jagoda Trio
( SOU-002 )
109 Generations / Georges Paczynski TRIO
( ASCD 060401 )
110 Blue in Green / Kris Bowers
( MYCJ30580 )

寺島靖国・選(ジャズ)【Part.2】はこちら(2016/8/1~) 
寺島靖国

寺島靖国(てらしまやすくに)

1938年東京生まれ。いわずと知れた吉祥寺のジャズ喫茶「MEG」のオーナー。
ジャズ喫茶「MUSIC BIRD」
PCMジャズ喫茶スーパーアーカイヴ